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考へるピント

66 続 スナップ

2025/05/12
上野修

同じストリートスナップという言葉でも、ファッションにおけるストリートスナップと、写真愛好家にとってのストリートスナップでは、用法がまるで違うが、それだけでなく、両者を写真で判別する具体的な基準がないわけではない。
 

それは、縦位置と横位置の違いである。
 

街行く人たちの服装やコーディネートをとらえるファッションにおけるストリートスナップの場合、画面に全身を入れようとするから、縦位置がメインになる。そしてその結果、ポートレート寄りの、いわゆるポートレートスナップになっていく傾向がある。
 

それに対して、写真愛好家にとってのストリートスナップの場合、即興的に撮影するのだから、横位置が多くなっていくだろう。
 

ただし、ファッションにおけるストリートスナップでも、数人が並んでいる横位置もありうるだろうし、即興的に撮影するストリートスナップでも、縦位置もありうるから、断言はできない。
 

このように横位置、縦位置が問題になるのは、35mm判が前提になっているからだろう。3:2という比率は絶妙で、横位置は横らしく、縦位置は縦らしくなる。この、らしくというのがミソで、横の方が視覚として自然だとか、縦の方がバストアップや全身を自然に撮れるといった理屈を招き寄せる。
 

じつのところ、横にしても縦にしても不自然な比率(というのがいいすぎなら比率を意識させる比率)なので論争的になっていくのだろう。もちろん、こうした論争がいけないわけではない。結論が出ない問題を延々と議論するのは、カメラや写真を愛好する愉しみのひとつですらあると思う。
 

しかし、熱くなりすぎてもいけないので、横位置スナップをヨコスナ、縦位置スナップをタテスナと呼んで、少しやわらかな語感にするのはどうだろう。ヨコスカをヨコスナる、とか、タテイシならタテ、とか、ダジャレっぽくも使える。斜め構図スナップの場合には、ナナスナになってしまって語呂がよくないが、書いた感じは面白いのでタイトルなどに使えそうである。
 

すっかり脱線してしまったが、こうした脱線も写真愛好の一部であっていいはずだ。写真史的にも、チョロスナなる言葉が議論を加熱させていたことがある。
 

チョロスナとはなにか。と、あらためて考えてみるとよくわからない。検索してみても、チョロっと見たとか、チョロっと行ったとか、チョロいとか諸説ある。しかし、正確な意味がわからなくても、なんとなくわかってしまうのが、この言葉がウケた理由でもあるだろう。
 

少し長くなるが、具体的な用例を見てみよう。

 

 リアリズムは自然主義ではない。ところが現実には、リアリズムは自然主義と混同され、すりかえられている。そして僕がチョロスナと名付けるところのスナップ写真がいわゆるリアリズムの作品として氾濫している。チョロスナは自然主義である。リアリズムとは似て非なるものである。
 
だからアンチ・リアリズムの陣営からリアリズムとはスナップ写真のことではないかと悪口を言われることになり、もっと頭の悪い奴には、スナップ写真でなければリアリズムではない、と思い込ませたりすることにもなる。
 
僕はリアリズムの方法論として、モチーフとカメラの直結、ということを最初に打ち出したい。次いで、絶対非演出の絶対スナップ、ということも打ち出した。リアリズムの方法論としては、少なくとも抽象的には、それにつきる、と言っても言いすぎではない。
 
それはすべてチョロスナとはまったく反対のものを要望していたのである。だが、それが未熟と誤解の結果の作品にせよ、チョロスナはチョロスナなりに、あの古風にして反動的なサロン・ピクチュアとの闘いに、歴史的な役割は充分に果した。そして、チョロスナしか出来ないでいるアマチュア諸君といえども、おのがじしチョロスナに満足しているわけはないであろう。
 
(土門拳「リアリズムは自然主義ではない」『カメラ』昭和二十八年十二月号 月例総評)

 

リアリズム、自然主義、チョロスナ、スナップ写真といった言葉が相互に関連しつつそれぞれを定義付けているが、そのなかでチョロスナはほとんど罵倒に用いられている。現在だったら、炎上覚悟でいわせてもらいます、というという枕詞付きで使われそうである。
 

とはいえ、チョロスナという言葉は、どこかかわいらしく、憎めないところがある。罵倒するのが今日風ではないとしたら、チョロスナの反対を肯定的にいう呼称、たとえばガチスナとかマジスナという言葉も交えて相対化してみるといいかもしれない。
 

かつて罵倒されていたチョロスナも、いまではむしろ主流になっているような気もするし、同時に、ガチスナとかマジスナだと思われる写真にも根強い人気がある。
 

タテスナでガチスナのストリートスナップは、はたしてスナップなのかポートレートなのか、とか、あえてチョロスナでストリートをマジスナするならヨコスナ一択だろう、とか、わかるようなわからないような議論をしてみるのも、また一興ではないだろうか。

 

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