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考へるピント

70 その場所へ その1

2025/07/07
上野修

その場所へ向かうことに決めたのは、その日の朝だった。
 

前日の夜は疲れ切っていて、とにかく早く寝ようと思っていたが、じっさいには寝ようとする前に寝ていたようで、めずらしく熟睡し、早朝に目が覚めると、思いのほか身体が軽かった。
 

もしかしたら、午前中から行動できるかもしれない。
 

ベッドからiPhoneに手を伸ばし、Googleマップにマークしておいた映画のロケ地になった街へ行く所要時間を調べてみたら、一般道でも1時間だった。
 

Googleマップには、そこからそれほど遠くなさそうな位置にも、数箇所マークしてある場所がある。ロケ地になった街からその場所へは30分くらいで行けそうだ。
 

往復で3時間。遅めの午後に予定があったが、その場所まで行っても戻ってこれそうだ、ということがわかったら、急に乗り気になってきた。
 

10時に出発することを目標にしつつ、検索してさらに数箇所をマーキングして、朝食をとり、準備すると、10分前にはホテルの駐車場に降りることができた。
 

市街地はやや混雑していたが、ロケ地へと向かう一般道は空いていて、丘やカーブなどの変化もあり、気になった場所でたまに写真を撮ったりしながら、のんびりドライブを楽しんだ。
 

ロケ地になった街に近づく。
 

坂になっている橋を下っていくとスナックがあり、街に入ったらしいことがわかった。どこに車を停めても大丈夫そうではあったが、駅のまわりをゆっくり流していたら、広い駐車場があったので、そこに車を停めて少し歩くことにした。
 

休日なのに、というか、休日だから、なのか、ほとんどの店が閉まっている。スピーカーから流れている商店街の宣伝放送が、街の静寂をきわだたせている。それを動画で撮っっていると、時間が流れているのか止まっているのか、わからなくなる。
 

名所になっているらしいロケ隊が食事をしたという食堂は、すぐに見つかった。だが、お腹も空いていなかったので入らなかった。
 

ふたたび車に乗り、建造物などいくつかのスポットをまわる。
 

ロケ地を目指してみるのなら展望広場に行ってみるべきなのだが、それほどの時間もなさそうだというのを口実に、長い階段を登るのはやめておいた。食堂も展望広場も、またいつか来ればいい。
 

もうひとつの目的地だった、その場所へ向かう。

 

途中、とても印象的な映画館の建物を見つけ車を停めた。検索してみると、ここもかつてテレビドラマのロケ地になっており、そのさいに使われたのをきっかけに修復されたらしいことがわかった。できすぎた風景だったので、一枚だけ写真を撮り移動する。
 

そのほかにも気になった建物などを見つけると、車を停めては写真を撮った。とはいえ、ゆっくり撮る時間はないので、どうしても数枚撮っては移動することになる。こうした撮り方はいかがなものかと思うが、かといって、撮らないのも心残りになる。
 

じつのところ、その場所を訪れるのには、少し葛藤があった。
 

行かない方がいいのかもしれないと思っていたらから、しっかり調べておくこともなかったのだろう。途中で写真を撮っていれば、その場所に着くのが少しは遅くなる、という気持ちもあり、幾度となく車を停めたのかもしれない。
 

だからといって、ここまで来て、戻るという選択もなかった。

 

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