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考へるピント

19 シャッターレス

2023/07/24
上野修

カメラのシャッターとは、そもそもなんなのか。
 

困ったときの辞書頼みということで、調べてみると、ちょっと古めの辞書では「フィルムに光線の当たる時間を調節するための装置」、新しめの辞書では「CCDなどのイメージセンサーに受光させる装置」となっており、辞書によっては「光線のはいる穴をひらいたりとじたりする装置」という、より一般性のある記述もある。しかし、電子シャッターの場合なども考えると、なかなかひとことで定義するのが難しいのかもしれない。
 

それはそれとして、カメラのシャッターといったときに、多くの人が思い浮かべるのは、シャッター部分ではなくて、シャッターボタンだろう。「シャッター押してもらえますか?」と頼まれて、シャッター部分を押そうとするような意地悪な人はいない(と思う)。
 

したがって、言葉遊び的にシャッターレスカメラといってみたときに、まず思い浮かべるのは、シャッターそのものがないカメラではなく、シャッターボタンがないカメラだろう。といってみて、すぐ気づくのは、スマートフォンにはすでに専用の物理ボタンがなく、たいていの場合は背面液晶をタッチしてシャッターを切っていることである。デジタルカメラでも、専用のシャッターボタン以外に、背面液晶をタッチするタッチシャッター機能が使えるものもある。
 

タッチシャッター機能がある場合に、思いのほか便利に使ってしまうのは、ほかに専用の物理ボタンもあるという安心感なのか、スマートフォンですっかり慣れてしまっているからなのか。あるいは、シャッターを切るという決断そのものは、きちんと担保されているからなのか。おおげさにいうと、シャッターを切る主体=撮る主体というものが成立していれば、どうシャッターを切るかは、あまり問題ではないのかもしれない。
 

考えてみれば、レリーズの使用やセルフタイマー、さらには、なんらかの仕掛けによる自動シャッターなど、撮った感に乏しい撮影行為は昔からあるわけで、シャッターを切るという決断がコントロールされていれば、その写真はコントロールした主体に属する、という面があるといえよう。
 

その一方で、シャッターを押すことそれ自体の快楽、という面もあるだろう。フィルムカメラ時代には、空シャッターを切って、シャッターボタンを押す感触にうっとりするような行為がめずらしくなかった。多くの場合は、シャッター音、感触などに定評あるカメラだったろうが、なかには、スカスカの感触などを愛する好事家もいたかもしれない。
 

空シャッターの場合には、撮る主体はどうなっているのだろう。シャッターを切るたびに撮る主体が希薄化していく倒錯なのか、はたまた、より超越的な撮る主体が生成しているのか。あるいは、たんにフィルム代を節約しているだけなのか。
 

シャッター機能そのものがなくなり、カメラが真にシャッターレスになった暁には、こういったシャッターを切る決断、シャッターを押す快楽、そしてそれをめぐる言説が、まるごと消滅することになる。撮っているという気分が、そんなふうに終焉を迎えることはありうるのだろうか。
 

シャッターレスカメラが実現するとしたら、さまざまな方向性が考えられるだろう。たとえば、すでに実現している動画からの静止画切り出しは、そのひとつかもしれない。動いているシーンから一瞬を選ぶことにおいては、撮影行為と似ているような気もするが、切り出しは撮ることの高揚感がない作業なのではないだろうか。
 

画像生成AIも、もちろんシャッターレスだが、そこにも撮ることの高揚感はないだろう。いや、しかし、生成するという部分を、シャッターボタンのようなものを押す感触に接続したらどうだろうか。感圧センサーなどを使ってそうした感触をフィードバックすることは、それほど難しくないように思える。
 

そのような仮想的な撮影行為によって撮っているという気分が満たされ、画像が生成できるようになったとしても、それはけっきょく、VR(仮想現実)ゲームのようなものにすぎないのかもしれない。というか、これでは仮想的にシャッターが復活してしまっているではないか。だったら、普通に撮れという話である。
 

ところで、ここまでの話は、一度もシャッターを切らずに書いている。にもかかわらず、なんだか幾度もシャッターを切り、シャッターボタンを押す感触を味わっているような気になっている。ということは、撮っているという気分は言説、あるいは想像によって満たすこともできるのかもしれない。
 

このような言説と想像のノスタルジーにおいて、写真とシャッターが再会することも考えられるのではないだろうか。などと、もっともらしいことを書いたところで、レスな話はここで一旦締めくくることにしよう。

 

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