top コラム推すぜ!ニコンFシステム第26回 まったく新しいデザイン、小型軽量化されたボディは新しい時代を感じさせる「ニコンFM」

推すぜ!ニコンFシステム

第26回 まったく新しいデザイン、小型軽量化されたボディは新しい時代を感じさせる「ニコンFM」

2023/03/10
赤城耕一

完全な新規設計による、AI方式一眼レフ「ニコンFM」の登場

 

ニコンのAI化は、すでに本連載でお話をしているとおり、Fマウント規格を維持することは当然のことながら、旧来のユーザーにできるだけ迷惑をかけないようにという考え方をもとに進められたのではないかと思います。
 

レンズを「資産」として考え、新型のカメラを購入して、手持ちのレンズを装着しても機能的な制約がなく、開放測光で使用できるようにするというコンセプトをもとに進められています。

 

このことは高く評価しますけど、AIと同時に登場するかと思われたカメラボディの方に手が回る余裕はなかったのでしょうか。当初、AI化されたカメラボディは、ガチャガチャ方式の旧ボディ(F2ではフォトミックファインダー)にAI方式を搭載した程度のマイナーチェンジの範疇に入ってしまうわけです。中身を総入れ替えしたとされるニコンEL2にしても、外観からはニコマートからニコンへと名称は変わりましたけど、前機種のニコマートELWとの違いが伝わりづらいところがありますね。

 


AI連動レバーです。右がロックボタン。このレバーを跳ね上げれば、旧来のNew ニッコールレンズ、ニッコールオートレンズも装着できます。このあたり、FMはAI方式最初のオリジナルモデルに入りますから親切な対応が行われています。

 

AI方式への移行は大きなプロジェクトだし、ここでニコンのカメラの方も一皮剥けたなあと感じさせるAI方式の一眼レフカメラが必要なんじゃねと考えていたところに、ニコンFMというカメラが1977年に登場します。最初っから登場しなかったのは作戦なんでしょうか。
 

まったく新しいデザイン、小型軽量化されたボディは新しい時代を感じさせるニコンとして、非常に注目されたことを記憶しております。
 

価格的にも廉価に設定されましたが、これは海外からの要望などにも応えたのでしょう。営業戦略というやつかと。完全な新規設計モデルですから、AI化以前から開発には着手していたはずですし、AI化発表と同時に発表、発売されても良さそうなものですが、この当時はどのような考え方だったのでしょうか。単に登場が間に合わなかったのか、それともせっかくニコマートFT2の在庫をチャチャっといじくってFT3にしちゃえという無駄を少なくしてやろうという試みだったのでしょうか。これは筆者の推測でありますので信じないでください。

 


ボディ軍艦部右。ニコマートFT系では空き地になっていたところにシャッターダイヤルが!というのは大袈裟ですね。黒色というのもアクセント的にいいと思います。これで一般的な一眼レフカメラになりました。シャッターダイヤルの下のボタンは多重露光用ですね。巻き上げレバーにも革が貼られていたり細かい部位に気配りがあります。

 

それまでのニコン一眼レフよりも小顔であり、引き締まった印象

 

ニコンFMはニコマートFT系とは大きさも重さも違いますし、シャッタースピードダイヤルの位置関係も異なり、今ふうにいえばUIも大きく変わることになりました。ニコマート系の武骨なデザイン(悪口ではありません)も一新されて、手になじみやすい形に変更されています。もちろん好みはあるでしょうけどね。
 

一眼レフの小型軽量化は、オリンパスOM-1から始まって、ペンタックスMXにも波及しましたし、この時代の流れとしては当然の傾向であって、ニコンはデカい、重たい、価格が高いが頑丈でいい、みたいな神話にいつまでも頼っていてはマズいということでFMが登場したのかもしれませんねえ。時代の推移に合わせ、カメラだって印象を変えてくるのは当然のことです。

 


巻き戻しノブです。周囲にローレットが刻まれています。基部にロックレバーでこのレバーをずらしながらノブを引き上げないと裏蓋は開きません。レバーは金属製のように見えますが、高級感を損なわないように考えられているのでしょうか。

 

ニコンFMの細かいスペックは少し調べていただければわかると思いますので、例によって、個人的な印象や使い心地を主に述べてゆくことにします。
 

登場当初、デザインはインパクトありました。それまでのニコン一眼レフよりも小顔であり、引き締まった印象でした。今ではそんなことは誰も思わないでしょうけど、それまでのニコンのイメージとは変わりました。若者に向けたところもあったのかしら。 
 

FM登場の前年の1976年に登場したキヤノンAE-1には専用ワインダーが用意され話題を集めていましたから、新型の一眼レフにはワインダーなりモータードライブが用意されていないと勝負に勝つことができません。無調整で装着可能なモータードライブMD-11が用意されたことも当然の仕様となったのでしょう。

 


左からセルフタイマーレバー、プレビューレバーです。セルフタイマーにも革が貼られていますのはいいけど、メンテの時には剥がすんじゃないかな。プレビューレバーは実絞りに絞り込み、被写界深度を確認するためのもの。でも35mm一眼レフのファインダーでは実際はよくわかりませんね。4×5ビューカメラくらい大きくないとねえ。ま、気休めですが、これが省略されると廉価モデルとして扱われます。

 

久しぶりにニコンFMを機材ロッカーから引っ張りだして、あれこれと操作してみた

 

個人的にはオリンパスOMシリーズに傾注しておりましたので、ニコンFMにも注目していました。
 

コパルの縦走り金属シャッターはニコマートFT系譲りでもありますしOM-1の横走り布幕シャッターよりもエラそうでしたし、受光素子のGPDもファインダー内のLED表示も先進性をみせていました。でも、前者はシャッターの動作音は大きめになりますし、後者は露出のズレ量が指針式よりも少々わかりづらいというマイナス面もあります。
 

それでも時代に合わせていちばん進んでいるであろうパーツなり機構を取り入れるというのはコストの低減もありますし新型カメラとしては当然でしょう。
 

大きく重たく、高額であることはニコン一眼レフの特徴でもありながら、3悪とする意見もありましたからねえ。ニコンFMはこうした問題にもきちんと向き合い、そこに切り込んできたわけですね。ニコマートFMではなくて“ニコン”FMなんだぜという強い主張も感じました。 

 


シャッターボタン周りのリングですが、この個体は初期型らしく細かい網目上のローレットが刻まれておりますが、後期のモデルからは省略されてしまうらしく。コスト削減のためでしょうね。つまらないですね。リングを持ち上げて赤線に合わせるとシャッターボタンはロックされます。

 

今回久しぶりにニコンFMを機材ロッカーから引っ張りだして、あれこれと操作してみました。正直、軽んじて見ていたところもなきにしもあらず。でもね、実際に使用してみると年寄りにも扱いやすいカメラでもありますね。
 

特別な機能こそ何一つなく、動作感触や動作音なども、官能的なところはありませんが、締まりがあるというか、一緒にいても邪魔にならないヤツというか、愛いやつじゃないかと思えるようになりました。FMが現役時代にはさほど感じなかったことなので、こちらが年寄りになり価値観が変わったということなのかもしれません。

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