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考へるピント

49 その場所に その1

2024/09/17
上野修

その場所に行ったのは、じつは美術館に行くついでだった。
 

チケットをもらった美術館への経路を調べていて、その美術館がその場所の隣にあることに気づいたのだった。美術館に行くには、最寄駅から徒歩で20分弱、路線バスも通っているが、コミュニティバスだと100円と安い。
 

翌年も同じ時期にその美術館のチケットをもらったので、ふたたびその場所に行くことになった。
 

二回目なので、コミュニティバスから降りた美術館の隣側が、一番写真を撮りたくなるスポットであることはわかっていた。バスを降り、さっそくフェンス越しの藪と建物と道を撮りはじめる。持ってきたカメラは前回と同じ、広角系と中望遠系の二台だ。

 

同じ場所を同じカメラで同じように撮るのは楽しい。といっても、これは定点観測とはまったく違う行為である。カメラによって少しずつ場所になじんでいく感触が楽しいのかもしれない。前回と違っていても楽しいし、同じでも楽しいし、違いを忘れていても楽しい。
 

美術館での鑑賞を終えた帰り道、たった数時間ではあるが光線が変わっているので、さらに同じ場所を同じカメラで同じように撮る。
 

コミュニティバスの運行は30分間隔で、帰りのバスにはまだ時間がある。行きに降りたバス停を見ると、こちらはすぐ次のバスが来るようだ。このルートに乗ると、どこに行くのだろうと検索していると、ずっと再訪してみたいと思っていた別の場所に近そうだ、ということがわかった。
 

そうこうしているうちに、バスが来てしまった。とりあえず乗って、検索を続ける。やはり、折り返しの終点の数個前のバス停から徒歩数分でその場所に行けそうである。
 

そのバス停で降りる。そこは霊園の最寄りなので、周辺は独特な雰囲気がある。近くにある私鉄支線の駅は最近建て替えられたようで真新しく、独特な雰囲気に拍車をかけていた。この駅を利用したこともある気もするのだが、すっかり変わってしまっているので、なにも思い出せない。
 

踏切を越え、少し歩くと、その場所の北側に着いた。交差点にある自動車工場からは、かつての雰囲気が漂っていて、いささか意表を突かれる思いがした。
 

というのも、その場所に行っても、もはやほとんどなにも残っていないことはわかっていたからだ。敷地が大きかった分、その場所にはスタジアムや病院や大学といった施設が建設されていた。それがなかなかこの場所を再訪する気にならなかった理由でもある。
 

Googleマップの航空写真で、この北側の土地が空き地であるらしいことはわかっていた。しかし、思いのほか、かつての場所の痕跡が残っていた。
 

だだっ広い荒涼とした空き地に残る痕跡は、無造作に置かれた彫刻のようで、気分が高揚した。フェンス沿いに南に歩きながら、瓦礫や地面や木々を撮る。どうやらこの空き地のまわりを一周できそうだ。
 

空き地の真ん中あたりには、現場事務所らしきコンテナが何棟かある。無人ではないような気配を感じる。車も置いてあるので、誰もいないということはないだろう。
 

ずっと歩いていくと、南側に現場事務所に行くためのフェンスの切れ目があるらしいことがわかった。その付近に、男が立っているのが見える。黒っぽい服に帽子、リュックを背負い、釣竿ケースのような細長いバッグを肩にかけている。警備員だろうか。

 

(続く)

 

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