1972年登場の半世紀以上前の絞り優先AE一眼レフなど、今はもう使いものにはなるまいと考えていたんですが、うちのニコマートELさん、バッテリーを入れてみると、お!バッテリーチェックランプは眩しいほど光るし、現時点でもまだ指針はするすると上下して、元気に動作しております。もちろんこれは単なる幸運でありましょう。これを記念して、本連載で取り上げますね。
さすがにこれくらいの骨董品になると精度的に信頼しているわけでもなく、正直いつどうなるかはわかりませんが、ま、いま楽しめればいい、逝くところまで行けばいいということで話を進めることにします。
部品交換を伴う修理はおそらく不可能だからでしょうかニコマートELは中古市場では人気がなく、廉価に入手はできますが、それなりの覚悟は必要です。
ニコマートEL+Ai-Sニッコール28mm F2.8
たしかうちにあるニコマートELはブラックだと思っていたのですが、シルバーでした。これもいいですね。デザイン的にはツンデレというか、女性的な部分もあり、かつ厳つい部分もありますね。
ニコマートEL発売当時のニコンとしては、カメラを自動露出化するには絞り優先方式のAEが適していると考えたようです。AE化をするにあたり、レンズに改造を加える必要がないから、つまり不変のニコンFマウントを守ることができます。
ライバルのキヤノンはFDレンズの絞り環に緑色の「◯」あるいは「A」ポジションを設け、シャッター速度優先AEを基本として考えていました。
キヤノンF-1ではサーボEEファインダーを用意してシャッター速度優先AE化を果たしていましたし、ニコマートEL登場の翌年の1973年にキヤノンEFというミドルクラスの本格派シャッタースピード優先AE一眼レフを発売しています。
すでに述べましたがニコンもサーボEEモーターを内蔵したコントロールユニットでニコンF2フォトミックSやSBをシャッター速度優先AE化しましたが、これはすでに本連載で話をしておりますが、モーターで力づくで絞り環を回す特殊なアクセサリーですね。先に述べたように、レンズに手を加えずにAE化するのはニコンのあたりまえの方向性だったようです。
巻き上げレバーが電源のオンオフを兼ねたスイッチにもなっています。ニコンの得意技というか。シャッタースピードダイヤルは小さいですね、文字読みづらいですし。基本は「A」マークに設定して絞り優先AEで使います。フィルムの巻き上げレバーで電源のオンとオフ連動させるのはニコンMF一眼レフによくある方式であります。
カメラのクラス的にはニコマートELはFTNよりも上であり、絞り優先AEで撮影する場合は、シャッタースピードダイヤルをA位置にセットすれば、設定絞りに対する適正露出になるシャッタースピードが自動的に決まるわけですね。
マニュアル露出時はファインダー内の表示が変わり、設定シャッター速度は緑の指標が出現し、そこに黒色のメーター指標が重なるように絞り環を動かせば適正露出になります。シャッターは、縦走り金属のコパル製のものです。
ただ、レンズ交換時には、ニコマートELにおいても、カメラボディ側のピンにレンズのカップリングを行い、ガチャガチャ(絞り往復運動)をして装着レンズの開放F値をカメラに設定する必要があります。ボディ側のメーター連動ピンを指で時計回りの方向に止まるまで回し、レンズ側の絞りをF5.6にセットしてカニの鋏(はさみ)がピンの間に入るようにします。
これすらも面倒な時は、レンズを完全に装着する前にピンと鋏をカップリングさせてレンズの装着指標までピンを回して装着するという手段もなくはありません。少し、無理やり感が出ますが、さほど問題はないですね。
巻き戻しノブを引っ張り上げると、裏蓋は開閉しますが、右側の黒いボッチをずらさねば巻き戻しノブは上に上がらず。またフィルム感度ダイヤルのところにも金属ボッチがありますが、これはISO(ASA)感度のロックですから、必ず押して動作してください。
当時のカメラ雑誌は絞り優先AE機構を内蔵しつつ、さらにガチャガチャをするのは古臭いとか、けっこうボロクソにニコマートELを評価していましたけど、すでにガチャガチャはニコンユーザーの儀式でありますから、苦にしない人がほとんどなんですよね。
それよりもコニカやキヤノンといった、一眼レフでのAE化に積極的なメーカーはシャッター速度優先AE方式を主にしていたのに対して、ニコマートELは絞り優先AEでしたが、往時のカメラ雑誌の記事を見ていると、「絞り優先AE VS シャッター速度優先AE」みたいな特集がよく組まれています。結論として、その多くがシャッター速度優先AEに軍配を上げるのですが、その最大の理由は、手ブレの心配が少ないからというものでありました。しかし、シャッター速度優先AEでは、絞りの変化する範囲しかAEは動作しませんが、絞り優先AEでは、シャッター速度低速から高速まで変化しますから、AEの動作範囲は広くなります。しかもニコマートELの場合は保証はされませんが、1/1000秒よりも高速でシャッターが切れることもあったそうです。隠れた性能ですね。
でもまあ、AEで撮影する場合でも、絞りなりシャッター速度はどうなっているのかを確認するのは常識だと思いますし、どちらのモードを使おうが関係ないように思うのですが、動体を撮らない限りでは写真的効果というのは絞りを重視するのが普通だったりしませんか?そうでもないのか。
仕事で4×5などの大判カメラを使用していると、撮影するものが静止物のものが多くなり、しかも三脚の使用はマストで、レンズの特性により被写界深度が浅くなるとなれば、どうしても絞り設定の効果を意識せざるをなくなります。
やはりどこへでも連れて歩ける携行性とか手持ち撮影を重視する35mm判カメラの場合はシャッター速度優先設定を重視するということなのでしょうか。
エプロン部の左側にミラーアップレバーがあります。これを使ってミラーをアップさせないと、本機はバッテリーが入れられないのですよ。面倒ですねえ。
面白いのは普通のフルマニュアルカメラだって、シャッター速度を先に決めてから絞りを調整するじゃないかという意見から、シャッター速度優先AEが自然であると考えたことでありますね。気持ちはわかりますが、今ではまず聞かれない論議になりました。
AEを使用する場合はプログラムAFに設定して、シャッタースピードや絞りを好みによってシフトして使うことが当然のようになってきたからでしょうか。それともISO感度AEも使われるようになったからでしょうか。時代と共にAEのワークフローや被写体へのアプローチの設定も変わるのだなと思います。
セルフタイマーレバーをボディ側に倒すと、AEロックがかかりますが、レバーは押したままにせねばならないので、指が攣りそうになり。ま、筆者は使いません。
ニコマートELは受光素子はCdsですから指針の動きを観察すると応答速度はそれほど速くはないのですが、手巻きによる撮影ですし、さほど大きな問題にはならないでしょう。
それよりもマニュアル露出時のメーター指針の視認性はよくて、露出のズレ量などニコマートFTNよりもわかりやすいのです。この表示方式はニコン以外のカメラメーカーにも見られますし、ニコンFEからFE2、FM3Aにも踏襲されているくらいですから定評があるものなのでしょう。ビギナーからベテランまで評判はいいのではないでしょうか。
ただ、指針式なので暗い場所では指針やシャッター速度は見づらくはなります。視野率は約92パーセントと普通ですね。
シャッター音は金属音がパシンという響きで聞こえてきますが、生理的には悪い印象はありません。残念なのはフィルムの小刻み巻き上げができなことくらいでしょうか。ただ、そこそこに重たいカメラなので持ち出す時には覚悟は必要ですが、使い始めると充実度の高さはわかります。
バッテリーチェック。左のボタンを押すと機能します。なんか大げさです。すごいランプの明るさで、バッテリーを無駄に使いそうです。ここでも存在感を知らしめようというのでしょうか。
バッテリーの床下収納とでもいいましょうか。ミラーアップさせて、その下にバッテリー室の蓋があります。それをスライドさせて開くしくみですね。この50年間、ずっとこの方式を採用という。担当設計者はよく頑張りました。時おりELのバッテリー室を知っているかどうかカルトクイズが出題されることがあります。
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