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推すぜ!ニコンFシステム

第36回 1984年の第1回カメラグランプリに選ばれた「ニコンFA」

2023/05/19
赤城耕一

一眼レフでは初めて多分割測光と両優先AE+プログラムAEを同時に実現した

2023年、40回めとなるカメラグランプリ大賞が「ソニーα7R V」決まったばかりですが、第1回の1984年のカメラグランプリは、ニコンFAでした。
 

古い機種なんですが、筆者の元にはまだFAがありますし、ごく稀に持ち出して撮影に使っていますので、年寄りはそんなに昔の話じゃないんだからなと言いたくなるわけです。

 


Aiマイクロニッコール55mm F2.8Sを装着してみました。この角度だとあまりデブくは見えないけど、どこかもっさりした感じがするわけですわ。カメラに責任はないんだけどね。

 

FAはニコンの一眼レフでは初めてマルチパターン(多分割)測光と両優先AE+プログラムAEを同時に実現した意欲的なカメラでありまして、今ではそんなもの当たり前じゃんと言われちゃうかもしれませんが、これ、ほぼメカニズムによる制御ですし、旧来のFマウントを変えることなく実現したのですから、本来は驚くべきことなのであります。
 

余談ですが、この時にグランプリを争ったのはオリンパスOM-4で、こちらはマルチスポット測光をウリにしていました。
 

被写体の任意な部分をいくつかスポット測光するとカメラがそれらの値を演算して、適正というか、理想的な露出を導き出すというものであります。
 

最高8点までの測光を可能としていますが、画面内の8点をスポット測光して、その値が演算したら、多分割測光と何が違うんでしょうか。しかも被写体のどこを測光するか、何点測光するかは撮影者任せでしたから、このあたりは経験則が必要になるのではと思いました。
 

そもそも、悠長にスポット測光をいくつもしてカメラに記憶させていたら、その間に被写体はどこかに行ってしまうと思うぞ。そういうこともあって、グランプリはFAになったのかな。このあたりどうなんでしょうね。どこかに力関係があったのかしら。

 


マルチパターンと中央部重点測光を切り替えるボタンです。なんだよ、スポット測光はできねえのかよ、とか言わないでください。40年前のカメラなんですからこれくらいで勘弁してください。ボタンを押しながら回すと固定できます。押した状態が中央部重点測光かな。忘れた。確か初期型はボタンの周りにギザはありませんでしたから操作しづらかったのです。

 

撮影者が知恵を絞るという意味ではOM-4だけど、何も考えなくても綺麗な写真が制作できるという意味ではニコンFAですからね。つまりカメラの発展というのは人間がやることをなるべく少なくすることなわけですね。
 

ニコンFAのカタログや、カメラ雑誌の記事を見ていると、露出は完全にカメラ任せにしても失敗はなく理想的なものに見えました。撮影者の仕事はフォーカシングするだけじゃないですか。一眼レフカメラはここまで発展したのだと筆者も大いに感心した記憶があります。
 

FAの登場時期はバブル期の直前ですが、雑誌メディアもカラーページが増え、ポジフィルムの使用が爆発的に増えたこと、広告の仕事でも、露出に神経質になっていた時代でしたから、これは便利なのではないかと思って、筆者も早速FAを購入してポジフィルムを装填して、とりあえずテストしてみました。
 

結論はドハマりする時は露出はOKなんだけど、なんだか微妙に露出を外すことがあって、すぐにAEでの設定で使うのをやめた経緯があります。つまりどハマりするときの条件がよくわからないわけです。基本的に仕事撮影では単体露出計プラス経験則みたいなところで値を設定します。
 

正直、多分割測光の黎明期はポジフィルムよりもカラーネガフィルムを意識していたのかもしれません。とくに順光のなんでもない風景写真が若干でもオーバー露光になったりすると失望が大きくなるわけです。
 

もっともTTL測光ゆえにどのような測光方式を選ぼうとも被写体の色や反射率で測光値が変化するのはあたりまえのことなんですが、FAはそのあたりもうまくやってくれるようにも思えて期待値が高まったのです。騙されてみたいというやつですね。

 


シャッターダイヤルから「A」表記はなくなり、下のレバーの切り替えで撮影モードを選びます。SとMの時にシャッターダイヤルを使うわけですね。シャッターボタンの頭が丸みを帯びて指に優しくなりました。

 

結局はどうしたかと申しますと。こちらの経験則で読んだ露出とFAの読んだ露出の差異はカメラ内の数値表示でおおよそ露出の傾向がわかるので、AEで撮影する場合はほとんど筆者自身が好みになるような露光補正に設定して使用していました。多分割測光って、露光補正しなくていいってのがウリだったはずですが、これはヘンですけど、あたりまえですが適正露出って理論値だけのものではない。ひとつじゃないんですよね。
 

早い話が、単体露出計と経験則で培った露光値をM(マニュアル)モードで設定してしまう方が安心ということであります。でもすべてそうして撮影するならFAを使う意味がなくなりますねえ。ま、どうだろ当時は単純に特別な理由などなくてカメラが欲しかったんじゃねえかな。今もか?
 

FAは上下カバーがエンジニアリングプラスチックになったことも気に入らない要素でした。それなりの質感はあれど、使うと次第にツルツルになってゆきます。さほどお安いカメラじゃないのに、こういう仕様は泣きそうになります。

 

被写体に応じてP、S、A、Mを切り替えている人ってどのくらいいるのかな。
 

FAの撮影モードはA(絞り優先AE)のほか、P(プログラムAE)のほかS(シャッター速度優先AE)を可能にしているので、ニコンFGの正常進化型、いわば初代のマルチモード機でありますね。PとSモードでは例によって、絞り環を採用絞りに設定すると機能します。

 


AiニッコールSタイプレンズかをボディ側のレンズ識別ピンとレンズ側のマウントの切り欠きで見分けます。切り欠きのないレンズだと装着時にピンが押され、Sタイプレンズではないことがわかるわけです。電気接点なしのアナログなやり方ですね。ま、どのレンズをどう装着しようが、瞬間絞り込み測光を追い込むんだからあまり神経質になってもね。

 

AE機構では絞りが動作したのちに再測光する、いわゆる瞬間絞り込み測光を採用しています。これは絞りの誤差をシャッター速度で吸収して、適正露出に持ってゆくためです。たいへんですねご苦労さまですと言いたくなる機構です。電子マウントになればこういう仕組みはなくなります。
 

使用レンズはAi-Sタイプが理想のようですが、Aiニッコールでも、Ai改造ニッコールでもマルチモードは機能するようです。制約はあるようですが、面倒なので取説を読んでください。
 

瞬間絞り込み測光だとニコンFE2よりも若干タイムラグが大きいですね。このことは慣れるまでは気になりました。シンクロ最高速はFE2と同じ1/250秒ですので、これはかなり重宝しました。
 

それとFAはボディに厚みが増したことで、デブくなった印象です。これ、当時でも謎でしたが、機能を詰め込むと太るというのはカメラでは当然の方向性ですが、FAをメンテナンスのために分解した経験のある修理人の話によると、上部カバーを開けただけで、モコッとコード類が出現し、思わずなかったことにしてくださいと、カバーをすぐに戻したくなったと。

 

それだけ複雑な構造なんでしょうか、ニコンF3みたいにフレキシブル基盤でバシッとスマートに決めて中身もスッキリしたぜという感じじゃないようですね。あくまでも又聞きなんで、本気にしませんように。

 


アイピースシャッターはド派手な赤でありますね。赤フンみたいで恥ずかしい色じゃないですか。FAでセルフタイマー使って記念写真とか撮る人いるのかね?

 

それにしてもFAのようなマルチモード機を使うときに、被写体に応じてP、S、A、Mを切り替えている人ってどのくらいいるのかな。デジタル時代になっても筆者はAとMがあれば何も困らないんだけど、筆者が使いこなせていないだけなのか。

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