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カメラ悪酔強酒

第8回 ペンタックスSLで読む『光と影』

2025/02/08
赤城耕一

先日、フィルム写真制作を趣味とする若い女性と話をする機会がありました。彼女の首から下げられていたのは、シルバークロームのペンタックスSP+スーパータクマー55mmF1.8でした。
 

正当、かつ地味な組み合わせですが、なかなか綺麗な個体でした。
 

ただ、バッテリー室の蓋が固着しており、回りません。中に入れたまま電池が漏液して固まって蓋が開かない事故です。これをむりやりコインでこじ開けようとして、蓋の周りに思い切りデカい傷がついていて、これ、かなりイタイ感じがしました。他の部分は綺麗なのに。
 

この傷はオーナーの彼女がつけたものではなくて、その傷があったから、ものすごくお安く入手したと言ってました。彼女は中国製のメーターを用意し、それで撮影時に測光しているそうです。彼女はメカニズムの興味から遠いところにある人のうようでしたが、少し寂しそうな顔でこの傷を撫でました。

 


ペンタックスSLブラックです。塗装の厚みはSVよりもよい感じです。ボディ前面のSPOTMATICの刻印がないのですっきりしています。装着レンズはSMCタクマー50mm F1.4だから時代の整合性は疑問でしたが、SLはこのシリーズ最後まで売られていたようですから問題ないかと。

 

筆者も、その傷を見た瞬間に、ハッと思いました。いま再放送しているNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の主人公の「るい」の、見てはいけない額の傷を見てしまったような悲しい気持ちになりました。
 

その残念感をオーナーの彼女に悟られないように筆者は話題を変えたりしました。こうみえてもカメラにも彼女にも気を遣う筆者であります。

 


上からみた姿ですね。SPにあったメータースイッチがないのもよくて。佇まいはなかなかじゃないですかねえ。小さいしね。

 

でもね、そんなキズものを買うよりもペンタックスSLを選んだほうがいいんじゃねえのとか少し思ったわけ。これが今回のお題です。ちなみに傷もののSPと同じくらいの価格で入手できると思いますよSL。
 

本題に入る前に例のごとく話を遠回りしますが、筆者はネタとして、森山大道さんが写真制作を復活させるきっかけとなったカメラであるペンタックスSVの話をよく書きます。
 

筆者にとって、神様である森山さんが使うペンタックスSVは当然手元に置かなければならいカメラであり、購入価格の数倍というけっこうなお金をかけて整備もしました。
 

でもね、よい機会だから今回、正直に言いましょう。
 

ペンタックスSVの絶望的なファインダーの暗さとか、マット面のざらざら感とか、中央のマイクロプリズムの不当なデカさとか、バラバラっと割れて聞こえる、シャッター音とか、フィルム巻き上げレバーの感触とか、生理的にどうもなじめないなーとか思ってました。

 


ただ、装着レンズに絞りのA/Mの切りかえがないとファインダー内で被写界深度の確認はできませんね。別に確認してもアテにならないからいいか。

 

森山さんの使用レンズはタクマー35mmF3.5であります。SVにこのレンズの組み合わせだと、日中晴天下だけしか撮影したくねー気になりますね。だから、森山さんの写真集のタイトルは「光と影」となりました。まあ、森山さんは、おそらく高感度フィルムを増感現像しているでしょうから、思い切り絞り込んでいるはず、だからファインダーの暗さも気にならないとか。
 

ええ。もちろんこれは全部、筆者の創作妄想話です。
 

でもね、筆者がおすすめしたいペンタックスのM42マウントSシリーズは、ペンタックスSLがいちばんなのではないのかと考えているわけです。TTLメーターは非内蔵で、元からバッテリー室がないから、コインで傷つけることはありませんし、メーターの動きや精度も気にしなくていいですね。

 


シャッタースピードダイヤル、よい感じの仕上がりです。溝があるのは、専用外部メーターのシャッタースピードダイヤルと連動させるためであります。

 

多くのペンタックスSPのメーターは、指針が動いていてもあまりアテにしないほうが無難じゃないですか?これまでの経験上でいえば、平均測光に近い感じですし。Cdsの経年変化は当然ありますし、絞り込み測光だし、測光時は逆入光に注意せねばなりませんぜ。
 

それにあのぐにゃっとした感触でスイッチ入れるのも生理的やヤだし。スイッチ入ってない時に指針は中央の適正値を差しているし。(個人の感想です)
 

フィルム巻き戻しノブとクランク。フィルム感度設定ダイヤルが外周に。メーターないから、どの感度でもいいんだけど、装填フィルムの覚え書きにはなるでしょう。

 

ペンタックスSLは、TTLメーターのスイッチもないからエプロン部もスマートです。ファインダーもスマートです。ストレスなく使えます。
 

撮影者はそのまま目の前の光を読んで露出を決めて撮影しなければなりません。 

 


ボディ底面はこれ以上ないほどのシンプルさでいいですねえ。この時代はマイナスのねじですね。

 

SLのファインダーの明るさは、おそらくSPと同じでしょうから明るくはないですけどね、ここは覚悟を決め「光と影」をみつめて露出を決めます。そこから名作が生まれる可能性があります。SLを持って撮影している人を筆者は尊敬します。

 

これからも筆者はSLで頑張っていこうと思います。

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