ニコンF2のカタログを眺めていた写真少年時代のことです。ものすごく欲しくなる専用アクセサリーがありました。
この当時のニコンの一眼レフシステムって、万が一購入したとしても一生使わないようなアクセサリーがたくさん用意されておりまして、なぜか写真少年はこれらが欲しいわけです。そしてカメラにつけてみたいわけです。これね、どこに魅力があるのか謎ですねえ。
もっともファインダーが交換式だった時点で、これはオトナになってファインダーをコンプリートすれば、新たな世界が拓けると、大きな勘違いしてしまうわけです。
ええ、そしてオトナになって、交換ファインダーをコンプリートしても、喜びよりも後悔の念の方が強くなるのはご存じの通りです。若造にはわかりませんし、この頃から病気に罹患していた可能性があります。仕方ないじゃないですか放っておいてください。
病が重くなると、さらに「リピーティングフラッシュ」とか「ラジオコントロールユニット」とかね欲しくなるわけです。興味が湧いた方はググってください。なんのことかわからない人は正常です。ご安心ください。そのまま今後の人生も正しく送ることができるでしょう。
で、写真少年時代に一番欲しかったF2のアクセサリーって、何かといえば、これはモータードライブMD-2ですね。だってFの専用モータードライブF-36って、前にも書いたけど、装着するのに、ニコンでの改造と調整が必要だったんですぜ。しかもボディ1台にモーター1台の現品調整という特殊装置だったわけです。
モータードライブMD-2とバッテリーケースMB-1を装着したニコンF2。
3階建ての違法建築みたい、素晴らしく重たいです。MD-1が当初用意されたモデルですが、MD-2になり、フィルム巻き戻し時にリーダーを残して自動停止する専用の裏蓋MF-3が用意され装着可能に。シャッターボタンの形状も変更されて指に優しくなっています。
ニコンF2では、基本的にモータードライブは乱交…じゃない無調整互換ですからね、改造も相性も考える必要はありません。いや、実際はカメラ本体もMD-2の両者ともに骨董品に近く、メカ連動なんで、動作にあたっては“相性” はあるような気がしますけどね。自己責任でお願いしますよ。
裏面。何か特殊な装置を動かしているような雰囲気があるけど、特別に大したもんじゃないですね。ダイヤルやスイッチ類はいじくりまわす楽しみのためにあるみたいなものと考えてと。フィルムカウンターは残数表示で、装填したフィルム枚数をセットします。
うちにあるモータードライブはMD-2とMD-3であります。前者はものすごくデカくて重いです。後者は少し小型化されていますが、モーターによるフィルム巻き戻しは省略されています。見せびらかすには今ひとつインパクトに欠けます(※)。
MD-2の電源は単3形アルカリ乾電池を10本!使用します。ええマジです。最高コマ速度って、ミラーアップして5コマ/秒くらいじゃなかったかなあ。面倒なので調べないですけどね。お好きな方は調べてください。たぶんそうです。間違えていたら済みません。
※ニコンF2初期から発売されていたMD-1というモデルもあった。この改良モデルがMD-2。
電源は単3形乾電池10本になります。これだけで暴れたくなる重さです。なお専用のニッカド電池も使用できますけど、今生き残っている個体はないだろうなあ。それにしても手首を鍛えるにはいいかもしれませんね。今となっては大きな大人のおもちゃなので、大きさ重さに文句は言いますまい。
背面にはコマ速の変速ダイヤルがついておりますが、コマ速の違いで使用できる低速側のシャッター速度に制限がありますね。これを守らないとどうなるでしょうか。
はい、露光時間中にフィルムが送られてしまうという絶望的な事態が発生します。そういやF-36にも同様な制限がありましたね。
コマ速度設定ダイヤルです。H(ハイスピードなんだろうな)ではミラーアップして、なおかつ1/125秒より速いシャッター速度を選べということです。L(ロースピード)では1/4秒より速いスピードに設定せよということです。いちいち覚えていられないので筆者はM1あたりで使用することが多いです。
このあたりにメカニズムの成長がありませんねえ、フールプルーフも考えられていないという、困りますね。たしか、昔のカメラ雑誌でわざとコマ速と合わない低速シャッターに設定して、スリットカメラとして使うみたいな話がありましたが、好きな人はやってみてください。筆者はダイジダイジなF2とMD-2が壊れると困るのでやりませんが。
MD-2側のシャッターですね。連続撮影と1コマ撮影、ロックの指標が見えます。この部分だけ分離しケーブルで繋いで使うこともできます。専用のケーブルはさすがに持ってないですわ。
ニコンF+F-36より大きく進化した点、これがMD-2の場合、モーターによるフィルム巻き戻しが可能であることですね。もちろんクランクを使用して手動で巻き戻しもできるんだけど、あたりまえですがモーターの方が速いですね。
で、ニコンF2+MD-2って、動作音がすごいのですよ。シャッター音もフィルム巻き上げ音も。なんというか破壊音というか、何か硬いものを床に落としたというか、東大阪のネジ制作工場の中にいるような感じです。後者はいい加減に例を挙げただけですから気にしないように。
うちにあるF2の個体が古いから油が切れてうるさいのかなと思ったら、どうもそうではないようです。
裏蓋の開閉バーですね。折りたたみ式です。金属製ですが、過剰な力がかかると意外と折れやすく、ニコンのサービスの人に注意せよと助言されたことがあります。気をつけてください。
この当時のモータードライブのカタログは、ニコンに限らずですが、モードラを使うとあたかもカンタンにパラパラ漫画のように動体を連続して撮れそうなニュアンスを作例から感じていました。少年時代でもそんな撮影なんかできるわけがないことはわかっていました。が、とにかくモードラを装着した姿がカッコいいわけですよ。モータードライブの使用のメリットは、手持ちで撮影してもフレーミングのズレが少ないことだと思います。一度決めた構図をそのままに被写体が芸をするのを待つために使うのです。だからコマ速とかは重視しないのです。
専用のフィルム巻き戻し時にリーダーを残して自動停止する裏蓋MF-3も用意されました。自動現像機にいち早くセットするためということでしょうが、撮影済みのフィルムを再装填してしまう事故はなかったのかなあ。危険ですよね。パトローネに巻き込んだ方が安心です。親指部分に滑り止めが貼られたのでホールディングはとてもいいです。
ところがですね、このF2+モータードライブMD-2、最近は持ち出す機会が減りました。フィルムが高いから。いや違います。筆者は高速での連続撮影はしないので関係はありません。単にこの漬物石みたいな重さに耐えられないからです。年寄りですから仕方ありません。
たしかニコンのPR誌の『ニコンの世界』でしたか、この本に寄せたエッセイの中で篠山紀信さんが、F2+モータードライブの話を書いていたことを記憶しています。
日本の写真家有志が、中国からの招きで団体で国交正常化前の中国に撮影に行ったときですから1970年代の前半の話かと思われます。篠山紀信さんの装備はニコンF2+MD-1だったようですね。
MD-2を装着する場合は、あらかじめ裏蓋開閉キーを取り外す必要があります。モーターによる自動巻き戻しのシャフトがここから入り、パトローネーのキーと連結する仕組み。フィルムを装填したままMD-2を取り外すと漏光する可能性があります。ちなみにMD-3では開閉キーは取り外さずに、つまみをMD-3側のスリットに挿入する方式が取られていますからフィルム装填をしていてもMD-3の取り外しは可能です。
外したキーは紛失しないようにMD-2のグリップ部にねじ込んでおきます。脱着はいずれもコインを使う方式ですから簡便です。
「フィルムをモーターで巻き戻していたら、フィルムくらい手で巻けよ」と同行の写真家から冷たい視線を浴びたとか、モーターによるフィルム巻き戻し音が中国ではことさらヘンな音に聞こえるとか…、木村伊兵衛に「そんなセットを使っていたら長生きできませんよ」と言われたという話をされていたことを記憶しています。ちなみにこの時の木村伊兵衛の装備はライカM5だったはずです。
これはネガな話ではないわけです。どういう状態下でも“篠山紀信” を貫く姿勢に、当時の写真少年は感動しましたし、F2のためにモータードライブはなんとしても入手せねばならないアクセサリーであると固く心に誓うことになったわけです。本当です。
ニコンF2用モータードライブMD-3です。
機能は簡略化されております。コマ変速機能はありませぬ。秒4コマで切れますね。フィルムの巻き戻しもカメラ側のクランクを使用します。小さいくせにやはり動作音はデカいですぜ。バッテリーケースMB-1も使えますが、こちらはMB-2が用意されました。プラ製で少し軽いです。単3形電池は8本使用します。
ニコンF2用モータードライブMD-3、バッテリーケースMB-2の背面です。
MD-3のシャッターボタン周りですね。連続撮影する場合はX接点以上の高速シャッターを使えということらしいです。安っぽいのは仕方ありません。
MD-3のフィルムカウンター部分です。簡素ですな。あらかじめ装填フィルムの枚数をセットします。残数表示ですね。これはMD-2と同じ方式を採用しています。
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