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カメラ悪酔強酒

第28回 FTの後継機的な役割を担ったフルモデルチェンジ機「キヤノンFTb」

2025/06/27
赤城耕一

1971年に登場するキヤノンFTbはいまでいうミドルクラスの一眼レフに相当するのでしょうが、少年時代の筆者にはずいぶんと立派で高級なカメラにみえました。

 

発売時の定価はFD50mm F1.8つきで49,800円とあります。大卒初任給の平均が41,400円の時ですから、一眼レフの価値観って、かなり高いものでしたね。  

 

ビギナーはコンパクトカメラを購入するのが普通でしたから、当時はまだ“一眼レフ” は特殊な存在でしたし、フラッグシップのキヤノンF-1など、地球外惑星のカメラくらいの立ち位置でした。

 

名称からわかるとおり、キヤノンFTbはFTの後継機的な役割を担ったフルモデルチェンジ機です。絞り込み測光から開放測光へ大きく転換したことはF-1と同様、最も注目すべき特徴になりますけど、レンズは開放測光に対応したFDを使わねばなりません。

 

セルフタイマーがデカく見えるのは前機種FTからの流用だからですかね。プレビューレバーを兼ねています。なぜシルバーなんだろう。タイマー動作時に目立つからですかねえ。なんかバランス悪くないですか。

 

ファインダー交換や、スクリーン交換、モータードライブの用意はありませんが、F-1には採用されていない、キヤノン独自のQLとよばれるフィルムのクイックローディング機構を採用しています。これはフィルム装填がいかに難関であったかを示しています。しかし、このQLでも万全じゃないんですぜ。

 

F-1よりも小型でビギナーにも使いやすくまとまっており、とくにペンタプリズムまわりデザインは64年に発売されたキヤノンFXやFP時代のそれとさほど大きくは変わっていないのはすばらしいですね。

 

レンズの開放Fナンバーの設定は自動的に行われます。同時代のニコンやニコマートのようにレンズ装着時に絞り環を回し開放Fナンバー設定をするなど、煩雑な所作は不要です。  

 

軍艦部もまとまりがいいですね。無駄にスペースが空いている今のミラーレス機なんかよりも充足感あります。なかなか珍しい純正のグレー色のシューカバーが付いていました。外したことないので紛失しなかったんでしょう。だからどうしたの世界ではありますけど。

 

マウントはレンズ外周にある銀色のリングでボディー側に固定するスピゴット方式が採用されています。  

 

測光はコンデンサーレンズをカットしてハーフミラー化した中央部部分測光を採用、ハーフミラーでの反射率をCdS側には15%、ファインダー側への透過を85%としています。

 

これはFTと似ていますが、ファインダーを覗くと測光部分のみが暗く、慣れないうちは少し気にはなりますが、中央部部分測光はスポット測光に近いですね。撮影者が被写体の色や反射率を見極めることさえできれば高精度の露出決定を可能としています。ニコンの中央部重点測光とは少し違う考え方です。

 

メーター表示は追針式です。旧FLレンズを使う時は絞り込み測光となり、このために定点指標も設けられました。昔のレンズも使えますよアピールもきちんとしています。

 

面白いのは低輝度測光を可能にするための「ブースター」というアクセサリーが用意されていたことです。長時間露光だと、フィルムの相反則不軌の特性は無視できないのでは、という疑問が出てくるはずですが、これを使うことで闇夜のカラスさえも写るのではないかという勢いを感じました。

 

フィルム巻き上げレバーは華奢ですね。大量撮影すると指が痛いですわ。New FTbにはプラカバーがつきました。このあたりの経緯はニコマートFTNにも共通するところがあるので興味深いですね。

 

発売から2年めの73年にマイナーチェンジが行われ名称はNew FTbとなります。

 

ファインダー内にシャッター速度が表示され、巻き上げレバーにプラスチックのカバーを追加、シャッターダイヤルのデザインも美しくなり、シンクロターミナルにはカバーが付属、セルフタイマーレバーも細身になりました。FTの時のように測光時にセルフタイマーレバーを操作する必要がないからでしょう。今回、原稿執筆のためにこのNew FTbも探したのですが、出てきませんでした。うちから持って行った人、速やかに戻してください。  

 

FTbの魅力とは何かといえば一言では言い表すのは難しいのです。

 

前機種FTも含めて、ニコマートFTNのように従軍カメラマンのサブ機として使われたという話も聞いたことがありません。フィルム巻き上げレバーは少し重たいけど、小刻み巻き上げを可能にしています。これもニコマート系より優れていルのですが。

 

ニコマートはいずれも金属幕の縦走りフォーカルプレーンシャッターなのに対して、FTbは布幕横走りのフォーカルプレーンシャッターです。ただ、動作音は両者共に小さくはありません。

 

QL(クイックローディング)機構をみてみます。フィルムのリーダー部の先端を赤指標に合わせ、裏蓋を閉じれば、あら不思議、フィルム装填は完了です。が、フィルム自体のカーリングが強いと、先端が丸まり入れづらいんですよね。スプールが存在していないので先端の差し込み口がないからです。だからこのようなフィルムを装填する場合は、フィルムが丸まるのが先か、裏蓋を閉めるのが先かという競争になります。 

 

もっともF-1が登場するまではキヤノン一眼レフはプロ用機としては弱含みでした。背景に物語がないという意味では少々弱く、著名な写真家が愛用したという話も出てきません。それでもFTbは洗練されたイメージがあるのはさすがというか、とても不思議です。おっさんより若者に似合うのは確かですが、もっとも筆者くらいのジジイになると、もう見栄をはる必要もないのでちょうどいいですね。

 

個人的には、いかにもコストダウンをしました、という部位がFTbでは少ないことを評価したいです。

 

本連載ですでに紹介しましたAE-1よりも、FTbのほうが凝った作り込みであることは間違いありません。外装は真鍮製ですし、塗装やメッキの仕上げも良質です。決して小型軽量なカメラではありませんが、使用した時、FTbのほうがはるかに満足感は大きいです。ええ、個人の感想ですけど。

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