top コラム推すぜ!ニコンFシステム第28回 ニコンがエントリー機を作るとこうなる!? 突然に登場した一眼レフ「ニコンEM」

推すぜ!ニコンFシステム

第28回 ニコンがエントリー機を作るとこうなる!?
突然に登場した一眼レフ「ニコンEM」

2023/03/23
赤城耕一

ニコン精神に反するカメラじゃないのか

 

1970年代の半ばくらいまで、ニコンはミドルクラス以下の廉価な一眼レフカメラは出さないのではないかと筆者は勝手に考えておりました。高級なブランドとしてニコンはあって欲しいとみんなでそうおもってました。
 

「ニコレックス」とか「ニコマート」があるではないかと言われてしまいそうですが、これ、「ニコン」じゃないわけです。ニコマートFTNを下げて街を歩いていて、向こうからニコンF2を肩から下げて歩いてくる人と出会った時は道を譲るのが筋というものです。
 

このニコマートとニコンのヒエラルキーが曖昧になったのは、この連載でも取り上げました「ニコンEL2」からではないかと。

 

先にご紹介した、FMやFEにニコンの冠がつきましたけれど、依然として同じクラスのカメラの中では、そうお安くない価格設定だったのではないかと。

 


シリーズE 50mmF1.8も所有していたのですが、締め切りまでに発見することができませんでした。代わりに標準ズームのシリーズE36-72mm F3.5を装着してみました。直進式で、かの有名なズームニッコールオート43-86mm F3.5よりもよく写るんですけどね。あ、ボディ左上にあるのは逆光補正ボタンですね。使ったことないですけど。

 

1970年代の後半まではそんな印象を持っておりましたが、なぜか突然「ニコンEM」なる一眼レフカメラが登場してきます。1979年の3月のことです。これね、かなり驚きでしたね。すげー安そうなエントリー機が海外で出てきたと、ニコン精神に反するカメラじゃないのかと。
 

でもねデザインはジュージアーロでカネかかってますし、小型の単機能の絞り優先AE一眼レフで、マニュアル露出設定はメカシャッターのみという割り切りがないという潔いエントリー機でした。それでもこれをニコンとするのはどうよ、という感じはありました。なんせ露光補正ダイヤルもありませんし、ボディ前面に露光補正ボタンがあるのみですね。

 

どうせこのクラスのユーザーはラチチュードの狭いポジフィルムなんか使わねえから大丈夫だぜみたいな割り切りがあったのかも。


メカシャッターは1/90秒とBのみですね。シャッターダイヤルは省略。オート露出でみんな撮影してくださいということです。カラーネガならなんとかなるんじゃないですかねえ、知らんけど。ご覧の通り、巻き上げレバーはすげーデカいです。でも折りたたみ式で操作性はとてもいいですね。

 

EMは使い始めると、優しい気持ちになってきます

 

筆者もとりあえずは職業カメラマンを長いことやっているので、写真撮影のおおよそは存じ上げております。だからこういうAEオンリーのカメラっていざ本気で使用しようと考えるとかなり戸惑いますね。

 

実際に使用する時も、ファインダー内のメーター指針を神経質に凝視して、指針が自分の経験則の露光値になるようにISO感度ダイヤルを動かして調整し、撮影するという面倒なワークフローを使うことになります。カラーネガを装填して、全部オートで、はいおしまい。みたいな撮り方がなかなかできないのは年寄りだからですね、こればかりは染み込んだワークフローなので仕方ありません。

 


筆者はこう見えても意外に神経質なんで、本機を使う場合は被写体の反射率とか色とかに応じてISO感度ダイヤルを頻繁に動かし、露光調整します。これが面倒でイヤになるわけです。シャッターダイヤルを設けてマニュアル露出に切り替えた方が早いんじゃねえのかと思うわけです。のちにそういうカメラも出てきます。

 

EMは使い始めると、おお意外とデザインも愛らしいじゃねえかと優しい気持ちになってきます。それに、とても素晴らしいのは縦走りの金属シャッター搭載なのに、なぜか小刻みフィルム巻き上げを可能としていることです。ニコンFMとかFEは小刻み巻き上げはできないんですぜ。

 

しかも巻き上げレバーはボディサイズと比べてもかなり大型で、フィルム装填してもトルクが変わらずに軽く扱いやすいのが特徴です。こういう感触の部分を果たしてEMユーザーはありがたがってくれるんだろうかと余計なことが心配になります。
 

デザインを含めて、このあたり、ジュージアーロが狙ったのか、ニコンの設計者がこだわったところなのかはわかりません。ちなみに専用のワインダーも別売りで用意されています。また専用のスピードライトもあったはずです。いずれもいらないので買わなくて大丈夫です。つまらないアクセサリーをコンプリートしようなどと考えてはいけません。

 

ボディ底面です。ワインダーの連動カプラーや電子接点見えますけどね。そんなの使う人いたんですかねえ。美しくないんだよね。動作音もデカいし。確かワインダーの電池ボックスの蝶番がプラ製で折れちゃうんじゃなかったでした?ワンペナですね。

 

また、本機には、絞りのプレビューレバーがありません。省略されています。どうせ使わないし、なくても困らないんですが、用意されていないと安いカメラだと判断された時代ですからねえ。筆者も確かにそう思いましたけどね。

 

レンズだけが「フライング」機能を採用して登場してきた

 

さらにAI連動爪を跳ね上げる機能が省略されています。AI改造されていないFマウントニッコールは原則、装着しちゃイヤというお約束があります。Fマウント新旧相互互換の精神はどこに行ったのかと思いましたけど、エントリークラスのカメラだから、古いニッコールレンズを装着して遊ぼうなどいうヘンタイは少ないと考えたのかもしれません。
 

ニコンEMは当初は北米など海外にて1979年3月に発売され、輸出専用機的な扱いでしたね。これが一部で逆輸入されて話題となったのですが、この頃はたしか日本国内で発売されるのかどうかは怪しいみたいな話がありました。海外で先行発売されたニコンEMの逆光補正ボタンの色は青だったと思います。国内発売モデルは銀色になっています。日本国内で発売されたのは、1980年の3月になります。
 

EMに用意されたレンズは「ニコン レンズシリーズE」という名称で、「ニッコール」銘は外されています。これらはコストを下げたOEM製品ですが、もちろんニコンの厳格な製品規格のもとに製造されているはずですから、写りが悪いわけはありません。ただし、シリーズEレンズには、いずれも旧メーター連動に使用するためのカニの鋏がありません。AI方式前のカメラに使用して、メーターも使おうという場合は絞り込み測光が必要になります。

 

さらに怪しいのは、シリーズEレンズの最小絞り値がオレンジ色に統一されていたことです。ミノルタが両優先AE一眼レフを発売するにあたり、レンズをMCからMDにして、最小絞りを緑色にして、シャッタースピード優先AEを使用する場合は、基本的に最小絞り値に設定する必要がありました。絞り連動ピン側から絞りをコントロールするのですから絞りピンの連動量など、改良しておくのが得策と判断されたからでしょう。

 


シリーズEレンズの最小絞りはオレンジ色に塗られています。来るべき新型カメラにおいて、シャッタースピード優先AEやプログラムAEに対応するように考えられておりますね。でも登場した時はニコンは何も言いませんでした。トボけていたわけです。

 

ニコンも両優先AE機能を将来的に狙っていることを示唆しているものでした。もちろんこのあたりは当時のニコンに尋ねても、バッくれるだけですが、いわゆるレンズだけが「フライング」機能を採用して登場してきたわけです。
 

ニコンEMは絞り優先AEの単機能機ですからシリーズEレンズの両優先対応機能は関係ないわけですが、つまらないことをもう一つ言えばEMと同時に登場してきたシリーズE 50mm F1.8は海外での発売のみだったと記憶しています。同様の構成、薄型のAi ニッコール50mm F1.8Sがのちに登場してきますが、こちらはマルチコートなのに対して、シリーズEの方は単層コートだったと、当時の一部のカメラ雑誌で報じていたはずです。
 

シリーズEレンズは国内では未発売のものもあるのが興味深いですね。面倒なので探したくないので紹介しませんが、ググると出てくるんじゃないですか。いずれもよく写ります。
 

個人的にはニコンがエントリー機を作るとこうなるのだなあと感慨深くなりましたけど、発売時に積極的に入手し使用した記憶はありません。ちょっと本気で使おうかなとイタズラし始めたのはずいぶん後のことですが、やはり絞り優先AEの単機能機であることで、フレキシブルな使用が難しくさすがの筆者もアサインメントに持ち出したことはありませんでした。

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