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第27回 キヤノン初のTTL測光機構、半透明ペリクルミラーを搭載した一眼レフ!「キヤノンペリックス」

2025/06/21
赤城耕一

 一眼レフカメラのブラックアウトはなんとかならんのかと言い続けて幾星霜の時間を経ました。いつの間にか時代はミラーレスカメラ全盛となり、ブラックアウト問題は、上位機種に限っていえば、いちおうは解決される方向にあります。

 

ただ、昔の話を蒸し返すようで気が引けるのですが、筆者はなぜ、デジタル一眼レフのときにブラックアウトが解決されないのかと、大きな声で発言していたのです。ペリクル(半透明)ミラーを使えば解決されるのではないかという意味です。

 

ファインダーがブラックアウトしてしまうと、撮影者は“露光の瞬間の被写体を見ていない ”ことになります。露光が長秒時になればなるほど、ブラックアウトの時間が長くなります。

 

 確かにレンジファインダーカメラなら露光の瞬間も観察できるので、ワイドレンズを装着した街スナップなどでは一眼レフよりも優位性を感じることはあります。

 

シャッターを切った瞬間も被写体を観察することができるのはとてもありがたいことです。

 

ただ、レンジファインダーカメラの最高峰であるライカは一眼レフより決定的なシャッターチャンスを捉えやすいみたいなことが、かつてのカメラ雑誌に書いてありました。理屈ではそうかもしれませんが、そのまま鵜呑みにする人は少なかったわけです。

 

レンジファインダーカメラは特性上、特定の焦点距離のレンズしか扱えないわけですから、お仕事で本気出すような場合には制約が多く使いづらいわけです。適材適所で機材を選ぶのがカメラを増やす、じゃない使いこなしのコツということになります。

 

一眼レフに慣れている写真家はファインダーを覗きつつ、最良の瞬間を予想、予測してシャッターを切っています。ブラックアウトと同時にシャッターのタイムラグを考える問題もあるからです。

 

直線基調のデザインは大きく姿を変えずにキヤノンFTbまで採用されます。発売から1年後にはペリックスQLも登場。フィルム装填が簡便になります。こちらはFL50mm F1.4IIを装着しています。余談ですが、I型より性能は明らかに上です。

 

そんなことをつらつら考えつつ、今回はキヤノンペリックス(1965)を引っ張り出してみました。ペリックスはキヤノン初のTTL一眼レフにして、ペリクル(半透明)ミラーを採用した意欲的なモデルであります。  

ミラーの昇降はなく固定されたまま。ファインダー側に30パーセント、フィルム側に70パーセントの光を導く仕組みです。刑事ドラマに出てくる警察の取調室にある鏡と同じなのかな。

 

一眼レフですが、ブラックアウトはありませんからシャッターを切った瞬間の被写体も観察することができます。キヤノンはTTL測光の採用と同時に一眼レフの欠点を克服してしまえと考えたのか。さすがですよねキヤノンは。

 

レンズを外してフィルム室のアパーチャーから外界を見てみます。半透明ミラーですから、肉眼での観察と変わらぬ世界がそこにあるわけです。

 

デザインは直線を多用した厳ついデザインです。優美さには欠けますが、作り込みも悪くありませんし、メッキの仕上げも上質です。往時としてはかなり気を遣っています。  

 

重量はそれなりに重たいですが、ひんやりとした真鍮の金属質感が夏のいま、手のひらに心地いいいわけです。

 

筆者はデザインから見ても本機に感動しました。ペンタプリズムのところにある銘板がCANONではなくPELLIXとなっていたからです。カメラ名がメーカー名よりも大きく表示されているということは、本機がただならぬ機能を有したカメラであることを主張しているようです。

 

ただですね、当初は褒めていたのですが、すぐに行き詰まりました。ファインダーが暗いんです。マット面でのピントのキレも今ひとつですね。ファインダーに回る光量を考えれば暗くなるのはあたりまえです。

 

ファインダーが暗いものですから、少しでも明るくするためにFナンバーの小さいレンズを装着したくなります。写真はFL58mm1.2です。性能は…。フードは立派で、シリーズフィルターを落とし込むのが基本です。

 

往時のユーザーは我慢して使っていたのでしょうか。当然ですが開放Fナンバーの大きなレンズは使いづらいのです。しかも絞り込み測光方式を採用していますから、測光時のファインダー像はますます暗くなります。だから室内や夜間にこのファインダーを覗くと、今後の自分の人生の見通しのように真っ暗になります。

 

筆者はMF一眼レフ時代のTTLメーターはほとんど使用していないのですが、本機でメーターを使用しない場合はペリクルミラーの露光倍数2/3絞り分を考慮して露光することを忘れないようにしなければなりません。

 

楽しいのは、絞り込んだ設定でシャッターを切ると、ファインダー像が一瞬ほのかに暗くなることです。自動絞りがきちんと動作して、間違いなく露光しましたからね、というサインを伝えているように思えるからです。

 

なんとペリックスには専用のレンズまで用意されました。FLP38mm F2.8レンズです。小型軽量で全長が短い。パンケーキレンズの元祖みたいですね。ただしファインダーは絶望的に暗いです。

 

あたりまえですがレンズの開放絞り設定では絞りでは絞りが動作しませんから明るさは変わりません。

 

カメラの構造上ファインダーからの逆入光には注意が必要ですが、撮影していると私の目玉が感激していることがわかります。ファインダー像はリアルな舞台劇を観るかのような印象を受けるからです。

 

ただ、繰り返して書いておきますが、レンジファインダーライカ同様にファインダーの像消失がないこととシャッターチャンスが捉えやすくなるかどうかはまた別の話になります。

 

ペリックスで驚いたのは大きなシャッター音がすることです。

 

FL P38mm F2.8を取り外して裏面から見てみます。「FOR PELLIX ONLY」の文字が見えます。写りは、まあフツーです。

 

ペリックスは、レンズからの光が常時シャッター幕に届いている状態だから、太陽光によるシャッター幕のピンホール焼けを防ぐためでしょうか。シャッター幕はチタンを採用しています。このためかどうかはわかりませんが、通常の一眼レフに負けないほどの大きなシャッター音がするのです。これには少々がっかりしましたが、ミラーショックがないのは救いでした。

 

ペリクルミラーはのちにキヤノンではF-1、New F-1の高速モータードライブカメラ、AF一眼レフ時代なってからも、EOS-RTやEOS-1RSに採用されましたが、ペリクルミラーの採用は、どちらかといえばコマ速を稼ぐためとタイムラグを小さくするためにその特性が応用されたようにみえます。

 

アイピースシャッター開閉ダイヤル。ファインダーから目を離して撮影すると逆入光によってフィルムがカブるリスクがあります。フルマニュアルカメラですがアイピースシャッターは必然機能になります。

 

仮にデジタル一眼レフにペリクルミラーを搭載すれば、光量の消失をカバーすることができ、画質の低下を防いで最適化でき、さらなる高速連写も可能になるように素人は考えるわけです。

 

ファインダーからの逆入光の問題など、ペリクルミラー特有の課題はたくさんありそうですが、ミラーレス機全盛時代を迎える前に、ペリクルミラーを採用した光学ファインダー搭載の一眼レフを見てみたかったなあと思います。

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