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考へるピント

15 常時接続とモバイルの話

2023/04/03
上野修

原稿の仕事で、メールでのやりとりがメインになったのは、2000年から2005年くらいだろうか。そうなってくると、当然、いつメールが届いたのか知りたくなってくる。そのためには、インターネットに常時接続しているか、なんらかのかたちで通知を受信しなくてはならない。
 

現在では、インターネットというものは常時接続しているのが当たり前なので、常時接続ではない状態の方が、想像しにくいかもしれない。だが、かつて、電話をかけて接続していた時代があったのである。そのころも、特定の時間帯のみ繋ぎっぱなしの状態を実現する、「テレホーダイ」というサービスはあった。その時間帯とは夜11時から翌朝8時で、価格は月額1800円。使用者の睡眠不足が社会問題になりかけたようなサービスであった。繋いだまま寝落ちしてしまい課金されるといった悲劇も生んだ。
 

常時接続の定額サービスは、法人向けのものしかなかったが、「IP接続サービス」というデジタル回線(ISDN)を利用した試験サービスが1999年にはじまった。はじめの価格はたしか月額8000円くらいで、私はかなり早い時期に申し込んでいたと思う。これを使うための定価5万円くらいのヤマハのルーターを、3万円くらいで買った。なにかとお金はかかったが、常時接続を利用できるなら、当時はそのくらいの価格でも手頃だったのだ。
 

段階的に値下げしつつ、2000年には「フレッツ・ISDN」と改称して正式サービスがはじまった。最終的には3000円台の使用料になっていたと思う。しばらくこの環境を使うのだろうと思っていたところ、2001年にADSLサービスの「Yahoo! BB」が鳴り物入りで登場した。「フレッツ・ISDN」の接続速度が64Kbpであるのに対し、「Yahoo! BB」の最大速度は8Mbps、しかも月額2500円くらいということで、安くて早かった。
 

そんなにうまい話があるのかなと思いつつ申し込んでみたところ、試験サービスの段階から使うことができた。駅前でモデムを配ったり、なにかと話題になり、トラブルも少なくなかったようだが、私に関しては、問題なく快適に使うことができた。うまい話があったのだ。
 

ISDNを使うためにアナログ回線をデジタル回線に切り替えたり、ADSLを使うためにデジタル回線をアナログ回線に戻したり、といった細かいことを書きはじめるときりがないので、常時接続の話はこのあたりにしておこう。
 

さて、問題は外出時にメールが届いたことを知る方法である。携帯キャリアのJ-PHONE(のちのボーダフォン、現在のソフトバンク)では、スカイメールというショートメッセージサービスがあり、パソコン宛のメールを転送して受け取ることができた。文字数制限があるので、冒頭しか読めないが、メールの着信通知として使うことができたわけである。
 

スカイメールは当初、受信無料、送信は一通10円だった気がする。送信は3円くらいまで値下げされたような記憶がある。のちに送受信とも有料だが全角3000文字まで扱うことができるロングメールができて、携帯のみで長文が読めるようになった。この時期は、各携帯キャリアが独自仕様のメールサービスを展開した混乱期でもある。互換性が乏しかっただけでなく、サーバトラブルでメールが数日遅延するようなこともあった。
 

携帯のみで長文が読めるとはいえ、小さな画面では実用性に限界がある。以前書いたようにNECのモバイルギアや、IBMのWorkPad(Palm)などを使ったりしたが、けっきょくはまだまだ重かったノートパソコンを持ち運ばないと仕事にならなかった。いや、パソコンを持ち歩いてもデータの同期をどうするかという問題があった。クラウドサービスがない時代は、データをコピーしないと別のパソコンで作業できない。メールもIMAPではなくPOPだったので、同期しなかった。
 

こうした背景を踏まえると、手のひらのなかである程度パソコンと同じ環境を使用できるiPhoneや、デスクトップパソコンとノートパソコンとスマートフォンの環境を同期できるクラウドサービスが登場した意味の大きさがわかるだろう。
 

とはいえ、原稿の執筆は未だにキーボードやマウス、トラックパッドといった機器に縛られている。写真の撮影がシャッターボタンに縛られているように、そうした手と機械の結びつきが、かろうじてなにかを作り出している感触を生み出している、といえるのかもしれない。

 

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