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考へるピント

6 保護論序説

2022/05/23
上野修

フィルターを、付けるか、付けないか。いまも昔も悩ましい問題である。
 

もちろん、何らかの効果を目的としたフィルターは、使う意味がはっきりしているので、悩む必要はない。問題は、レンズ保護を目的にしたフィルターの場合である。
 

レンズの前に余計なものを付けると描写が損なわれる、というのがフィルター不要派の主張である。レンズを傷つけないために、というのが必要派の主張である。どちらもレンズを大切にしていることには変わりないが、意味が違っている。
 

UVカットなどの機能を持たせた保護フィルターもあり、いっけん矛盾を解消してくれるようにも思えるが、有効な機能ならそもそもレンズにコーティングされてるだろうから、必要派の罪悪感を和らげてくれる効果の方が高いかもしれない。
 

完成度の高い素晴らしいレンズほど、余計なものは邪魔になる。だが、そうしたレンズほど保護したい。だったら、撮影の時だけフィルターを外せばいい。いや、それはキャップの役割ではないか。そもそもレンズは保護するためにあるのではなく、撮影のためにあるのだから、万一のことなど気にせず使えばいい。しかし、万一のことが大切な撮影の前に起きたらどうするのか。
 

かくして悩みはループに入り、こんなことに悩むためにレンズを手に入れたわけではない、という悩みが加わることになる。
 

買った翌日にレンズを落としたが、保護フィルターのおかげで助かった。保護フィルターを一度も使ったことがないが、必要性を感じたアクシデントもない。経験談も人それぞれなので、判断の役に立つようで立たない。
 

じっさいに撮影した写真から、保護フィルターを付けているかいないか分かることはほとんどないだろうから、どちらでもいいかもしれない。だが、どちらでもいいなら、どちらにすればいいのか。
 

ぶつけても落としても問題ないような強靭なレンズが生まれるか、レンズがフィルターと同じような価格になるかすれば悩むこともないのだが、それは夢物語であろう。
 

デジタルカメラになって、同種の悩みがひとつ増えた。背面液晶の保護をどうするかである。
 

液晶に保護フィルムを貼った方が、よりよく見えるようになることはないだろう。だが、背面液晶は本体の一部だし、傷つけたら常に見ることになるので、ショックも大きい。しかも、背面液晶はレンズよりも傷つける確率が高いようにも思える。
 

もっとも、保護フィルムを貼るのを失敗すると、ズレや気泡と自分の不器用さを常に見ることになるので、こちらのショックも小さくはない。
 

背面液晶とは、仮の確認用なのか、観賞用なのか。再現にどのくらいの信頼性があるのか。仮の確認用なら、保護フィルムくらい付けても変わりはない、ともいえるだろう。
 

メインの観賞用として背面液晶を使うことはないだろうが、あながちおかしな使用法だともいいきれないように思える。じっさい、撮影用と観賞用のディスプレイが完全に一致しているのは、スマートフォンの大きな強みである。背面液晶を仮の確認用だとするなら、仮ではないゴールはどこにあるのかという問いも生まれてくるだろう。
 

保護フィルターと保護フィルムの関係をどう考えるかも悩ましい。どちらも使う、どちらも使わなない、どちらか一方を使う、という4パターンが考えられるが、どれを選ぶにせよ、思想、とまではいわないまでも、説得力がある理由が欲しいところである。
 

こうした悩みから逃れる究極の答えのひとつは、カメラを買わない、もしくは、買っても使わない、というものであり、もうひとつの究極の答えは、逆に、保護フィルターや保護フィルムに頼らずに、使って使って使い倒す、というものだろう。
 

こんなことを考えるのは、写真を撮ることとまったく関係ない、無駄なことに違いない。しかし、多種多様な保護フィルターや保護フィルムが生まれ続けているのは、このような問いが避け難いものであることの証だろう。
 

逆に考えるなら、保護フィルターや保護フィルムを付けたり付けなかったりするくらいで、それらしい思想性のようなものが生まれてしまうのは興味深い。しかも、その思想性は、作品性とほとんど関連がないだけでなく、ときには作品性より強い主張を孕むのはなぜなのか。
 

そこで付けたり付けなかったりしているのは、保護フィルターや保護フィルムという名の言説なのかもしれない。

 

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