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第18回 初のMマウント互換VMマウントを装備した!「BESSA-T」

2025/04/19
赤城耕一

BESSA-Tでいちばん使用頻度の高い組み合わせです。エルマー90mm F4です。鏡筒は細身で、素晴らしく軽い。トリプレット構成ですが、素晴らしくよく写ります。ファインダーはコシナ・フォクトレンダーブランドの90mm。これも見え方の美しさにびっくりします。

 

BESSA-Lの次に登場するのはBESSA-R(2000年)なんですが、うちの仕事場のロッカーから出張中のようなので、飛ばして次行きます。
 

今回ご紹介するのは2001年に登場するBESSA-Tになります。そうMマウント互換VMマウントを装備した、初のBESSAということになるのですが、これがまた、なかなかの天邪鬼というかコシナの素晴らしいヘンタイ性を主張したカメラとして記憶に残ります。このためでしょうか、ヘンタイな筆者所有のBESSAシリーズの中でも出撃回数が多い方になり、ライカMシリーズと併用することもよくあります。

 


裏側から見てみます。外づけファインダーのアイピースと、距離計のアイピースの位置関係を掌握してしまえば、スムーズに撮影できます。正直、このカメラで撮影すると、Mマウントライカの距離計精度を疑うようになります。あ、ここだけの話です(笑)。

 

BESSA-Tは世界初の“ファインダー交換式” のカメラであります。いや、ファインダー交換ならニコンFだってできるぜ、と言われそうですが、BESSA-Tは何と距離計のみを装備して、通常の光学ファインダーは外づけのものに頼るというものすごく割り切った仕様でした。
 

割り切るというのは距離計を単独で載せることで、有効基線長や倍率に余裕が生まれ、精度の高いフォーカシングを可能としたからであります。

 


縦走りシャッターの構造上の問題で、小刻み巻き上げは難しいとされましたが、コシナは簡単にやってのけました。というか、この地味な改良にお金をかけることができたことを評価するべきであります。

 

レンジファインダーカメラは長焦点レンズの合焦精度に難点がと言われちゃうけど、BESSA-Tはこのネガな話を覆したというわけです。Bessa-Tの基線長35.8mmは、倍率1.5倍、有効基線長53.7mmですから、ほとんどスクリューマウントライカなみの精度があるということであります。
 

ちなみにBESSA-TのTはTELEの略。すなわち長焦点レンズのことを意味します。レンジファインダーカメラでも望遠レンズを使ってね、ということですね。コシナ・フォクトレンダーのレンズは75mmや90mmの焦点距離のレンズとか、大口径も揃ってますから、これらのレンズのポテンシャルを本気で引き出すためにフォーカスの精度を追求するならば、BESSA-Tを使うのが理にかなっているわけであります。

 


ボディ底面にはトリガーワインダー用の連結部があります。特にカバーは用意されていませんが、問題はないかと。

 

BESSA-Tでさらに面白いのはトリガーワインダーが装着可能であること。ワインドレバーは本体下部に折りたたみ収納が可能。そうですね、ライカビットと同じ役割です。
 

最も本機はフィルム巻き上げはレバー式ですから無理にこのトリガーワインダー装着の必要はないのですが、カメラ操作のパフォーマンスとしては楽しいですよ。スピーディーな撮影が可能にになりますとは口が裂けても言えませんが、でも実用面でも十分です。本機は裏蓋開閉式ですから、トリガーワインダー装着時でもフィルム交換が可能になっています。

 

BESSA-Lと同じTTLファインダーも装備していますから、ビギナーにも安心です。

 


距離計のアイピース部分。視度補正機構を内蔵しています。このあたりスクリューマウントライカを意識しているのでしょうか。でも老眼にはこのありがたみわかりますよ。距離計のコントラストは恐ろしく高く、素早くフォーカシングできます。

 

使用感触もBESSA-Lには近いのですが、シャッター音が軽減されていること、またすごいのは縦走りのコパル製のフォーカルプレーンシャッターを装備しているのに、小刻みでのフィルム巻き上げを可能としていることです。地味な改良点ですが、わかるやつだけにわかればいいという思想に違いありません。でも、開発にお金かかりますねえ。
 

BESSA-Rのようにファインダーと距離計が一体になっているカメラを先に出しつつ、初のVMマウント機であるBESSA-Tではフォーカシングの原点ともいうべきファインダーと距離計をそれぞれ別のものとして考える機能を備えたということで注目されました。これって、AFの利便性とは真逆の思想というところがすごいですよね。

 

BESSA-T101記念グレーモデル。ヘリアー誕生101年記念ということで、限定レンズのヘリアー50mm F3.5とトリガーワインダーを組み合わせて発売。ドイツ空軍仕様みたいな、なかなかに美しいモデルです。レンズはテレロッコール11cm F5.6をつけてみました。

 

距離計窓の外観デザインは明らかに、スクリューマウントライカを意識しています。でもVMマウントですから、コシナとしてはスクリューマウントライカと、Mマウントライカの折衷作を提示したということになるかもしれません。最新の光学技術を駆使しているためか距離計の二重像合致は恐ろしく鮮鋭です。
 

VMマウント化すると同時に、ライカのようなファインダーと距離計一体型のモデルを出すという手もあったと思いますが、このBESSA-TはBESSAシリーズが、将来に向けて確実に技術を蓄積するために必要だった、少しだけ遠回りの道だったのかもしれません。

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