写真は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。
いうまでもなくこれは、歴史は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として、というフレーズの一部を置き換えたものである。
この置き換えが当てはまるような写真はあるだろうか。最近の写真では、7月にトランプ前大統領が狙撃されたときの写真がそうかもしれない。
演説中に銃撃された共和党のトランプ氏は、右耳を負傷し血を流しながらも群衆に向かって果敢にこぶしを突き上げてみせた。
その瞬間をとらえた写真の背景には、絶妙な位置に青空にはためく星条旗が写っていた。撮影したのは、ピュリツァー賞を受賞したこともあるAP通信のエバン・ブッチ氏。「硫黄島に掲げられた星条旗」の写真や、ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」といった、よく知られているイメージを思い起こさせる一枚が撮影されたのは、たんなる偶然ではなかったことも話題になった。
この写真は、歴史的な一枚になるだろう、という読解が、ソーシャルメディアなどを賑わせた。そのなかには、この一枚が歴史を変えるだろう、という読解もあった。トランプ氏が大統領選に勝利することを後押しする決定的なイメージになる、というわけだ。
そして、トランプ前大統領は大統領選に勝利し、トランプ次期大統領となった。
写真は繰り返す、歴史は繰り返す。
そんなふうに語りたくもなるが、果たしてそうだろうか。
トランプ氏の襲撃事件の後、民主党のバイデン大統領は大統領選から撤退し、後継候補者にハリス副大統領が指名されることになった。当初、優勢が伝えられることもあったハリス氏だが、結果的には、共和党のトランプ氏が圧勝した。
写真は繰り返す、一度目は悲劇として、二度目は喜劇として。
このフレーズに、なんとか現実をうまく当てはめて語ることも不可能でないだろう。しかし、そんなことをしたところで、アクチュアリティがある読解にはならなかっただろう。というのも、大統領選の結果が出るころには、銃撃されたトランプ氏の写真はすっかり過去のものになっていたように思えたからである。少なくとも、大統領選の結果と銃撃されたイメージを直接的に結びつける読解が、再び注目されることはなかったように感じられた。
写真は繰り返す? 歴史は繰り返す?
写真は繰り返す。銃撃されたトランプ氏の写真も、幾度も幾度も繰り返しメディアを賑わせた。だが、あまりに繰り返された過剰さゆえに、役割を終えてしまった、というわけではない。あるいは、あまりに繰り返されて、消費されてしまった、というわけでもない。そうではなく、繰り返しているうちに、いつの間にかフワっと消えてしまったように思えるのだ。
ある朝目覚めたら、別の世界にいて、誰もそれに言及することがなくなっていたかのように、アクチュアリティが消えていた。
繰り返すことは繰り返す。
一度目は? 二度目は?
そもそも、写真を繰り返すことに、一度目も二度目もなかったのかもしれない。
いったい誰が、一度目の写真を見たことがあるというのだろうか?
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