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考へるピント

13 アーカイブの夢

2023/01/23
上野修

以前は、あまりなじみのない言葉だったアーカイブという言葉も、すっかり気軽に使われるようになってきた。そして、その分、重みがなくなってきた気がする。
 

かつて、アーカイブという言葉は永久という言葉とどこかで結びついており、大切なもの、重要なものは、永久に保存されるべきだと思われていたように思う。
 

アーカイブに関していうなら、写真とデジタルは相性がいいようにみえた。デジタル化すれば保存場所に困ることはないし、画像が劣化することもない。インターネットで公開すれば、世界中からアクセス可能になる。しかも、個人がこれを行うことができるのだ。
 

初期の写真共有サービスは、このようなビジョンを体現していた部分もあった。たとえば、Flickr(フリッカー)は無料で1TBまで保存できた時期があったし、Googleフォトは圧縮された画質であれば無料で無制限だった時期があった。
 

そうしたサービスの有料化は、撮影した写真を無料かつ無制限で永久に保存しておくことができるというユートピアの終わりを告げるものでもあった。この終わりにはふたつの側面がある。無料かつ無制限などといううまい話はそうそうないということと、サービス内容は提供する側がいつでも変えることができるということだ。前者は料金を支払えば解決できることもあるが、後者はどうしようもないだけに、じつは後者の心理的影響の方が大きいのではないだろうか。
 

世界中に情報発信できるという謳い文句で広まったホームページやブログのサービスも、ほとんどなくなってしまった。しかも、なくなってしまったということすら話題にならない。
 

情報発信で現在主流になっているのは、Instagram(インスタグラム)やTwitter(ツイッター)、YouTube(ユーチューブ)などのソーシャルメディアである。初期のTwitterは、ミニブログ、マイクロブログなどと呼ばれていたが、いまや、そうした別称の方が分かりにくいだろう。
 

ソーシャルメディアの特徴は、タイムラインが重視され、新しい投稿や見せたい投稿がトップにくることである。結果的に保存されるにしても、過去のものほど探しにくくなる。Flickrも、タイムラインを重視したデザインへの改変を行ったことがある。調べてみたところ、この改変が行われたのは2013年で、1TBのストレージ無料化、広告非表示の有料化と同時だった。タイムライン性とアーカイブ性と収益の一石三鳥を狙ったのかもしれないが、この改変は、けっきょくうまくいかなかった。

 

 

考えてみると、Instagramを使うときに、枚数制限や容量制限を気にしたことがない。それと同時に、元画質の維持や画質の劣化を気にしたこともない。そもそも、元画像の保存場所と考えていないからだろう。Instagramにアーカイブと呼ばれる機能があるが、それは、投稿を非公開にする機能のことである。タイムラインから外しておく機能がアーカイブと呼ばれているのは興味深い。
 

比喩的にいうならば、劣化しない写真を無制限で永久に保存するというアーカイブの夢は、タイムラインに押し流されていったのかもしれない。それで別に困ってもいるようにみえないということは、夢が現実になることが、それほど望まれていなかったということだろうか。

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