top コラム推すぜ!ニコンFシステム第54回 メカニカルと電子のハイブリッドシャッターを採用した「ニコンFM3A」

推すぜ!ニコンFシステム

第54回 メカニカルと電子のハイブリッドシャッターを採用した「ニコンFM3A」

2023/09/21
赤城耕一

FM3A登場までの経緯〜FMとFEシリーズの歴史

 

ニコンZ fの登場で久しぶりに沸いている状況ですが、みなさんお買い求めになるんですか? 羨ましいですねえ。
 

私のZ fのレビューですか? 来月あたりからおいおいと述べていこうかと考えておるところでございますが、どうなんかな。
 

でも本連載では、今回はニコンFM3Aの話をしようと思います。

 

端正な顔立ちだと一瞬思うのですが、斜体のNikonロゴが美しくないですよね。銘板張り替えサービスとかやればよかったのにね。


 Z fはニコンNew FM2のデザインを参考にした「ヘリテージデザイン」であることがアナウンスされていますが、機能を照らし合わせてみると、FE2とか、このFM3Aのほうが近いんじゃないかと思います。なんかみんなNew FM2にこだわりますよね。長命だったからでしょうか。
 

ニコンFM3Aは2001年の登場から愛用しております。デジタルとの端境期ということもあり、第一線で活躍したという印象はないけど、シンプルなMFの絞り優先AE一眼レフということもあり、プライベートな撮影ではそれなりに使いました。
 

うちにはFMやFE、NewFM2のブラックもクロームもあり、かつNew FM2/Tもありましたが、FM3Aにお越しいただくことにしました。このニコンの無謀な企画に賛同したからであります。
 

まずはFM3A登場までの経緯、というかFMとFEシリーズの歴史を簡単にみてみます。
 

FMシリーズの初号機、ニコンFMは1977年のニコンのAi化に伴い、小型軽量のマニュアル一眼レフとして発売されました。Fシリーズの下位のクラスであったニコマートFT3の後継を担うもので、縦走り金属シャッターが搭載されています。基本ベースはメカニカルのニコマートなのですが、大幅な小型軽量化を達成したこと、モータードライブが無調整で装着できることなど、それまでのおっさんくさいニコマートの雰囲気を払拭しておりますね。いや、筆者はニコマートはかなり好きですからね、念のため、おっさんだし。

 


MD-12を装着したFM3A。いかつい感じになりますが、グリップ感がいいためか手ブレ補正の危険度が減少する感じがします。気のせいですけどね。その分重たくなるし。バッテリーが新しいうちは軽快なんだけど、意外に早く疲れる感じがします。うちの個体だけかな。

 

兄弟機の絞り優先AEを搭載したFEは1978年に登場します。おや、中身を見たら、メーターは指針式ですね。マニュアル露出でも使いやすい。少し時を経て、1982年に最高速1/4000秒、1/200秒シンクロを可能にしたFMの後継機FM2が発売されます。さらに絞り優先AEを搭載、シンクロ速度を1/250秒としたモデルが1983年のFE2になります。
 

1984年にはFM2を改良したNew FM2が登場、FMシリーズとしては3代目となります。1/250秒シンクロを最初に達成したのはこのシリーズではFE2でした。
 

これらのカメラの登場した時代は筆者も駆け出しの頃なのですが、この頃はルポルタージュや報道など雑誌の仕事も受けていたので、何よりも1/250秒のシンクロが魅力的でした。

 

同業者がたくさんいるような大混乱の事件や事故現場で日中シンクロを行うのはマストだったからです。TVクルーの大光量のライトなども、撮影の妨げになり、高速シンクロは便利でした。このため、当時のフラッグシップだったF3よりもNew FM2やFE2の使用頻度は高くなる一方でした。
 

ニコン愛用の報道カメラマン多くはFE2とNew FM2の2台体制を組んでいました。New FM2はフルメカニカルだからバッテリーがなくても動作するというバックアップカメラという重要な役割もありました。実際にバッテリー切れて困りましたということはなかったのですが。
 

FM3Aの上下カバーは真鍮製で、ブラックボディもペイント仕上げでした。ただ、シルバークロームボディのほうはNew FM2の時よりずいぶんと質が変化して、「白っぽい」印象になりました。シャッタースピードダイヤル周りも白くするなど徹底しとります。この当時の少し高級なカメラは金属製であることをウリにしていましたが、多くはマグネシウム合金でした。これが今も続いていますが、筆者に言わせれば、なんちゃって金属という感じがします。
 

ものすごくびっくりしたのはNikonのロゴがAF一眼レフに合わせて斜体のそれになってしまったことでした。これには絶望しました。筆者も大いに不満で、恐れ多くも、ミスターニコンの後藤哲朗さんにインタビューした時に、このことを進言したことを思い出しました。まだ私も若かったから怖いもの知らずでしたねえ。後藤さんにロゴの変更の件で意見したところ「大丈夫です、そのうち見慣れますから」とはぐらかされてしまいました。
 

コパル製のハイブリッドシャッター音はNew FM2のそれよりも小気味よく低音質に響く印象です。
 

全体には裏蓋の建てつけ、細かい作り込みはNew FM2を踏襲するだけではなく、もう少し気合いが欲しかったというのが正直なところです。

 


DXコードが採用されたので、対応するフィルムならISO感度合わせ不要です。特に便利だとは思いませんし、多種の感度のフィルムなんかもう使わないし、地味にやっている写真家にはいらんかな。

 

少し脇道にそれますが大切なことなんで言っておきます。New FM2のTTLメーターは中央部重点測光で、表示はFMと同じ赤色LEDで+○ーの3点表示方式でした。真ん中の○だけが点灯すれば適正露光、+と○、○と-だけの同時点灯する場合は1/2オーバーとか1/2アンダーのように判断します。ーだけ、+だけの点灯は適正露出から1段以上露光値がズレているというアバウトさです。

 

ニコンの絞り優先AE一眼レフはニコマートELからFEを経て、FE2に至るまで、同じ指針式の表示形式を貫いています。

 

DXコード用のパトローネ室の中の電子接点が美しくないです。金メッキはしてあるけどさ。便利さと引換えに落とした品格みたいな(笑)。なんかコストかかりそうだし、いらないよね。昨今の怪しいフィルムなんか廃棄されたパトローネをリユースする詰め替え品だったりするのでDXコードは役立たないわけ、かえって感度設定が変わって危ないし。

 

バッテリーがなくても、全速のシャッタースピードが正確に機能します。

 

マニュアル露出設定にした時も指針式の露出のズレ量が瞬時に掴みやすいのです。設定シャッター速度の指針とメーター指針を合致させれば適正露出表示となります。指針の両者が離れていれば、何段の露出差があるのか瞬時に面積として知ることができます。
 

New FM2の後継であるこのFM3Aでは指針方式を採用しています。FM3A登場当時でも、メーターのパーツを調達するのは苦労したという話を聞きました。メーター表示もLEDや液晶表示が一般的になっており、アナログの指針式はこの時代でもすでに旧式のものだったからです。
 

とても興味深いのは、絞り優先AE機なのに、なぜネーミングがFE3ではなくてFM3Aになったのでしょう。
 

この理由はFM3Aにはメカニカルと電子のハイブリッドシャッターが採用されていたからでしょう。つまり、バッテリーがなくても、全速のシャッタースピードが正確に機能します。もちろんFM3Aでも最高速1/4000秒、最高シンクロ速度1/250秒はそのまま踏襲されました。すばらしいです。

 


ニコマート時代から連綿と続く、フィルム巻き上げレバーの「小刻み巻き上げ不可」がFM3Aにも適用されたことで暴れたくなったのですが、我慢しました。AEロックはセルフタイマーから背面のボタンに移りましたが、使う人はいるんですかね? マニュアル露出に切り替えた方が早いですね。

 

デジタル一眼レフ移行期に、これだけ完成度の高いMF一眼レフカメラを作り上げたことは、
今も称賛に値する

 

それにしても、しつこく言いますが、AF一眼レフ全盛からデジタル一眼レフ時代を迎えつつあった、この時期に、あえてMF一眼レフを新製品として発売したことはほんとうに驚きでした。
 

もちろんニコンのことですから勝算はあったと思います。ただ、写真学校の新入生に売るだけではモトはとれません。筆者をはじめとするFM時代を知る人たちに向け、企画れていたことは間違いありませんが、これが現在のZ fとは違うところであります。
 

FM3Aのようなカメラは他のカメラメーカーには決して真似することはできないでしょう。それは不変のFマウントを守り続けたこと、ニコン独自の資産を生かし切った製品だからできることですね。感動します。
 

FM3A発売当時でもフィルムカメラは趣味性が強くなければならないと考えられていたのかもしれませんが、実用一点張りではなく、デザインやダイヤルなどの回転や動作感触も保たれているのことも評価したいところです。使用していて心地いいカメラであることは間違いないでしょう。ツッコミどころは皆無じゃないけどね。

 


New FM2までは巻き上げレバーの軸の根元上には革が貼ってなかったっけ?FM3Aにはないね。こういう瑣末でかつつまらないところにこだわる自分が嫌だけど、とりあえず報告しておきます。

 

また、エラいのはFM3Aはフォーカシングスクリーンも新型にしたことです。明るくキレよくなったというふれ込みでした。
 

ホントか? 正直、筆者にはその効用はよくわかりませんでしたが、この新型のスクリーンはNew FM2やFE2にも使うことができましたので、スクリーンをたくさん買い込むハメになりました。ろくに使いもしないのに、新しいスクリーンが入っていないとイヤなわけです。ええ、カラダはデカいですが、小さな男です。
 

デジタル一眼レフ移行期に、これだけ完成度の高いMF一眼レフカメラを作り上げたことは、今も称賛に値する価値ある仕事だと思います。   
 

うちのFM3Aくんはブラックなので、そのうちシルバークロームボディを探してお越しいただこうかなとも考えています。使わないけどね。こんな時代ですし、アサインメントに持ち出すわけじゃないから、2台持ちなんか必要はないのですが、なんとなく2台とも手元に存在しないと落ち着かないのです。ニコンに忠誠を誓えていないような気がするからでしょうか。アブナイですね私。

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