1970年台前半に登場したフラグシップカメラの中で機能的に突出していたモデルは何でしょう。
カメラメカニズムの目指すところとしては、AE化は間違いのない直近の目標であり、命題だったと思いますが、プロはAEで撮ることなどあり得ないのです。
信頼できるカメラはフルメカニカルでなければならないとされていた時代です。機能と実用性という意味ではプロとアマチュアの考え方が異なり、先進機能を有するカメラだから良いということにはならないわけです。
面白いのはニコンもキヤノンも、力技でフルメカニカルカメラのニコンF2フォトミックSとキヤノンF-1においてAE化を決行しました。これはいずれも設定シャッタースピードに対する適正絞り値をモーターの力でコントロールしようとするものでした。
具体的にはEEコントロールユニット付きのニコンF2フォトミックSとサーボEEファインダー付きのキヤノンF-1になりますね。
いずれも特殊な装置であり、一般化はしなかったのですが。フラッグシップ機でもAEが行える万能性、自動化へ向けて研究開発は怠っていないことは世間に示されたようにも思えます。
ニコンF2フォトミックS+ニッコールSオート35mm F2.8 Ai改
ただでさえ外見上でカメラの魅力的な部分を探して撮影しますが、今回美しく見えるアングルに特に注意したりしてね、時間かかりましたね。面倒です。
興味深いのは、後のニコンのレンズ交換式の一眼レフのほとんどが、絞り優先AEを基本としていたのに、F2フォトミックSとEEコントロールユニットの組み合わせではシャッタースピード優先AE方式を採用していたことです。
キヤノンF-1では既に専用のFDレンズが将来のAE化に向けて、絞り環にAEポジションがあったことに比較して、当時のニッコールオートレンズはなんら対応はされていませんでした。F2フォトミックSにおいても、レンズ交換時には「ガチャガチャ」をせねばなりません。
この古いシステムにおいてAE化するにはどうするか。すごいのは絞り環をモーターの力で無理やり回してしまえば良いという考え方でした。言い換えれば指を使うのではなく、モーターで動かそうということですが、これはそのものズバリの力技ということになります。正直、指で回した方が早いんじゃね?ということも起こり得るわけです。
EEコントロールユニットDS-1装着用の接点。動作は奥ゆかしいというか、正直言って指の方が速くなります。でもメカの力ってダイレクトに伝わるわけですね。
ニコンF2フォトミックSって、F2のカタログの頂点的なところに位置しており、特別なモノ感がありました。初期のカタログを見たことがありますが、製品版よりも表面に凹凸が少なくツルンとしていた記憶があり、「近日発売」となっていました。発売は実際には1973年でしたね。フォトミックSは低照度側の測光域がフォトミックよりも広いのはいいのですが、ファインダーがおにぎりみたいな形をしていて、背が高く、当時でもカッコ悪い印象を抱いたことを覚えています。普通の人は選ばねえだろこれ、みたいな感じと言いましょうか。もちろん普通のF2フォトミックより高価なわけです。どうなんでしょうか。当時でもステータスがあったのかなあ。
メーターの表示はLEDになりました。ファインダー内では確かによく見えるんだけど、周囲が明るいと外観からはメーター表示が見づらいわけです。
ニコンF時代から、メーター内蔵のフォトミック系ファインダーやニコマートにおいても、ファインダー内だけではなく、カメラの外からメーター指針が見られるということを基本としていたので、見づらいのは困るんだけど、考えてみればファインダーを覗かずに露出を合わせにいくってのは、超高倍率のマクロ撮影とか複写台にカメラを載せた時とか、限られると思うんですけどね。だからツッコミどころが少なかったのかもしれません。
ツッコミといえば、疑問なのは、フォトミックSのメーター表示はLED表示なんだけど、受光素子はこの頃の主流の応答速度の遅いCdsのままでした。これではフォトミックと同じです。のちに受光素子の主流となるSPDは採用されていませんでした。
この時点ですでにメーターにSPDを採用しているカメラは存在していたはずですが、フォトミックS では見送られたわけです。将来、展開や発展を視野に入れたカメラとしては少し弱さがあったようにも思えますが、新しい受光素子を搭載するのは時期尚早と判断されたのかもしれないですね。慎重なニコンらしさを見ることができます。あくまでも筆者の推測ですけれど。
低照度でも測光可能です。写真はシャッタースピード4秒設定ですが、F2ではB以下のロングシャッターはセルフタイマーと併用するタイム露出になります。
中古市場でF2フォトミックSを見かけることが少ないのは、販売台数が少ない、経年変化でLEDが点灯しないなどのトラブルが発生するというのが理由のようです。本体機能はフルメカニカルでも、メーター部分はエレキというイメージが強くなりますね。本来は生産台数が少ないと中古市場では高額になったりするものですがフォトミックSはどちらかといえば敬遠される対象にもみえます。
ポジフィルムでは筆者自身もメーター表示を完全にアテにして撮影しているわけではないので、F2フォトミックSでもバッテリーを抜いたまま持ち出すことも多いのですが、これだとどうしても無駄なウエイトをつけたニコンF2というイメージが強くなります。
兄貴分のニコンFもそうでしたが、各種のファインダーを着せ替えできる、コスプレ的要素が入っていれば、そうそう飽きるものではありません。筆者もF2フォトミックSを使用する場合にも、よくバッテリーを入れ忘れてしまうのですが、それでもさほど不満にも思わないのは、少し変わった形のニコンが肩から下がっているという見せびらかし的な要素が強くなるからでしょうか。ただし残念ながら誰も見てはくれませんけど。
ファインダー上部にあるTTLメーター表示窓。2つのLEDが同時に点灯すると適正露出というサイン。初代のライカM6みたいな方式です。昼間では見えづらいですねえ。
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