M型ライカを意識したところもあるのでしょうか。デザインはスマートですが、中身のメカニズムはスクリューマウントライカというイメージです。
筆者はキヤノンのレンジファインダーカメラでは総合的にみて、VT deluxeがいちばん好きかもしれません。
登場は1957年ですから、登場から70年近くを経過する年寄りカメラであります。でも本機は意図的なのかどうかはわかりませんが、いじくり回すところが多く、操作していて楽しいカメラですね。デザインもなかなか綺麗だと思います。少なくとも優美さには欠けますが、スクリューマウントライカよりも近代的な雰囲気があるのはいいなあと思います。
ファインダーは変倍式で、35mm、50mmの視野を選ぶことができます。距離計部分を拡大する長焦点用に切替が可能になっています。距離計部分のコントラストは強く、明確でフォーカシングの精度は高いと思います。70年近い時を経たカメラとは思えないですね。
面白いのは外づけファインダーのパララックスを自動補正する装置が内蔵されていることです。
パララックス補正機構内蔵(下部に突起のあるもの)のキヤノン外づけファインダーを本機に装着しますと本機のシュー部分にある小さな突起とファインダー側の突起とがカップリングします。
突起はフォーカシングによって上下しますので、フォーカシングによって突起の上下に合わせて、ファインダーの角度を微妙に上下させて、パララックスを補正してやろうという仕組みになっています。
外づけファインダーは視野率は期待できませんし、実際に使用していても、パララックス補正が有効なのかどうか、あまりよくわからないのですが、ライカでもこんな仕組みは取り入れていません。
本機が出たころはキヤノン50mm F1.2が値下げになったというニュースがあり、本機と組み合わせて撮影されていますけど、筆者はトシのせいか最近は重たい機材がからっきしダメで、手元にあったキヤノン50mm F3.5を組み合わせてみました。
そこまで正確な視野にこだわった、気を使ったということは評価したいところであり、パララックス補正機能内蔵のキヤノンの外づけファインダーがどうしても欲しくなるわけです。もちろんこの外づけファインダーの視野のほうが内蔵ファインダーのそれよりも大きいことはいうまでもありません。
外づけファインダーのパララックスを自動補正するため、フォーカスリングの動きに合わせて動く突起です。ファインダーの底の突起はこれとカップリングして、パララックスを補正します。
変倍ファインダーの設定焦点距離を確認する窓です。外づけファインダーを装着する場合はRFに合わせておくのが潔いかも。
底蓋にはトリガー式のラピッドワインダーを装備しています。これは取り外し式ではなくて、固定された装備で、ライカビットのように取り外しはできません。
ライカもビット以外にフィルム巻き上げのためにノブやレバーは省略していませんが、本機でもフィルム巻き上げノブが併設されています。
バックアップの意味もあったと思うのですが、このノブは少々操作しづらいのが難点です。ただ、フィルム装填の時はノブで空送りしたほうが使いやすいと個人的には思います。
面白いのは、ノブを使うときにはボディ背面右上の小さなボタンを押してノブを上に引き上げて回すことでフィルムが送られるような仕組みが採用されていることです。
つまりノブを引き上げなければ、スプールと連動しないわけで、引き下げていない状態ではノブは空回りします。
ノブによるフィルム巻き上げも可能です。下のボタンを押して、ロックを解除。ノブを上に引き上げて操作します。操作性はいまひとつですが、ないよりは良いでしょうね。
こんなことをしなくても、元からノブを高くしておけば問題はないはずですが、往時のキヤノンのデザイナーさんは、許せなかったかもしれませんね。すばらしいこだわりです。実用的にはこのノブは上げたままでも一連の使用には差し支えありませんが、見た目ではたしかにそのままでは美しくないですね。もちろんノブを上げた状態で、トリガー操作もできます。
フィルムカウンターは残数方式でフィルムを装填したら、規定数をセットしたほうがいいでしょう。順算方式よりも、残りコマ数は認識しやすいかもしれません。
内部機構はスクリューマウントライカのそれを応用しているはずですが、シャッターボタンは前位置にあり、ライカやニコンS系と区別しています。シンクロ切り替えはフラッシュバルブとスピードライトの切り替えがあります。フィルムカウンターは残数式。すから装填フィルムの撮影可能枚数を右上の歯車からセットします。
シャッターダイヤルも回転式で、フィルムを巻き上げる際にも動きます。ダイヤルは2軸あり、1/60秒〜1/1000秒までは上部のダイヤルで、1秒〜1/30秒は前面のスロー用ダイアルでセットします。
このあたりはスクリューマウントライカと同じ仕組みですが、動作のシーケンスはいかにもクラシックカメラという印象はあります。でも、使いづらいというわけではありません。
トリガー内蔵のために、総重量は不当なほど重たく感じてしまうのですが、この時代はまだ一眼レフ時代の前でしたし、カメラ名のとおり機能をデラックスにしたのですから、やむを得ないんだろうなあと。
ノブによるフィルム巻き上げも可能です。下のボタンを押して、ロックを解除。ノブを上に引き上げて操作します。操作性はいまひとつですが、ないよりは良いでしょうね。
どうせプライベートのみで使うカメラですし、筆者はトリガー好きなので、さほど苦にはなりません。ええ、病気ですね。でも、フィルムカメラは操作して楽しいカメラであることもまた重要だと考えています。
シャッター幕は布幕なのですが、トリガー巻き上げが「カッチャンカッチャン」と音がして、全体としてはうるさいですね。でも上手にトリガーを操作している人を稀にみると、「お、なかなかの使い手」ではないかと思ってしまうわけです。個人の感想です。
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