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top コラムカメラ悪酔強酒第46回 1981年発売のプロ用フラッグシップ機 「キヤノンNew F-1」

カメラ悪酔強酒

第46回 1981年発売のプロ用フラッグシップ機
「キヤノンNew F-1」

2025/10/31
赤城耕一

キヤノンNew F-1のアイレベルファインダー付きですね。基本はマニュアル機であります。それにしても、モデルチェンジしてもネーミングはF-1のママってのは、信じがたいけど、F-2にしたらニコンみたいになってしまいますもんね。キヤノンのアナウンスではそのうち「New」の文字は取れますね、なんて言ってたけど、最後まで取れなかったと思うぞ。

 

New F-1の発売は1981年だから、私はまだ大学の研究生として残っていて、青臭い写真論をふりかざし、暗室の中で酢酸にまみれていました。

 

New F-1はライバルのニコンF3に1年遅れての登場でした。天下のキヤノンのフラッグシップF-1がモデルチェンジされるのですから注目されないわけはありません。

 

巻き上げレバーはすげーゴリゴリしますね。この辺りはニコンF3には到底及びません。旧キヤノンF-1にも及びません。どなたですかこういう機構設計された方は?

 

社会人になったころプロとして仕事をするならニコンかキヤノンかどちらかを選択せよと先達に諭された筆者でしたが、ヘソがヘンな位置にあったのでしょう。

 

仕事をはじめた当初は両機を無視して学生時代から使用していたオリンパスOMで仕事しておりました。よくアマチュアと間違えられて、記者会見場に並ぶ強面のカメラマンからは訝しがられたりしました。そのころは恥ずかしいとか思わなかったもんなあ。若かったのです。

 

でも特定の師匠がいない筆者は、周囲の先達写真家たちのアドバイスをきちんと聞いて、仕事カメラはニコンF3に決めたというか、いちばん声の大きな人の意見に従うことにしました。これなら現場でも気まずいことにはならず、安パイであります。実は見かけによらず気が小さい筆者であります。

 

しかし、New F-1のことはずっと気になっていました。それは専用のファインダーやモータードライブの組み合わせによってスペックを変えることができたからですね。

 

ファインダーはスライド式で脱着します。安定しとります。ニコンF、F2みたいに無理やり上から押しつけるみたいな方式は採用されませんでした。ファインダー交換というよりお掃除に便利ですね。

 

ノーマルの三角屋根のアイレベルファインダーをつけたNew F-1をシャッタースピード優先AE化するには、ワインダーなりモータードライブを装着しないといけないとか、絞優先AEを使うには専用のファインダーが必要だとか。両優先AEを実現するなら、AEファインダーとワインダーやモータードライブを装着する必要があるとか。だんだん重くなるじゃねえかよ。若い頃は平気だったんでしょうね。

 

これはF3にはない羨むべき特徴でした。でもね、ここまで書いておいて言うのは何ですが。ホントのプロはAEでなんか撮らないからさ、こうした機能はアマチュアを満足させるためにあるんですよね。

 

カメラ雑誌のキヤノンNew F-1の広告には「私はこう組んだ」みたいな、撮影目的に応じ、愛機New F-1を自分なりにコンポーネントしましたと、壮々たる写真家のみなさんがNew F-1を手にしたポートレートが掲載されていましたっけ。何もかも懐かしい。

 

フィルム巻き戻しクランクには白線があります。露出補正、フィルム感度ダイヤル、裏ブタ開閉などやたらロックが多いですね。

 

中央部重点やスポット測光などの切り替えは専用のファインダースクリーン交換によって可能にしているのですが、このあたりスイッチひとつで切り替えられる現代のカメラと比べるとかなり面倒です。

 

たぶんファインダースクリーンは20種類くらいあったんじゃないですかねえ。ありえないですよね。それでもこの手厚いフォローは驚きます。やりすぎですね。撮影条件に合わせてファインダースクリーン交換していた人っているんですかね。

 

またNew F-1は1/90秒よりも高速シャッターでは電源を必要としないハイブリッド方式を採用していましたから、万が一のバッテリー切れでも、日中晴天下ならば問題のない撮影を可能にしていました。まあでも、フツーは予備のバッテリーは持って歩くよね。

 

モータードライブは無調整互換なのは当然として、そのために連結する穴も多いですね。この穴につける蓋って失われている個体多いですね。外した蓋ってモードラやワインダーのどこに収納するんだっけ。教えて知っている人。

 

ライバルのニコンF3は、両優先AEになることはできず、TTLの測光範囲も変えることができません。メカシャッターも1速のみです。

 

とても興味深いのは、F3のファインダー内のメーターは液晶によるデジタル表示ですが、New F-1は旧F-1とほぼ同様のデザインの指針式のままでした。これは搭載された先進のスペックとは真逆の“後退” とも見られかねません。でもマニュアル露出時には指針式のほうが使いやすいですよね。

 

それでも、すでにキヤノンA-1ではファインダー内表示はLEDによるデジタル表示が採用されていました。

 

裏蓋にはローラーが2本あります。フィルムの平坦性に配慮したのでしょうか。普段は見えないところにカネかけていますぜ、ということを主張しております。

 

以降はこれが一眼レフのファインダー内表示の主流になるのではないかと考えられていたので指針表示に戻したのは驚きでしたよ。

 

ちなみにカメラ雑誌の記事には、指針式は振動に弱いから液晶やLEDや液晶表示がいいとか書いてありましたが、だとするとこれは矛盾しちゃいますねえ。

 

New F-1が登場しても愛機F3を握りしめ、スペック勝負に負けたと悔しがることはありませんでした。

 

実はですね、ここだけの話にしておいて欲しいのですが、アイレベルファインダーのF-1のシャッターダイヤルの外周を引き上げて、「A」位置にすると、AEファインダーを使わなくても絞り優先AE制御になるみたいですね。ファインダー内表示はないし、露出制御が正確かどうかわからないけど。でも動作音聞いていると、なんだかイケそうなわけ。じゃあさ、なぜAEファインダーがあるんだって話になると困るよなあ。

 

理由は単純、アサインメント撮影で当時のプロはAE撮影を行うことはほぼなく、広告系の仕事では大、中判カメラを使用するのがデフォルトでしたので、正直プロは35mm一眼レフのことなどに関心はなく、どうでも良かったわけです。

 

ちなみに報道畑とかファッションとかの撮影には35mm一眼レフも活躍していました。個人的にはアクセサリーの選択と組み合わせでスペックが変化するNew F-1にはメカニズム的な興味は強くありましたが、条件や被写体に合わせ、現場でコンポネントを意識して、バッグからアクセサリーだして、取り替えて、撮影するというプロにお目にかかったことはありません。

 

ちなみにこれだけの優れた選択AE方式を採用しているのにNew F-1にはAEロック機構はありませんでした。両優先AEなんて言いながら、なんだか最後のツメが甘いと、カメラ雑誌のテストレポートに書かれていました。あ、筆者は言ってませんので念のため。

 

シャッターボタン半押しでスイッチ入るんですが、話すと切れるんで、ホールド位置にしておくと電源入ったままになりますね。このスイッチは旧F-1と同じような場所にあるよね。

 

実用かどうかは別として、F3に搭載されたTTL自動調光機能も採用されていないこともなんだか遅れている感じがしましたね。実用一直線のカメラという考え方だったのでしょうか。

 

ニコンF3も同様ですが、プロ用フラッグシップ機と名づけられても、繰り返しますが実際のお客さまはアマチュアのみなさんたちのものなのですよ。本当ですよ。

 

往時のカメラマニアの多くはスペック至上主義だから、多機能でないと納得しませんね。New F-1はカタチを変えることですべての人たちに満足をもたらそうと考えたのかもしれませんね。ムリだと思いますけどね。フラッグシップだから、来週も続けてNew F-1の話をしようかなあ。使い勝手の話まで、なかなか行き着きませんものね。

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