購入するカメラをブラックにするかシルバークロームにするかというのは、熱心な写真少年にとってはかなり大きな問題で、考えると夜も眠れなくなりました。
ブラックの方がいかにもプロフェッショナルの使う道具として、一般の人は憧れとして崇拝していたフシがあります。それはなぜかといえば、シルバーよりも製造台数が少ない、かつ価格が少々お高いということもありました。昔のカメラ店で、ブラックモデルがショーウィンドウに並ぶことは稀だったくらいです。
あくまでも素人考えではありますが、往時の真鍮ボディにシルバークロームメッキを施すのと、ブラックペイントするのでは手間というかコストは前者の方がかかりそうですし、摩耗とかも強いように思いますがどうでしょうか。
でもブラック好きの中には、剥げた塗装の下に見える真鍮素材に興奮して、それだけで3杯は呑めるとかいう変態さんもいます。
コレクターさんの中でも必ずしもカメラを新品同様に保つということに命を賭けているという人もいますが、さらに熱心なコレクターさんは同じ機種を3台購入して。それぞれを保存用、見せびらかし用、実用としているという話も聞いたことがあります。後世にカメラを伝えるためにもぜひ続けてほしいものです。
Fはうちにも複数台ありますが、一番使い込んだニコンFブラックですね。Fは角張っている部分が多いからここはすぐに剥げます。別にいいけどね。
ニコンFも登場した当初はブラックボディは特別アイテムだったという話を聞きました。
当初はブラックボディは一般市販されずに報道機関や一部プロにしか回ってこない特注扱いだったようです。この塗装は今でいうペイントですよね。
一般の人に購入することができないとなれば、マニアは色めき立つのかもしれませんが、ニコンFが登場した当初、あるいは販売現役時代にも熱心なニコンのコレクターさんは存在していたのでしょうか。
特にカメラ上部の刻印が「NIPPON KOGAKU TOKYO」だったりすると、色めきたつわけですが、筆者がその重要性に気づくまでかなりの年月を要しました。個人的にはそんな刻印には興味がなく、どうでもいいと思っていたからです。あ、だから重要ではないのですが(笑)。
ニコンFは製造が絶好調だった時代はライン生産で、コンベアの上に載せられ、はい次、はい次、と製造されたということもあったようです。たしか製造現場の写真を見た記憶もあります。筆者の見た感じでは、シルバーのボディが流れる製造ラインにポツポツとブラックが見えるという程度だったように記憶しております。
ブラックの方がシルバーボディよりも、間違いなく良い写真が撮れることは意外にも知られていません。
ええ、嘘です。ニコンのカメラが最初に黒く塗られたのは、レンジファインダーの「ニコンS」だったそうで、これは写真家の三木淳さんの要望によるという話をどこかで読みました。理由は戦場で光ったカメラを使うと狙撃兵に狙われるという話でした。危ないですね。
Fのシルバークロームですね。ノーマルすぎるくらいの容姿ですが、全体を白く見せるためにAiニッコール45mm F2.8Pをつけてみました。何? 時代の整合性がない? いいんです新旧相互互換のFマウントなんだから。
他にもニコンS2、SP、S3にはブラックボディありましたね。今でも珍品扱いですが。廉価版とされるS4にはなさそうです。S3の復活したオリンピックモデルは全てブラックでした。
記憶によれば、品川のニコンミュージアム開館当初の「ニコンツリー」にはブラックのニコンS4の姿がありましたが、あれは試作機だった可能性がありますがどうなんだろう。今では通常のシルバークロームボディに戻されていたと思います。
こういうどうでもいいことが気になる人は気をつけた方がいいと思います。ええ、「ブラックでなければカメラではない」と確信されている方々です。
1999年に復刻されたミレニアム記念のニコンS3ボディにも後にブラックが追加されてますね。さらにその後に復刻されたSPはすべてブラックでした。
何が言いたいのかといえば、レンジファインダーのSシリーズのモデルには後半になると意外とブラックの用意も手厚くされたのに、ニコンFは発売当初には一般発売モデルとして、ブラックボディを考えていなかったようなフシがあるからです。これもどうでも良いことなのですが。はい。
シリアル番号からみれば、時代にそぐわないんですが、巻き上げレバーをプラカバーつきの新しいものに換装してあります。こちらの方が指の腹に優しく連続撮影しても痛くなりません。具合がいいですね。
ニコンFブラックを最初に意識したのは、テレビで見た篠山紀信さんの有名な写真集「オレレ・オララ」の今でいうメーキングビデオ、いや、フィルムか、だったと思います。
舞台はリオのカーニバルでしたか、疾走するクルマの窓だったか列車の窓だったか忘れましたけど、身を乗り出すようにして撮影する篠山さんの手にはモータードライブつきのニコンFアイレベルのブラックが握られていて、被写体を追い続けていました。ブラックなのにどういうわけか、とても輝いて見え、眩しいほどでした。
また別の意味で衝撃だったのは、戦場カメラマンの一ノ瀬泰造さんの遺品である被弾したニコンFブラックですね。カメラ正面から被弾し、裏蓋に貫通した大きな穴をみるとそれだけでも過酷な状況を思い知らされる思いであります。
写真家の植田正治さんのエッセイだと思いますが、ニコンFが製造中止になったことを知ってブラックボディを購入して、しばらく経ったらみんなに見せびらかすのだ。みたいなくだりがありました。横須賀功光さんも同じようなことを書いていた記憶があります。みなさんもの好きですねえ。
中期タイプというのかしら。この頃のFのアクセサリーシューレールも真っ黒であります。これでは専用スピードライトやフラッシュガンをつけると剥げるということで、のちにシルバーになったけど。思想の揺らぎ? いえ、コストダウンが一番なんでしょう。
このようにFのブラックボディは特別なイメージがありますけど、Fに限らず、私が大学生の頃かな、ピカピカのブラックのカメラを持つのはカッコ悪いので、紙やすりでカメラの角の塗装を意図的に剥がすなんてことをやる人もいたことを思い出しました。ニコンFブラックにも同様にヤレた加工をするという人もいたことでしょう。こうなるともう呆れるどころか、ご苦労さまとしか言いようもありません。
そういえば、これもニコンFじゃないけど、2015年に限定125セットで発売されたライカM-Pの「レニー・クラヴィッツモデル」は意図的に使い込まれたようにブラック塗装を削ったモデルでした。この加工はベテランの職人さんが行ったということも読みました。つまり「新品の時から中古」を作り出すのです。
筆者はこの時にニコンFに限らず、全てのカメラのブラックペイントモデルに対する熱が醒めてしまいました。カメラはシルバークロームに限ります(笑)。
旧型の巻き上げレバー。金属剥き出し感。たくさん撮ると親指のレバーなので親指の皮が危険水域に。このレバーも形状とか長さとか色々あるみたいです。知りたい人はググってください。
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