Photo & Culture, Tokyo
コラム
top コラムカメラ悪酔強酒第41回 AE-1をベースに追針連動式、フルマニュアルになった海外専用モデル「キヤノンAT-1」

カメラ悪酔強酒

第41回 AE-1をベースに追針連動式、フルマニュアルになった海外専用モデル「キヤノンAT-1」

2025/09/26
赤城耕一

細かいところを見なければ、誰もがAE-1だと思うけど、その実態は違う、というのがウケるかと思ったのですが、周りの反応は「へー」みたいな感じでした。

 

日本国内未発売機となれば、自国メーカーのカメラなのに当然、入手しづらいですし、名称だけではなく仕様、ボディカラーなどが異なるものがありますからコレクターさんは入手に奔走することになります。
 

いや、それは大袈裟ですか。輸出専用機の多くは、ベースになったカメラよりもコストを下げ、スペックが劣るのが一般的だからです。
 

つまり、できるだけお安くして、多くのみなさまに購入していただきたいという思惑があるわけですね。このため、入手はしづらいけど、実際にはさほど高価には取引されていないこともあります。
 

今回ご紹介するカメラはキヤノンAT-1と申します。はい、名前からみてAE-1をベースモデルにしたもので、登場も1976年と同じであります。
 

メインスイッチですね。ここだけFTbに似ていたりします。バッテリーチェッカーもあります。

 

AT-1はAE-1と何が異なるのか。まずは外観では見分けがつかないくらいよく似ています。ただ、確認はしていませんがブラックボディの用意はないようです。面白いですね。AT-1はAE-1のシャッタースピード優先AEを省略し、マニュアルのメーターを組み込んだものであります。このメーターはすでに連載でもご紹介しました、キヤノンNew FTbと同じ方式の、追針連動式になっています。
 

お、ならば、フルメカニカルカメラなのかと思われるかもしれませんが、否なのであります。電子シャッターでありまして、バッテリーがないと動作はしません。つまり、シャッター機構関連はAE-1の流用なのかもしれません。
 

でも興味深いのはAT-1の受光素子はNew FTbと同じCdsが搭載されていることであります。ちなみにフルメカニカルのNew FTbは、AT-1発売当時でも現役だったようですので、AT-1存在の意味が薄れますよね。でもNew FTbにはワインダーの装着ができませんので、AT-1はマニュアル版の「連写一眼」ということになるのでしょうか。

 

セルフタイマーもAE-1と同じですよね。見やすいけど、このカメラで記念写真撮る人いるのかな。

 

AE-1の受光素子はSPDなので、応答速度など、Cdsと性能的には開きがあるわけですが、測光は中央部重点測光ですから、New FTbの中央部部分測光とも異なることになります。
 

AE-1はマニュアル露出にすると、使いづらいことこの上ないですが、それをカバーしようということなのでしょうか。
 

いや、それよりも需要ですよねえ。撮影にだって合理性を求める欧米のみなさんが、便利なAEを使わずして、マニュアル露出で攻めようという人が多いとは思えないのですが。どうなんでしょうね、このあたりの考え方は。機構的に、AE-1よりも極端にお安く作れるということもないでしょうし。

 


シャッタースピードダイヤルは歯車をそのまま持ってきましたみたいなAE-1とデザイン同じ。回すと人差し指の腹がイタイです。

 

でも国内発売せずに海外のみということは、間違いなく海外の方が需要がある。つまりマニュアルカメラが欲しい人がたくさんいるという読みがあったということでしょう。こういう企画は営業サイドから上がってくるということが多いはずですから。
 

AE-1とAT-1の関係はニコンFEとFMと似ていますが、FMはフルメカニカルですからね、バッテリーがなくても動作するぞというアドバンテージは、ビギナー機という意味を超えたものがありそうです。他にマニュアル露出機で電子シャッターを採用している35mm一眼レフって、なにかありましたっけか?ヤシカFRとかもそうでしたかね。なんかムダな感じもします。
 

もしキヤノンAT-1が1976年に国内で販売されていたとしたら、写真学生さんには露出の勉強のためによかったということでAE-1よりも推奨されたカメラになったかもしれません。筆者もこの時分は高校生だったから胸をときめかしていたかも。
 

バッテリーはAE-1と同じ、4LR44を使います。生意気です。電子シャッターだから仕方ないのか。

 

昔ありましたよね、年明けくらいに量販店に行くと「写真学校推奨機材」みたいなプレートがかけられていたりして。いや、それでも写真学生さんの数は全国でまとめたとしても大した数じゃないですからメーカーも量販店も大して儲かりはしないと思いますけど、将来に期待したのでしょうか。
 

今回、なぜAT-1みたいな謎企画のマニュアルカメラを取り上げたかといえば、ヘンタイ(最近は褒め言葉ですね)のみなさんのためです。筆者は立派なヘンタイなのですからこれは仕方ありません。
 

おとなしく素直にAE-1を使っていればいいものを、わざわざAT-1を探し出すとか、海外のカメラ店から取り寄せるとか、ヘンタイだけがする行為であります。どうせロクに使いもしないくせに。

 


ボディ前面の機種のロゴですね。マニュアル一眼レフなのにAシリーズの仲間というのが解せないんですが、TA-1の方が良かったんじゃないかしら。ネームの問題じゃないか。

 

写真仲間の宴会にAT-1を持ち出しても一部の人しか関心を示すことはなく、おそらく失望することでしょう(経験者)。ネームプレートのところをパーマセルで貼っておいて、じわじわ剥がして機種名当てクイズをやるという手があったかな。
 

使い勝手は当たり前ですが、ほとんどAE-1です。ワインダーも装着できます。マニュアルだけどシャッター音は同じ。Cdsの応答速度はさほど気にならないですけどね。それにしてもAT-1はAシリーズには入るんだろうけど、AE機ではないからなあ。扱いが面倒ですよね。

 


ボディ底部です。ワインダー装着できます。コマ速はどのくらいかな。遅いですね。AE-1ではボディ底部のみ真鍮だったんですが、AT-1はどうなのかな。

 

最近はAT-1を中古カメラ店でみることは少なくなりましたが、出てきたとしても、大した価格はつけられていないはずです。不人気カメラであります。
 

電子シャッターですから、経年変化にも弱そうです。そう、AE-1もAT-1も、まもなく登場から半世紀を経るのであります。ね、ヘンタイさんしか興味を持つことができないカメラたちというわけであります。

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する