考へるピント

41 撮影禁止

2024/05/27
上野修

最近は、会場を撮影可能な美術館が増えてきた。
 

そうなると、観客も慣れてきて、撮影禁止の会場でも作品にスマホを向けるようになってくる。すると、監視員の方がそっとやってきて注意することになる。
 

これは一例であって、じっさいのパターンはさまざまである。
 

そもそも、会場によって掲示や告知の仕方が違う。撮影禁止をデフォルトにするか、撮影可能をデフォルトにするかによっても表現が変わってくる。
 

すべての作品が撮影禁止あるいは撮影可能ならば、会場の入り口だけに掲示しておけばいいが、混在している場合には、どちらかをデフォルトにして、それと異なる作品に個別に掲示することになるだろう。
 

問題なのは、そこが美術館であることだ。工事現場のような目立つ掲示は避けたいところだろう。かといって、あまりに目立たないと、注意喚起の役割を果たさない。
 

あまりにオシャレにしてしまってもわかりにくい。というのも、作品のようになってしまうからである。目立つにしても目立たないにしても、オシャレだと美術館になじんで作品化してしまうのだ。いや、オシャレという形容は適切ではないだろう。現代美術などはなんでもアリなのだから、とにかく掲示が作品化してしまっては注意喚起にならない、というべきだろう。
 

現代美術では、文脈を反転する作品もある。端的にいうなら、「これは作品ではない」というような作品である。「撮影禁止」の掲示を作品化した作品が、撮影可能だったらどうなるだろう。あるいは、撮影可能がデフォルトの会場に、「撮影禁止」の掲示を作品化した作品が置かれ、撮影禁止の掲示がついていたらどうだろう(このような作品、このような状態もすでにあるのかもしれない)。
 

言葉遊びで脱線してしまったが、なにが作品で、なにが作品でないかというのは、美術館ならではの、悩ましいポイントだろう。
 

会場を引きで撮影していると、アングルによっては監視員の方が入ってしまうことがある。それに気づくと、アングルから外れてくれる監視員の方もいる。別の壁面を撮影しようとすると、監視員の方もそれに合わせて動いてくれることになり、なんとも申し訳ない。これは、もちろん、監視員の方が作品の一部ではないからこそ起きる現象である。
 

撮影可能の場合でも、多くの美術館は、なにかしらの制限がついている。フラッシュ禁止、動画禁止、作品単体の複写禁止、などである。作品単体の複写禁止は、写真の展示に多い気がする。作品を複製できてしまうというのが理由なのかもしれないが、そのくらいのテクニックで複写するのはかなり難しいようにも思う。代表作は、すでにネットにあったりもする。などと考えてしまうが、禁止にする感覚はよくわかる。
 

フラッシュ使用は明確にわかるが、動画や複写はわかりにくい。このあたりをどのタイミングで注意するのかの判断は容易ではないだろう。
 

そういえば先日、大きな一眼で、人気展の大型作品を背景にモデル撮影をしていた方がいた。禁止されている行為ではないが、許容範囲は超えているに違いない。こうしたイレギュラーなできごともあるので、監視員はスポーツの審判くらい大変な仕事かもしれない。
 

それにしても、ほんとうに、撮影禁止・撮影可能の掲示や監視員の方は、作品の一部ではないのだろうか。作品の一部ではないにせよ、会場の一部であるのは自明で、展示の一部であるかないかは微妙なところではないだろうか。

 

こんなことをいうのも、撮影可能がデフォルトだが、一カ所の展示のみが撮影禁止になっている大型展を、近年ふたつ見たからである。監視員の方の、目立たないながらもしっかりと注意喚起する身振りも、とても適切に思えた。
 

この撮影禁止の一カ所は、じつに効果的で、もし展覧会評を書くなら「虚の中心」や「写しえないもの」といったタイトルで、嬉々としてこの発見を書いてしまいそうになるようなものだった。
 

企画者が意図したのか否か、ほんとうのところを知る由もないが、この一カ所撮影禁止方式、これから流行るような気がする。

 


 

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