ウルトラワイドヘリアー12mm F5.6を装着。なかなか美しいカメラですね。ただ、気をつけていないとこの組み合わせは撮影者の足が写ることがあります。
ZEISS IKON SWは、カールツァイスとコシナのコラボレーション企画によって登場したZEISS IKONから、ファインダーと距離計を省略した、シンプルで極めて趣味性の高いカメラです。それと同時になんとなく既視感があります。
そう、コシナ・フォクトレンダーの初号機、ベッサLとほぼ同じコンセプトのカメラです。昔のライカIfあたりならば、学術用カメラとして使用されたのですが、ベッサLは距離計を必要としない超広角専用機としての立ち位置のほうが大きいですね。
ただしベッサLと大きく異なるのは絞り優先AE機構を内蔵していること、ZMマウントを採用していることです。このためライカスクリューマウント、ライカMマウント互換レンズの多くが装着可能になりました。しかも、ファインダーも距離計もないカメラで唯一AE撮影を可能としているわけです。
ツァイスイコンと並べてみます。ファインダーがありませんから、SWの方が軽量です。
もちろんデジタル時代の今ですから、フィルムカメラを学術用として使う人は皆無でしょう。カメラ名のSWは「スーパーワイド」の略で、ピント合わせ不要の超広角レンズ専用カメラということを自ら示しています。
フレーミングは外付けファインダー、距離設定は目測で行いますから、こんなに不確実な撮影方法はありません。撮影者はワイドの目となり、雑踏に斬り込んで行くイメージでしょうか。
SWのAE撮影はちょっと個性的です。絞り優先AE機構を採用していますが、ファインダーがないために設定絞り値に対応するシャッター速度がわかりません。このためボディ上部にある赤、黄、緑の3色のLEDによって表示されます。この信号機のような色分けによって、おおよそのシャッター速度を確認するというユニークな仕組みが採用されました。
背面です。メーターの3点表示はコシナのお家芸ですね。わかりやすいです。
これは想像ですが、SWには、本来ZMシリーズのフラッグシップレンズ「ディスタゴンT*15ミリF2.8ZM」を装着してほしいとツァイスは考えていて企画されたのではないでしょうか。
このレンズは距離計連動カムが省略されているので、ZEISS IKONやライカM7に装着すると、距離計のコロが遊んでしまいます。最初から距離計もファインダーもないSWの方に機材的な整合性を感じるわけであります。
SWはダブルシュー方式なので、様々なファインダーとレンズを組み合わせ、カメラの顔を自分の好みに変えることができます。このカスタマイズはとても楽しい行為ですね。でも真面目に写真を撮らなくなりそうで危険ですけどねえ。
SWの上部です。シューが二つ並んでおります。さながらライカIgですか?と。
コシナや本家ツァイスには怒られそうですが、SWには高性能すぎるZMレンズの超広角とか、コシナの優秀な広角レンズ、ライカのプレミアムのつきそうな広角レンズを装着するよりも、むしろ写りの悪そうなクラシックな超広角レンズを使うことでより不確実性を増幅させて、ヌケの悪い濁ったシャドー部のなかに物語を見つけるように仕向けた方がいいのではないかと思うわけであります。本音ですよ。
使用感覚はZEISS IKONと変わりません。自由にファインダーを選んだり、距離計をつけてみたりとこのカスタマイズ性の自由度が撮影者に任されています。もちろん素の状態で使うという漢気のある人もいるはずです。それはそれで、いいかもしれません。「心眼」で写真撮影に挑むことができるからです。
SWに標準レンズや望遠レンズを使いたい人はいるかなあ。そういう変人な方のための組み合わせです。ライツ製の距離計っていいですね。
実用面でもひとつ面白いことがあります。
スクリューマウントライカのライカ IfとかIcあたりと超広角レンズを組み合わせますと、フィルム画面サイズが大きくなり、コマ間隔が以上に細くなり、カットが難しくなります。でもSWはそういう心配は無用です。コマ間隔も揃っています。
もともと不便だったカメラにAE機能だけ採用してどうするのか、という話も出てきそうですが、撮影者は露出をカメラ任せにすることで、より被写体との距離感をうまく図ろうと考えるはずではないかと。
筆者のように超人的な変態になると、ビゾフレックスIIIを装着したくなります。動作に責任は持てません。
ボディ上部にはダブルでアクセサリーシューがありますが、片方がホットシューを採用しているなど、フラッシュを使用しても便利なように考えらえています。
いや、SWは不便だか便利だかはもはやよくわからない存在です。何か新しい表現のために被写体までの距離をうまく測り、挑戦してみたくなるようなカメラであります。
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