考へるピント

64 デジカメ

2025/04/14
上野修

最近、デジカメが流行っている、という。
 

いま、これを読んで、みなさんはどんなカメラを想像しただろうか。
 

デジタルカメラ初期だったら、デジカメというのは、フィルムではないカメラ全般のことだろう。スマートフォンやデジタル一眼レフが普及してきた時期なら、そのいずれでもないデジタルカメラのことを指したかもしれない。
 

現在ではどうだろうか。
 

考えてみると、デジカメという言葉を使わなくなってきている気がする。カメラといえばデジタルカメラのことになり、フィルムを使用するカメラはフィルムカメラや銀塩カメラというレトロニムで呼ぶようになってひさしい。

 

ひょっとしたら近頃は、カメラという言葉自体、だんだん使わなくなってきているのかもしれない。カメラといえば、ちょっといいカメラのことであり、それはつまり、ミラーレス一眼のことになる。写真を撮るのは、スマホかミラーレスなのだ。
 

では、最近流行っているデジカメとは、どれのことなのか。
 

それは、かつて、スマートフォンやデジタル一眼レフのいずれでもないカテゴリに分類されていた、コンパクトデジタルカメラ、いわゆるコンデジのことらしいのである。
 

そういえば、コンデジをすっかり見かけなくなった。高倍率ズームのコンデジ、高級コンデジ、防水コンデジといった、スマホでは撮れないような機能を持っているコンデジはあるものの、普及価格帯の手軽に撮れるコンデジのカテゴリーは、スマートフォンにほぼ飲み込まれたといえるだろう。
 

かつて一世を風靡したコンデジがデジカメと呼ばれて流行っている理由は、画像のレトロ感らしい。それに加えて、わざわざカメラを持ち歩く新鮮さもあるのだろう。レトロなカメラを持ち歩き、レトロな写真を撮る、というわけである。たしかに、現在の若い世代が子どものころの写真は、コンデジで撮られたものが多いだろうから、ノスタルジーを感じても不思議ではない。
 

不思議ではないが、ちょっと前まで最新だったものが、あっという間にレトロ感を醸し出すものに変わってしまったことには、なんとも違和感がある。
 

家のどこかで、すっかり使われなくなったコンデジを見つけ、ひょっとしたらまだ使えるのかもしれないと思い、メモリーカードを取り出してみると、十数年前の画像が残っている。なかには暗くてザラザラした画質の室内や、フラッシュが強すぎて白飛びしたスナップがあり、スマホの写真とは違った写り方が面白い。
 

充電器をやっと見つけてバッテリーを充電してみると、劣化しているためか、あっという間に減っていってしまうが、それでも少しは撮影できる。そもそも、現在のメモリーカードはなぜか使えないし、入っていたメモリーカードで撮影できる枚数も限られている。
 

こんなストーリーを想像してみると、いまデジカメを使う楽しみは、フィルムカメラをを使う楽しみに似ているのかもしれない。フィルムカメラで撮影したら、データだけ受け取ってフィルムは要らないという人も少なくないそうなので、それなら、ほとんど同じような経験といっていいだろう。
 

このようなレトロ感やノスタルジーを味わえる世代は限られているだろうから、現在のささやかなデジカメブームは儚いものになるのだろう。
 

このブームが静かに消えていったあと、デジカメという言葉はどんなカメラを指すようになっているのだろうか。

 

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