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推すぜ!ニコンFシステム

第2回 ニコン一眼レフ初号機でありながら、すでに高い完成度を誇った「ニコンF」

2022/09/22
赤城耕一

ニコンFブラックです。ニッコールSオート50mmF1.4つきです。カニの爪(露出計連動爪)は尖った初期タイプで、ペンタプリズムと呼応しているようですね。メンテナンス時に外観のパーツが換えられていたりして、コレクターさんに叱られそうな個体なので謝ります。すみません。

 

F3より愛でることができる仕事のサブ機

 

駆け出しの頃はトヨビューの4×5担いで建売住宅とかマンションの撮影しておりました。フリーになってからも広告関連の仕事をしていましたが35mm判カメラを使うのはごく稀で、最低でもペンタックス67のような中判カメラや大判カメラに6×9判のロールフィルムホルダーを使用したりしていました。
35mm一眼レフをアサインメントで使用したのは雑誌の仕事も始めた頃で、仕事カメラは当初は学生の時に使用していたオリンパスOM-2Nあたりを無理やり持ち出して使用したりしていたのですが、さすがに限界を感じてニコンF3を入手し、これをメインの仕事カメラとしました。
ニコンF3は今では愛でるカメラでもあるのですが、当時は仕事カメラは戯れる対象にはならなかったように思います。
 

そんな頃、これは避けて通ることができないと思ったのがニコンFでした。これ、避けて通れないと考えた理由は漠然としているのですが、単純にデザインが好きだからです。F3よりも愛でることができると確信しました。
もちろんF3とレンズが共通で使用できますから、愛でる対象としても、メカニカルカメラですから仕事のサブ機でも使用できると自分に理由づけして入手しました。
 

実際にも仕事で何度か使用して、きちんと結果を出しています。同じフィルムと同じレンズを使用すればF3で撮影した写真と同じですからね、これ、当たり前のことですが、デジタルカメラでこうはいきません。
ニコンFのデザインは亀倉雄策さんですよね。ニコン一眼レフの初号機にして、もうこれ以上いじくれないというくらい完成度が高いと、個人的には今でも思っています。
 

ベース機はニコンSシリーズ、でもスクリューマウントライカ色も濃厚?

 

しかし、Fのアイレベルファインダーの頭頂部はペンタプリズムの形そのままじゃーんとツッコミを入れたくなるくらい尖っていますが、これがF3のつぶれたケーキの箱みたいな形と比較すると鋭さを感じていました。
他にもペンタ部の外装を尖らせたカメラはなくはないですが、ここまでトンガリを主張しているカメラはそう多くないですし。このままカメラをひっくり返して手にしたら、凶器にもなりそうです。
 

当時の感覚だとそれまでのレンジファインダーのSシリーズに対して、徹底してネガな部分を正すのだという勢いがFにはあったのではないでしょうか。ツッコミどころのない万能カメラを目指したのがニコンFだったのではないかと。

 

でもニコンFのベース機はレンジファインダーカメラのニコンSシリーズと言われています。
Sシリーズは外観やマウント、裏蓋の着脱方式などはコンタックスを採用、シャッター給送など構造的なベース機はスクリューマウントライカなわけです。使いづらいと言われたシャッターボタンのボディ手前にある位置関係なんか、スクリューマウントライカのそれですよね。ただ、着脱式の裏蓋はコンタックスのそれに似ています。シャッターボタンの位置関係や横走りフォーカルプレーンシャッターをみるとニコンFの構造って、素人目にはスクリューマウントライカの血脈の方が強いように見えますが、はたしてどうなんでしょうか。

 

シャッターボタンが引っ込んだ位置にありますから、他のカメラと共用すると、戸惑うこともあるのですが、筆者はスクリューマウントライカを使用していることもあり、指が覚えてしまったようです。

 

見たもの全てがきっちり写る!

 

レンジファインダーのファインダー機能と一眼レフのそれでは、大違いだなあと思ったのは、ニコンFは最初から視野率が約100パーセントだったことです。
Sシリーズニコンで唯一パララックスの自動補正が行われるSPのそれも、視野率に関してはかなり怪しいというか、低いというか、見たものはとりあえず写るけど、余分なものが写っちゃうこともありますから、これは仕方ないですよ、という宿命を抱えておりました。
Fは見たもの全てがきっちりと写るのですから、これは褒め称える必要があるというか、レンジファインダーのコンプレックスを解消したことになります。
 

ただ、現在もそうらしいのですが、光学式の一眼レフの視野率を100パーセントにするには部品加工や組み立て時に相当な精度が要求されるとのことで、コストがかかります。たいへんな加工技術と組み立て精度なのであります。
これはFに限らずですが一眼レフはブラックアウトという問題が新たに発生しました。つまり撮影者は「露光している瞬間は被写体を見ていない」という問題を背負うことになるわけです。いわば構造的欠陥ともいえるわけです。
 

一眼レフに慣れている人は、ブラックアウトをそう大きな欠点とは思わないわけですが、レンジファインダーカメラから一眼レフにシフトした人はどんなことを思うんでしょうねえ。新しいものに馴染むのに時間がかかるみたいなトシくった筆者のような人も当時ではいたとの話もあり。もっとも一眼レフを使う場合にも両目を開けて撮ればある程度解消できるカメラもありました。

 

撮影者の存在を消してしまう「ささやくような」シャッター音

 

1980年代に入ってからも現役でニコンFを使用しているプロを目撃したことがあります。それもニコンSPと一緒にです。
それは京都の太秦で撮影していた映画の取材現場でした。年配の専属のスチルカメラマンが、首からSPを肩からFを下げて撮影していたからです。これで軽やかにフットワークも軽く撮影しているところを見て感動しました。もちろんFやSPが現役で稼働していたことについても驚きでした。
 

さらに動作音がいずれも小さく、スチルカメラマンはその存在を消してしまうかのようでした。スチル撮影は、リハーサル中、あるいは本番撮影後に個別に行いますから、動作音にさほど気遣う必要はないのですが、それでも映画撮影現場ではスチルカメラマンは邪魔な存在でしたから目立たないようにしておく必要がありました。
筆者がこの時に使用したカメラはニコンF3で、念のために消音ケースに入れていた記憶がありますが、どうにも経験不足による鈍い動きも手伝って、空気を乱す邪魔なヤツと見られていたフシがあります。

 

このスチルカメラマンの使用していたSPのシャッターはチタンだったのか、布幕だったのかは、今では確認のしようがありませんが、俗に言われる「ささやくようだ」というシャッター音のニュアンスを信じたくなりました。ニコンFは籠るような重低音が聞こえましたが、空気の振動だけという感じでした。
ニコンFにしてもSPにしても1980年代では十分に骨董品だったわけですが、少なくともFに関しては80年代初頭でもメンテナンスが可能であり、このためもあり筆者は購入に踏み切ってしまうわけです。

 

 

裏蓋は取り外し式。フィルム交換時には裏蓋をどこに置くかで悩みます。筆者は脇に挟んでおります。シャッター幕はチタン製。アパーチャー窓は24×36mmよりもごく僅かに小さいそうで、フィルムのコマ間の間隔に少し余裕があります。

 

 

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