考へるピント

65 スナップ

2025/04/28
上野修

前回、デジカメという言葉の用法が揺れている話を書いたが、揺れているどころか、用法がきっぱり割れているのが、ストリートスナップという言葉だろう。
 

ファッションに興味がある人にとって、ストリートスナップとは、街行く人たちの服装やコーディネートをとらえた写真のことである。
 

他方、昔からの写真愛好家にとって、ストリートスナップとは、街路で即興的に撮影された写真のことである。
 

と、文章で説明すると似ているように感じるかもしれないが、それらはほとんど重なることがないくらい違っている。後者の視点から前者を見ると、当然ながら作為的にファションをとらえているように見えるし、前者の視点から後者を見ると、当然ながらただ単に街路の光景をとらえただけのように見える。
 

もっとも、それぞれをそれぞれの視点から見ることもほとんどないだろう。そのくらい、撮る人も、発表される媒体も、見る人も異なっているのである。
 

こういった対比から考えると、それぞれの定義は明確であるように感じられるが、写真愛好家にとってのストリートスナップとは何かということは、かなり曖昧なように思える。
 

そもそも、スナップ、スナップ写真、スナップショット、ストリートスナップ、ストリート・スナップショットなど、類似したさまざまな呼び方がある。単なる言葉の違いならいいが、それぞれ微妙に異なったニュアンスがあったり、さらには明確なこだわりがあったりする。
 

スナップはスナップ全般、スナップ写真はスナップした写真、スナップショットはより意識的なスナップという行為、ストリートスナップは街路でのスナップ、ストリート・スナップショットは街路でのスナップショットといった使い分けがあるような、ないような、なのである。
 

たとえば、ストリート・スナップショットという言葉で、あえて街路を強調するのは、街路ではないスナップショットがあるということかもしれないし、街路でのスナップショットこそが王道だということかもしれない。
 

などという解釈を書くと、それは違う、という意見も少なくないだろう。というのは、スナップという言葉が指すのが、撮る者の行為なのか、撮られた写真のことなのか、両方なのか、定かではないからである。
 

撮られた写真のことなら、ある程度判別する基準を作れなくもないだろうが(ファッションのストリートスナップがまさにそれである)、撮る者の行為のことだったら、見てもまったく判別できないかもしれない。ましてや、もし撮る者の意識のことだったら、撮られた写真にどう関係しているのか、抽象的に考える必要があるだろう。
 

さらに、スナップという言葉に関連する諸々の使い分けは、撮る指針という側面もある。ストリート・スナップショットという言葉なら街に行って撮るぞと思うだろうし、スナップという言葉なら日常をずっとパチパチ撮ろうと思うかもしれない。よくわからないけれどスナップではなくスナップショットを撮ろうと思って、よくわからないまま一枚も撮れずに一日が終わるかもしれない。
 

このような、撮る指針から意識に問いかけ、ある種の身体性を育んでいくのがスナップ的行為ならば、それは自己にまつわる技法なのだから、なにをいわれても、それは違う、と感じても不思議ではない。
 

存外、他者はもちろん、自己に向けても、それは違う、と言い続けるのが、写真愛好家にとってのスナップ(という言葉)の本質なのかもしれない。

 

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