ベッサL +セレナー35mmF3.2付き。ズームファインダーを使用してフレーミングします。距離は目測。日中晴天下なら絞り込んで被写界深度を稼いで撮影するスタイルになります。
無理をしてライカを目指さなくても、ライカ的なパフォーマンスは十分に楽しむことができる。このことはコシナ・フォクトレンダー BESSA-Lを使用してみるとすぐに理解することができるわけです。
BESSA-Lは大胆にも、コシナ一眼レフをベースとしており、マウントはライカスクリューマウント、TTLメーターは幕面測光、遮光シャッターを装備しファインダーを取り払った広角レンズ専用カメラとしてデビューしました。距離計は当然ありませんからフォーカスは完全目測となります。
レンジファインダー→一眼レフという方向性で、かつて、ニコンSの機構をベースにニコンFが登場したことは有名ですが、これとは逆のコースを採用したことになります。
BESSA-Lはちいさな箱みたいでした。いやカメラだから小さな暗箱ですね、機能は削ぎ落とした、なかなかキュートなスタイリングになりました。ただ、プラスチックのカバーの採用など、そこに高級感があるかと問われると、少々厳しいものがあるのは確かです。それでも、ベッサ初号機としてはその機構的な完成度は高いものがありました。
感覚的にはBESSA-LはスクリューマウントライカのライカIcとかIfあたりを設計、商品思想のベースとしているわけですが、それらはもともと科学写真用とかポストライカなど、特殊用途のために作られました。ところが一部の写真家はフォーカシングの不要な超広角レンズをつけて使用することでフォーカシング不要の超広角専用カメラとしての役割も担い、スナップショット撮影にも使われました。
シャッター幕がグレー塗装されているのは、TTLメーターで幕面測光を行うからです。正確な露出を計れるのは強みでしょう。
このあたり、ファインダーのないライカは特殊だったけれど、BESSA-Lでは一般的な製品にしようというたいへんな冒険があったはずです。それでも本当にこれを実現してしまうところがコシナのコシナたる所以でしょう。そう考えようによっては正気の沙汰ではないからですが、このコシナの冒険は今日にまで至るのはユーザーならよくお分かりのことと思います。
個人的にはスクリューマウントライカに極端な広角レンズを使いたくないのです、その多くはコマ間隔が狭く、さらに超広角レンズを使用すると、アパーチャーサイズが大きくなるため、コマ間にハサミを入れて切り離すのは、困難を極めました。自家で現像している人ももちろん困りますし、筆者はこれらのライカでポジフィルムを撮影した時に、プロラボに依頼したのですが、コマ間にハサミを入れられず、ロールの状態で仕上がってきたことがあります。
BESSA-Lはそういう心配はないのですが、コマ間隔が不揃いだったり、パーフォレーションにかかってしまうことなど、いささか雑駁な面があったことは否めません。けれど、コマ間にハサミを入れづらいということはありませんでした。
またシャッター音は、金属縦走りに加えて、遮光用シャッターを備えているためでしょうか、ライカとと比較するとかなり大きいですし、レバー巻き上げを採用はしていますが、小刻み巻き上げもできません。
でも、BESSA-LにはTTLメーターを装備していますからビギナーにも安心して使えますし、シンクロ速度は1/125秒だし、最高速は1/2000秒まであり、セルフタイマーも内蔵しています。
“感触” や“動作音”を別とすれば、上記のライカと同じ仕事をするわけですね。ここで気持ち的に割り切り、創造のためのカメラとして見ることができるかどうか、ということが使用判断のしどころでしょう。
遮光シャッターを追加採用したのは、縦走り金属幕シャッターの幕の間から漏光の危険があったわけで、当然コストがかかる仕様となりますが、このことに対応したコシナのカメラに対する矜持を感じる点でもあります。ちなみに同年代に登場したレンジファインダーカメラの安原一式は、遮光シャッターを備えていませんでした。
またこれも、余談ですが、同じ金属縦走りのシャッターを採用したニコマートFTシリーズはミラーアップを可能としており、後玉の突き出た、魚眼レンズや対称型設計の超広角レンズの装着を可能としていましたが、筆者の知るかぎりニコマートにおいて、漏光のクレームって、あまり聞いたことがありません。コシナはお金をかけても暗箱たるカメラを完璧にしたかったのでしょう。
国によってはCOSINA 107-SW名で販売されました。フォクトレンダーの商標の扱いが大変だったのかもしれませんね。コシナが世界的に有名になった今、そんなに違和感を感じませんね。
BESSA-Lに合わせて用意されたレンズはスナップショットスコパー25mm F4と、スーパーワイドヘリアー15mm F4.5ですが、Fナンバーが大きいのは低価格、小型軽量、高性能を目指したという点もあったのかと。
また、目測カメラ用レンズですから、距離計のカムを省略していますし、一眼レフのようにファインダーが暗くなることもありませんから、コストを抑えることができるという利点もあったのでしょう。
ふたつのレンズは描写の良さもよく知られており、とくにスーパーワイドへリアー15mm F4.5はコシナ・フォクトレンダーの歴史を作ったレンズとして、デジタル対応した後継モデルがIII型となって現役販売されていることは周知のとおりであります。
フォクトレンダーは、世界最古の光学メーカーですが、日本ではカメラ好きには知られていますが、一般的にはライカほど有名ではありません。それでも、このブランドを冠することで、存在感を強め、広く世界にブランド名が知られたのはとても良かったと思います。当然コシナの名も世界に広く知られるようになりました。
コシナ・フォクトレンダー・スーパーワイドヘリアー15mm F4.5の時代的な遍歴。右からⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型。コシナを代表する超広角レンズゆえに時代に合わせて発展してきました。III型ではデジタル対応になり射出瞳径が見直され、周辺まで光が入ります。
BESSA-Lがコシナ・フォクトレンダーシリーズの初号機となったことは注目すべきことであります。筆者もその誕生時からおおよその経緯を知っておりますが、その後の発展に夢を持てたことは良かったと思います。仮に、販売状況が思わしくなければ考え直せる余裕がありますが、そんな心配はなく、BESSA-Lと2本の超広角レンズの評判は上々でした。
BESSA-Lをひっくり返して、マウント内の上部をみると、距離計コロを備えるための切り欠き、スペースが存在していることも見てとれました。そう、すでにBESSA-Lには将来的に距離計を搭載する発展的要素が備えられていたわけです。
こういうアナログ的な予想がついてしまうところに、フィルムカメラの面白さがありますが、その後の展開はご存じのとおりです。
実は機能の発展だけが、カメラの魅力ではないということは、あらためて思い知ることができましたし、多くの人が高機能カメラやまもなく到来するデジタル化を迎え、少し忘れていたところでもありました。
もちろんこの評判の高さは、レンズの写りの素晴らしさあってのことで、コシナは間違いなくBEESA-Lにて「フォクトレンダー」の再生に成功したわけです。
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