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考へるピント

23 日常的な瞬間

2023/09/18
上野修

暑い暑いというなというが、今年の夏も暑かった、ということを、どうしても書いておきたい。
 

東京都心は、5月17日に今年はじめての真夏日(30度以上)となり、7月6日から真夏日が続いていた。9月4日に途切れるかと思われたが最高気温30.3度となり、9月8日に台風13号の影響で雨が降ったため最高気温25.2度で、ようやくストップした。東京の真夏日はなんと64日続いたことになる。
 

最低気温の方は、9月4日に25度未満となり熱帯夜にならなかったが、24.5度だったので、それほど涼しいわけでもなかった。こちらは、32日連続という記録である。
 

東京の真夏日は、9日の最高気温が29.6度、10日は33.0度ですぐに復活したまま30度以上が続き、13日は今年81日目の真夏日となり、年間の真夏日最多記録を大幅に更新し続けている。陽射しを避けすぎて、陽射しを忘れるくらい暑い。
 

さて、そんな13日深夜2時(日本時間)に、恒例のアップルのスペシャルイベントで、新しいApple WatchとiPhoneが発表された。ちなみに13日深夜2時の気温を見てみたら23.8度だったが、湿度が91%なので、体感は蒸し暑い夜だった。以前は新iPhoneの発表は秋の風物詩だったが、最近は残暑厳しい時期のイベントになっている。
 

これを見るのも惰性になりつつあるが、製品の物語性を知るには最適なので、ノリノリなノリに乗せられつつ今年も見た。
 

今回の発表でも、カメラは大きなウェイトを占めていた。ビジュアルでも、何度もレンズの出っぱりが強調されていた。デザイン的には邪魔以外の何物でもないようにも見えるが、フラットにできないのならかっこいい特徴にしてしまおうということだろうか。
 

iPhone 15のカメラのプレゼンテーションは、次のようにはじまった。

 

iPhone 15は全く新しい先進的なカメラシステムを備えています/すばらしい写真を撮れるよう設計されています/ユーザーが生活の日常的な瞬間に誰もが魅力的な写真をより簡単に撮れる方法を私たちは常に探しています

 

なにげない日常は、おそらく写真でもっとも人気があるモチーフだが、それを誰もが簡単に撮れるようにするためのテクノロジーだというわけである。以下、メモしたフレーズを引用してみよう。

 

すばらしい48MPメインカメラを搭載します/シャープな写真やビデオを日々撮影できるよう設計され/クアッドピクセルセンサーと/素早いオートフォーカスのための100% Focus Pixelsを備えています/この48MPカメラは幾つかのエキサイティングな機能を可能にします/例えば明るい晴天の日に屋外にいれば/48MPの写真で解像度を最大にして/山々や緩やかな陵地帯や個々の家の屋根板まで細かいディテールを捉えられます/ディテールと光をバランスよく取り込むのが最適です/そこでコンピュテーショナルフォトグラフィを使いメインカメラを次のレベルに引き上げます/センサーが4つのピクセルごとにより大きな2ミクロンピクセルにまとめ美しく光を取り込みます/そしてPhotonic Engineが光の取り込みに最適化された画像を捉え超高解像度の画像と組み合わせ豊かなディテールを実現します/その結果24MPの写真になり驚くほどの画質で解像度は2倍になります/光とディテールのバランスを完壁に整え実用的なファイルサイズなので保存や共有に最適です/これだけのピクセル数があることで解像度を上げる以上のことが可能です/センサーの中央部分の12MPを使うことで新しい2倍望遠オプションを可能にし写真と4Kビデオを光学品質で撮影できるようにしました/まるで3つ目のカメラがあるようです/場面をより近くに感じられるようにし/同じf1.6の絞り値とセンサーシフト光学式手ぶれ補正によって明るさの足りない場面でもすばらしい写真が撮れます/ズームアウトして場面全体を捉えるのもズームインして完璧なクローズアップを撮るのも全て光学品質で可能になります

 

ポートレートモードは刷新され、ナイトモードも進化したという。

 

今年iPhoneに次世代のポートレートが登場します/これからは友人や家族の魅力的なポートレートを更に簡単に撮影できます/ポートレートにより豊かな色彩と低照度での優れた性能が加わります/例えばこちらです/鮮やかな色彩とディテールにあふれ豊かな深度マップを使用して美しいボケ効果を生み出しています/お利回な犬がおやつをねだっているこのポートレートではiPhoneがゼロシャッターラグで完璧な瞬間を捉えました/一瞬でも遅れたら同じにはなりません/ポートレートモードへの切り替えを覚えておく必要がないからです/機械学習を使いフレームの中に人物がいることを認識して豊かな深度情報を自動で取り込むのでその場ですぐに魅力的なポートレートにしたり/後から写真アプリでも可能です/犬と猫も認識するのでiOS 17のペットのアルバムに自動でポートレートが増えます/新次元のクリエイティブコントロールのためのフォーカスと深度コントロールを導入します/この超高解像度のポートレートをご覧ください/これからは写真撮影後に フォーカスを1つの彼写体から別の被写体に変えられます/写真に更に多くの選択肢を提供し撮影の瞬間に考えることを減らします/暗い時のナイトモードも進化しています/例えば屋外で撮影されたこの写真はシャープなディテールと鮮やかな色彩で彼の肌の質感や1本1本の髪や更にシャツに落ちる葉の影まで美しく捉えています/ライティングが明るい時や均一でない時は最新のスマートHDRが鮮やかな色彩とより実物に近いスキントーンのレンダリングで空と被写体の両方を起えています/TrueDepthフロントカメラで撮ったカラフルなセルフィー写真を見てください/新しいスマートHDRを使い彼女のシャツの深い色合いの紫と後ろのイスの明るい赤を美しく捉えています/より明るいハイライイトとより豊かな中間色で/彼女のドレスの豊かな色合いと光が彼女の頬に当たる様子が実物と同じように見えます

 

上位機種のiPhone 15 Proでは、当然さらに高性能なカメラが搭載され、その性能のプレゼンテーションが続いたが、長い引用はこのくらいにしておこう。
 

「プロ向けのカメラシステムはユーザーがProモデルを選ぶ大きな理由です」「プロのユーザーに新しいクリエイティブなオプションを与えます」というふうに、プロ向けのモデルであることが堂々と随所で強調されたのが印象的だった。iPhone 15からUSB Type-Cケーブルでの接続となり、iPhone 15 ProはUSB 3に対応したので、Capture oneを使って撮影し48MP ProRAWを直接Macに転送することもできるという。これは「現代のハイペースなニーズに合ったプロのスタジオを簡単に作れます」と表現されていた。
 

なんだかよくわからないくらいすごいらしいスペックの強調、それを使う簡単さ、そこから生まれる写真のすばらしさで織り成されたプレゼンテーションは、かつてのカメラやフィルムの広告を彷彿とさせるものでもある。内容はもちろん革新的な現在のテクノロジーだが、パターンはオーソドックスなものに感じた。
 

多くのカメラ愛好家にとって、スマートフォンのカメラはカメラのようなものだろうが、いまや一般的にはスマートフォンのカメラがカメラになりつつある、というか、すでになっているのかもしれない。旧来のものを指すためにあとから考案された言葉をレトロニムという。デジタルカメラの一般化によって、フィルムカメラや銀塩カメラというレトロニムが生まれたが、スマートフォンのカメラではない従来のカメラを指すレトロニムが生まれるのも間近なのかもしれない。
 

そして、そうこうしている間に、写真というものは、多くの写真愛好家がイメージするあの写真ではなく、スマートフォンのなかにあるものになりつつある、というか、すでになっているのかもしれない。
 

日常的な瞬間に……誰もが魅力的な写真を……日々撮影できる……すばらしい写真が……完璧な瞬間を捉えました……美しく捉えています……実物と同じように見えます……、といったフレーズを聞いているうちに、iPhoneはいわば写真を内側から塗り替えてきたのか、という奇妙な感慨を覚えた。iPhoneで写真を撮っているつもりが、それと気づかぬうちに、コンピュテーショナルフォトグラフィによって写真という概念を吸い込んできたのである、といったらいいすぎだろうか。
 

ところで話は変わるが、翌日の14日には、阪神タイガースが11連勝で18年ぶりのリーグ優勝を決めた。優勝という言葉を口に出さず「アレ」と表現し続け、「アレ」が流行語になった。
 

そんな9月の中旬、新型コロナウイルスの感染者は増加傾向で、オミクロン株から派生した新変異株EG.5(通称エリス)が流行し、第9波は第8波のピークに迫りつつあるという。そもそも第何波がいつなのか忘れつつあるが、第6波や第7波が昨年(2022年)、第8波は昨年末から今年(2023年)のはじめにかけて、5月ころからじわじわ増加しているのが第9波ということになるらしい。
 

こんなふうに数字や時期を書き連ねてみても、暑さもコロナも記憶に残らないかもしれないが、なにか書き連ねる気持ちはあったという日常の記録にはなるかもしれないので、あえて記しておく次第である。

 

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