top コラム考へるピント27 1978年のポスト・モダン

考へるピント

27 1978年のポスト・モダン

2023/11/13
上野修

1978年にデビューしたサザンオールスターズの楽曲「勝手にシンドバッド」というタイトルが、すでに大ヒットしていた沢田研二の「勝手にしやがれ」(1977年)とピンク・レディーの「渚のシンドバッド」(1977年)からとられていることは、よく知られているだろう(現在では、志村けんが先に「勝手にシンドバッド」といっていたことも、よく知られているかもしれない)。
 

しかし、当時「勝手にシンドバッド」というタイトルが、さほど違和感なく受け止められていたことは、意外と忘れられているのではないだろうか。
 

「勝手にシンドバッド」は、既存のヒット曲のタイトルを借用しているだけでなく、タイトルは歌詞の内容と関係がない。関係がないというか、歌詞が支離滅裂(と当時は思われていた)なので、関係あるかどうかも関係ない。
 

そもそも「勝手にしやがれ」は有名な映画のタイトルでもあるし、「渚の」は曲名の常套句である。つまり、そこに深い意味はない。
 

ポスト・モダン的にいえば、ここではシニフィアンが浮遊している。
 

とはいえ、1970年代末、ポスト・モダニズムは、まだまだ日本には浸透していなかった。ジャン=フランソワ・リオタールの『ポスト・モダンの条件』が出版されたのが1979年、翻訳書が出たのが1986年である。
 

日本のポスト・モダンの潮流に大きな影響を与えた浅田彰の『構造と力』が出版されたのが1983年、若者がファッションとしてこの本を持ち歩き、社会現象にまでなったが、お茶の間まで入り込むことはできなかった気がする。
 

そう、当時はお茶の間というものがあったのである。お茶の間とは、家族がチャンネルを奪い合う俗な空間だ。そのお茶の間においてこそ、「勝手に」や「シンドバッド」や「胸さわぎ」というシニフィアンが浮遊していた。「の腰つき」と聴き取れず、「のこしつき」というシニフィアンも浮遊していたかもしれない。
 

「勝手にシンドバッド」が流行ったのは、カメラ的にはどんな時代だったのだろう。
 

世界初の両優先式AE一眼レフのミノルタXDの登場が1977年、両優先に加えてプログラムAEを搭載したキヤノンA-1が1978年。自動露出は絞りとシャッタースピードの間を浮遊し、プログラムを生成する。ならば、プログラムAEは弁証法的なのだろうか。否、プログラムこそ初源的であり、然々……、などという解釈ができなくもないだろう。
 

世界初フラッシュ内蔵カメラのピッカリコニカことコニカC35EFの登場が1975年、世界初AFカメラのジャスピンコニカことコニカC35AFが1977年、「ストロボ屋さん、ごめんなさい」「ずっとピントが合っちゃう」という井上順のコミカルなテレビCMも、ピッカリとジャスピンが浮遊していて、なんとなくポスト・モダンなのであり、云々……、と、いくらでももっともらしいことがいえてしまいそうだ。
 

それはそれとして、まさにこの時代、カメラは子どもでも使えるものになっていったのである。当時、子どもはガキと呼ばれたりもしていた。ガキとは、度をすぎてふざけている子どもであり、「なごり雪」(1976年)という楽曲では季節すらふざけすぎていた。いうまでもなく、漫画『がきデカ』(1974年〜)もあった。
 

ギャグとナンセンスはそこここに満ち溢れており、俗っぽさはお茶の間からはみ出して、ときに低俗さになったりもしたが、いずれにせよ、そこに深い意味がないことなど誰も気にしていなかった。そこでの子どもたちは、ポスト・モダンという言葉も知らないまま、ポスト・モダニズムを受け入れる悪ふざけを育んでいたのかもしれない。
 

ところで、日本ではカタカナ言葉の中黒がとれたときに、本来の意味が失われる、と批評家の誰かがいっていた気がする。ポスト・モダンという言葉が、ポストモダンになったときには、もはや日本の文化に浸透している、というわけだ。そんな説を思い出したので、鋭い批評に敬意を表して、ここではポスト・モダンと表記してみた。
 

さて、写真の話も少ししておこう。1978年は、遥か彼方のニューヨーク近代美術館で、ジョン・シャーカフスキー企画の『鏡と窓』展が開催された年でもある。同展は『カメラ毎日』1978年10月号で、カタログのテキストの抄訳を含む特集が組まれている。紹介された『鏡と窓』展もまた、日本の写真表現におけるポスト・モダン、あるいはポストモダンとの来たるべき出会いを育んでいたのかもしれない。

 

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