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第48回 ニコン第5のフラッグシップ機「ニコンF5」前編

2023/08/11
赤城耕一

ここまでやるか!のニコンF5

 

1996年10月に、ニコン第5のフラッグシップF5が登場します。
 

これね、今はもう時効でしょうから言いますけど、発売前からメディアに貸与されていて、筆者も『アサヒカメラ』の特集ページのためにテスト撮影していました。ニコンの気合いももちろんですが、カメラ雑誌の期待も大きかったのです。

 


ここまでやるか!のニコンF5でした。ボディ上面からはシャッタースピードダイヤルがついにいなくなりました。最高のポテンシャルを発揮させるにはAFニッコールDタイプレンズの使用がマストでした。基本的にはAFニッコールなど絞り環のあるレンズは最小絞りに設定し、カメラ側から絞りをオペレーションします。

 

なんせ、F4とは違う姿であり、スガタとカタチを人に見られないように作例を撮れとか編集者に言われまして、今なら「けっ」とか思いそうですが、若き日の筆者は真面目が人間の皮を被っているような、正統派のレビューワーでしたから、F5の本体にパーマセルを巻き付けるように貼って、しかも、人がいるところでは消音ケースに入れて撮影するなど、徹底してその姿を隠していました。通常の製品の何倍も気を使いました。あ、いまも発表前の製品は、ちゃんと隠してますから念のため。
 

たしか、上野の不忍池だったと思うのですが、ここで撮影していたときにカメラレインコートや消音ケースに入れて、完全にF5が見えないようにして撮影していました。
 

筆者が異様な雰囲気に見えたのか、「鳥の撮影ですか?」と、アマチュアカメラマンが近寄ってきて、あわててごまかしたという経緯がございました。今年ほどじゃないけど、夏の暑い日なのに、消音ケースを使用してしていた姿がヘンだと思われたのかも。中に入れたままボディを握っていた手が汗でベトベトになり、指先が風呂上がりみたいにシワシワになったことを覚えています。なんだか割に合わねえ仕事だと思いましたぜ。

 

この当時のカメラ雑誌って、ニコンやキヤノンのフラッグシップが登場すると、半年はネタとしてひっぱれるんじゃないかというくらいの気合い入れてましたからねえ。取材にもお金使ってましたね。出稿もあったんだろうけど。筆者もF5を携え、モデルさん、アシスタントを連れて、宮古島でロケしたもんなあ。たかがカメラ雑誌のご紹介記事に。信じがたいでしょ?なにもかも懐かしいですけどね。

 

撮影には関係ない仕上げまで気を使っているのです
 

F5はスペック的に素晴らしいものがありましたよ。アルミダイキャスト製のボディ、たしかファインダーの外装はチタンでしたよね。F4みたいに割れてしまうということもなくなり、すばらしき堅牢性を有しています。一言で言えば戦車みたいな感じでした。ライバルとなるキヤノンEOS-1Nとかプラスチッキーなカメラですから尚更でした。何度もいうように、フラッグシップだって、アマチュアの方々に購入していただかねばならないので、撮影には関係ない仕上げまで気を使っているのです。

 

F4では中央1点だったAF測距点も5点に増えて、不規則に動く動体の捕捉も安心して撮影できるようです。EOS-1系カメラに水をあけられてきた悔しさをブツけてきたわけです。

 


測光切り替えノブか。マルチパターンが中央位置、右がスポット、左が中央部重点測光

 

でも、筆者はカメラに向かってくるバイクを連写したのですが、思いのほか合焦の成績が悪くて、『アサヒカメラ』のニューフェース診断室のドクターだった小倉磐夫先生が意地悪そうな笑い声を発して、ロールのポジフィルムを眺めていたことを覚えております。これはちょっと怖かったですが、原因はバイクのライトが点灯して走行していたことで、レンズに光が直接入り、AFが幻惑したのではないかという結論になったようです。
 

今みたいに、被写体を「バイク」と認識するわけではないので、あらかじめAFの設定とかエリアの選択とかも、撮影者が工夫するとか設定を考えねばならないことだったのでしょうねえ。普段撮り慣れてないバイクを撮影したから筆者がヘタ打ったのかもしれません。今さらながらですけど。

 


シャッターボタン周りのボタン類。F4ではダイヤルだった、露出補正が、ボタン+コマンドダイヤルの方式になり。カメラの露出精度が高いのでこれでいいやと思ったんですかねえ。ベテランほど数値上の精度が高くても、お仕着せのカメラの露出は気に入らないわけで。

 

コマ速度は最高で8コマ/秒。最高速シャッターは1/8000秒です。何を撮るのかなあ。大口径レンズを真っ昼間に撮影して、大きなボケを楽しむのかしら。それに連続撮影すると36枚撮りフィルムが数秒で終わります。
 

外観で興味深いのはF4に続いてフィルム巻き戻しノブとクランクが残されていることですね。いや、筆者のようなおじいさんにも安心してもらえるためでしょうか。これはフィルムを手動で巻き戻すのではなくて、正常にフィルムが巻き上がっているか、どうかをノブの回転をみて「よしよし」と、ひとりごちて満足するわけです。

 


フィルム巻き戻しノブ。基部はISO感度ダイヤルではなくて、コマ速度切り替え用になりました。

 

はじめてポジフィルムでAE撮影したのがF5だったような覚えがあります

 

AE露出に関しても3D-RGBマルチパターン測光という新機軸を打ち出してきました。「撮影距離」も「色」もカメラが情報として加えて露出に反映しちゃえということらしく。そうですね。


筆者もはじめてポジフィルムでAE撮影したのがF5だったような覚えがありますね。露出精度が高い証拠ではありますが、それでもね、「F5が読んだ」露出が必ずしも自分の適性とは限らんのですよ。あ、またこういうことを言い出すと話が長くなるわけですが、フツーの写真を撮るのならば、F5任せの露出でイケるということでありますから念のため。

 

ファインダー交換ができちゃうのもアドバンテージでしたが、アクションファインダーに交換して撮影していたプロをみかけたのは、一度だけでしたかねえ。これもプロのためというよりアマチュアのためですね。EOS-1系ではファインダー交換はすでに捨てていたわけですからF5はエラかったですね。でも、後藤哲朗さんは交換ファインダー販売の売れ行きがいまひとつだと言ってたなあ。そう言われると今さらながら欲しくなりますね。とくにアクションファインダーとか、測光系は同じように使えますし。

 


ボディ背面。そのままLCDつけたらデジカメじゃんという雰囲気あり。実際にF5をベースにしたDSLRはこの後すぐに出てきますね。コダックのモノクロ専用機なんかもありました。丸いボタンは測距エリアを移動するためのスイッチ。控えめな大きさかも。この当時から測距点を素早く移動させるにはどうしたらいいかという論議はありました。いわゆる“グリグリ” をどうするか問題です。

 

ファインダーの装着時のフィーリングとかね、スライド方式なんだけど、きっちり、かっちり作られているという感じがたまりません。あと、バッテリーホルダーを閉める時の音は高級外車のドアを閉める時の音と同じです。気密性が高いわけで、これだけも感激しますね。
 

F5に関しては、まだね個人的にもいろいろと言いたいことがあるので、後編に続きます。

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