X(エックス)をめぐる話をしておこうと思う。
2023年7月24日、ツイッターの象徴だった青い鳥のロゴが廃止され、ブランドが運営会社の名前とおなじX(エックス)に正式変更された。こうしたできごとをめぐる喧々諤々は、ツイッターで一番盛り上がるのだろうが、肝心のツイッターがエックスになってしまったとあっては、がっかり感の方が大きいのかもしれない。
ラジオを聴いていても「ご意見ご感想はメールまたはエックス、旧ツイッターで……」と、なんとも歯切れが悪い。ユーザー側は、昔の名前に未練タラタラでも、運営側は、ツイートをポストに、リツイートをリポストに変更するなど、着々とツイッターという名称を消しつつある。
ところで、エックスという言葉で私がまず思い出すのは、小学生時代の校庭で男子の間で流行った「エックス作戦ワーイワイ」という、しょうもない絵描き歌である。あるいは、『プロゴルファー猿』の登場人物、ミスターX(ミスターエックス)だったりする。ミスターXという名の人物は『タイガーマスク』にも登場していて、いずれにしても、エックスという語感からは、ガキがウキウキするような個人的な印象が拭えない。
とはいえ、写真愛好家の端くれとして、エックスという語感は輝かしい印象を感じるものでもある。なんといっても、黒白フィルムの定番中の定番、コダックのTRI-X(トライエックス)がある。エックス(未知のなにか)にトライ(挑戦)するフィルムか、かっこいい、と思っていたが、ある日TRYではなくTRIなことに気づいて、恥ずかしくなった。TRI-XのXは感度を示すもので、Xが3つで高感度ということらしいが、それではフィルムPLUS-X(プラスエックス)や現像液Microdol-X(マイクロドールエックス)はどういう意味だったのだろうか。Xが3つというのは別の意味もあるのだが、そのあたりはどうだったのだろう。
コダックのフィルムといえば、1980年代の半ばにT-MAX(ティーマックス)という新しい黒白フィルムが登場して、これからはT-MAXの時代かと思いつつ、けっきょく常用フィルムはTRI-Xに戻った記憶がある。エックスとマックス、どちらの名称もすごそうだが、この場合は歴史あるエックスに分があった。しかし、マックスという名称も負けてはいなかった。1980年代後半に登場したナイキのスニーカー、AIR MAX(エアマックス)シリーズは時代を席巻した。これもまた、個人的なエックス対マックス感にすぎないけれど。
Xという名称は、iPhoneにも冠されたことがある。2017年のiPhone Xである。といっても、こちらはXと書いてテンという読みだが。X(テン)という名称は、アップルのMacのOSに2015年まで用いられていたお馴染みのものでもある。2018年には、iPhone Xs Max(テンエスマックス)というモデルが登場していて、こちらはXとMaxの両方がついた、とてもすごそうなネーミングだった。
そうだ、異端のフラッグシップ機、ミノルタのX-1も忘れてはならないだろう。読み方は、エックスワンだったのだろうか。ミノルタの一眼レフXシリーズには、キミがピカピカに光るX-7もあった。
こんなことを考えながら電車に乗っていたら、東武鉄道の新型特急、スペーシア X(エックス)の広告があった。それで思い出したが、現行製品のカメラ関係でXといえば、富士フイルムのミラーレスカメラのX(エックス)シリーズのことになったといえるだろう。今、時代はふたたびエックスなのかもしれない。Twitter JapanがXに変更されたら、名称がかぶることが話題になったロックバンドのX JAPANでなくても、X(エックス)の行方がどうなっていくのかは、気になるところである。
——と、この原稿を書いていたら、いつの間にかX(旧ツイッター)のアイコンがダメージ加工っぽくなっていた。新品のスニーカーが恥ずかしいとか、新品のカメラが恥ずかしいとか、そういう少年の感覚に共通するなにかがあったりなかったりするのだろうか。
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