top コラム推すぜ!ニコンFシステム第30回 機能を削ぎ落とした実用一筋! プロ写真家のために製造された「ニコンF3P」

推すぜ!ニコンFシステム

第30回 機能を削ぎ落とした実用一筋!
プロ写真家のために製造された「ニコンF3P」

2023/04/06
赤城耕一

ニコンF3Pの「P」はプロフェッショナルかプレスの頭文字

 

ニコンF3が登場した2年後の1982年にF3HPが登場します。これは新しく開発されたHPファインダーを装着したモデルです。HPとはハイ・アイポイントの略で、アイポイントを長くすることで、眼鏡使用者でも全視野を確保できるというのがウリだったわけですね。

 

私も眼鏡愛用者ですから、おーこれはすげー便利じゃねえのか、と当初は思ったわけです。ところが、実際にファインダーを覗いてみますと、先輩のニコンFとかF2とかのファインダーと比較すると、なんだか像に力がないわけです。
 

そう、この理由はファインダー倍率が0.75倍と小さいからですね。ノーマルのF3は0.8倍でした。もともと小さい35mmカメラのファインダーをいかに大きく見せるかってそれなりに重要なことなのです。仮に周辺がケラれたとしても、デカい倍率でファインダーを観察したいと考える人も多かったようです。F3はこのあとの機種はF3HPをベースに発展改良されてゆくように見えます。ノーマルのF3のほうがなんだか珍しいモデルのようにも思えてきたくらいです。眼鏡をかけている人が多いからなのでしょうか。
 

余談ですけど、35mmフルサイズよりも小さいセンサーを詰んだ一眼レフの光学ファインダーは辛かったですよね。
 

同年にはニコンF3Pが登場します。このPの意味はProfessional(プロフェッショナル)なのか、Press(プレス)なのかはわからないんだけど、たぶん前者じゃないのかな。確認するのが面倒なので調べてください。

 


モータードライブMD-4を装着したF3P。背は高いし、重たいし、音はするわで、今では持って歩こうとは思わないんですが、当時は二台持ちとか、三台持ちとかやってましたからねえ。長生きできないですね。

 

F3Pが供給されたのは基本的には新聞社や出版社の写真部、ニコン報道機材課(現在のニコンプロフェッショナルサービス)に登録しているプロ写真家のために販売され、登場時にはF3Pというモデルそのものが公とはなっていないのでニコン自身が世間的にはその存在すら認めてはいませんでした。
 

このF3PのベースになったモデルもニコンF3HPでした。
 

筆者もニコン報道機材課には登録しており、雑誌畑でも仕事をするようになったので35mm一眼レフを積極的に使用するようになりF3Pを導入することに決めました。

 

シリアルは9から始まりますね、独自番号ですね。ニコンF2Tのノーネームのシリアルも9から始まりませんでしたっけ?まあどうでもいいような話ですね。

 

ニコンF3HPとF3Pの違い

 

F3HPとF3Pはどこが違うのでしょうか。ざっと見てみてみることにしましょうか。
 

まずはファインダーカバーはチタン製になっています。Nikon銘板は違うみたいですが。チタンは当時のニコンF2チタンでも紹介しましたが、堅牢な素材ゆえに、ハードな扱いをされる報道カメラマン向けの機材にはぴったりでした。

 

ファインダー上部にはホットシューを追加し、汎用の市販のスピードライトを扱いやすくしています。このファインダー上部のホットシューは、TTL自動調光に対応はしていません。ただ、このシューにニコンFEなどに用意されたニコン純正スピードライトを使用すると、ファインダー内のチャージランプを使用することができました。でもニコンの純正スピードライトを使用するプロって、現場でもあまり見たことはありませんでした。

 

ペンタプリズム上に設けられたホットシューです。特定のニコン純正スピードライトを使えば、ファインダー内のチャージランプが光るようです。一度も光らせたことはないのですが。TTL自動調光を使うには、巻き戻しクランク上に専用スピードライトを取り付けます。

 

F3のTTL調光はプロが使うにはまだまだ時期尚早だったと思いますし、プロが使用しているところは筆者もあまり見た記憶がありません。ガンカプラーを使用しなければサードパーティのスピードライトを使用できないということのほうが問題でした。
 

またガンカプラーを使うと、巻き戻しノブが見えなくなってしまうことも困りました。巻き戻しノブが回転することで正常にフィルムが巻き上げられているのか確認しているのが常識だったためです。
 

また、巻き戻しクランク上にスピードライトを装着すると、スピードライトの形状や発光部の位置によっては光軸上から大きく離れることになります。
 

このため背景の条件によっては予想外の大きな影が出ることがあるわけですが、これを防ぐためにはファインダー上に、すなわち光軸上の位置からスピードライトを発光させるのが手っ取り早い解決策であり、ファインダーの上にホットシューを設けることは大きな意味があったわけです。
 

この当時の報道カメラマンの常用スピードライトはサンパック製の25SRとかB3000Sという外光オートのもので、露出のブラケッティングは絞りを変えることで行なっていました。これもまたTTL自動調光ではできないことでした。
 

操作性向上のためにシャッタースピードダイヤルの高さを上げて、シャッターボタンの高さも変更しています。手袋をはめていても操作しやすくするためでしょうか。このためにスタイリングに大きな影響を及ぼしていますが、これはジュージアーロが認めたのでしょうか。

 


シャッタースピードダイヤルもシャッターボタンも嵩上げされています。手袋をはめても使いやすいということなのかな。でも、モータードライブMD-4を装着するのが基本だからボディ本体のシャッターボタンって使う人はいたのかなあ、デザインは乱れますよね。

 

フィルム感度表示窓には防水用の透明カバーを追加しています。ここにカバーを設けたのは防塵防滴用ですが、この下にF3の頭脳の要といえる摺動抵抗があるので、ここを水滴から保護するのは重要な意味があります。
 

0から1コマまでの空写しの1/80秒固定スピードを省略。フィルムカウンターの形状を円形に変更、数値色を白に。

 


シーリングされたシャッターボタン、フィルムカウンター窓は丸型で中の数字は白色になっています。新規の金型なのかな。コストかかりますね。

 

空写し時にシャッタースピードが固定されるのは、暗い場所などでフィルム交換する時やレンズキャップをつけたままAE設定時に空写しを行うと長時間露光になるのを避けるためでしょう。でも、フィルムの空写し時に被写体が現れたら、対応することができないからフィルム空写し時のシャッタースピードの固定化を廃止したのかもしれませんね。
 

カウンター数字を白くしたのは暗いところでは視認しづらいからというのが変更の理由だと思います。扇形の窓から円形にした変更理由はよくわからないですね。 
 

シャッターボタンの電源スイッチはピンを押して動かすタイプになりました。F3は省電力設計ですし、モータードライブMD-4装着時には電源供給はMD-4側から行われます。したがって本体側のメインスイッチの存在はノーマルのF3でもF3Pでも重要視されていません。

 

シャッターボタンには防滴ゴムカバー追加され、シーリングされました。シャッターボタン周りからの水の侵入を防ぐためでしょう。ただ、このためケーブルレリーズ用の穴が省略されてしまいました。
 

レリーズがない場合はセルフタイマーで代用するということも現在も利用されるテクの一つです。F3Pはセルフタイマーも省略されています。両者の省略は困りますね。

 


セルフタイマー窓は化粧板が嵌め込まれています。これ、すべて貼り革で覆ってしまえばライカM2のセルフなしみたいにカッコよくなったんじゃないかと妄想しますけどどうかな。

人とは違ったカメラが欲しい。少数製造のカメラが欲しいというのはマニアの基本

 

筆者の知るF3Pのエピソードとして興味深い話を聞いたので一つご紹介しましょう。とある報道カメラマンが現場で想定外の長秒時露光撮影を迫られたそうです。
 

携えていたのはF3Pだったのですが、ケーブルレリーズはあるのに、シャッターボタンにソケットがない。そこでシーリングのゴムを指の爪で剥いてみたそうです。下にケーブルレリーズソケットが隠れていると信じたからでしょう。ところがそこにはケーブルレリーズの穴はありませんでした。がっかりしたろうなあ、このカメラマン。セルフタイマーもないからお手上げになってしまったはずです。顛末は聞き忘れたのですが同業者としては笑えないですね。
 

こうしたこともあってか、プロの中にはF3Pのシーリングされたシャッターボタンを嫌い、ノーマルのF3のシャッターボタンに戻していた人もいたくらいです。なおF3Pにはセルフタイマーが省略されたことに伴い、アイピースシャッターは省略されています。
 

さらに裏ぶた用のロックレバーを省略して多重露出レバーもなくしています。ロックレバーは煩わしいだけで、存在が助かったということはこれまでないなあ。多重露光はデジタルカメラだと結果がすぐに確認できて面白いんですが、フィルムカメラだと使いこなし大変ですからねえ、報道カメラマンはあまり使用しなかったんじゃないですかねえ。どうなんだろう。
 

基本的にはF3PはカメラバックMF-6Bを標準装備しています。MF-6Bはフィルム自動巻き戻しを行っても、リーダー部はパトローネに巻き込むことなく外に残す機能を備えていました。
 

これは自動現像機に即時対応するためですが、逆に撮影したフィルムを再装填してしまうリスクが出てくる可能性があり、通常の裏蓋に戻して使用するプロも多かったようです。MF-6Bもうちにあるはずなんですが、締め切りまで発見することができませんでした。
 

他にも注文に応じてイルミネーターを常時点灯させるスイッチをつけるとか専用のモータードライブMD-4のシャッターボタンをシーリングしたものとか、グリップをゴム巻きにしたものとか、カスタマイズが行われたモデルもあります。機能を削ぎ落とした実用一筋というF3Pも、ニコンマニアにとっては羨望のモデルだったようですが筆者が思ったのはこんな数の出ないカメラを製造するニコンの姿勢に感動しましたよ。
 

人とは違ったカメラが欲しい。少数製造のカメラが欲しいというのはマニアの基本です。今となってはF3Pは中古市場でも珍しいモデルではなくなりましたから入手は容易ですね。
 

ノーマルのF3よりもF3Pのほうがよく写ることが知られています。どうです?欲しくなったでしょ(笑)

 

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