F5からシャッタースピードダイヤルがなくなったこともあるのですが、これに伴いUIを変えようとした意思をはっきりと見てとることができます。
非常に重要なのはF5ではコマンドダイヤルと液晶パネルの表示を用いた連携プレイによる操作系が採用されていることです。ニコンファンは認めないかもしれませんが、キヤノンEOS的なUIの方向性に似ています。
日本光学創立50周年を記念して作られたF5ですね。限定発売でしたが、作者はなんでこれに手を出したのかまったく記憶がありませんが、コレクションなどではなく実用で使っているので傷だらけです。
Nikonエンブレムの旧ロゴが刻印されています。Nのカーブのあるフォントがたまらんとかいう人がいますが、筆者はすげーカッコ悪いと思います。というか、F5に似合わないバランスですよ。
ボディ裏の目立たないところに、記念マークがあります。そういえばこの記念マークのないモデルを見たことがあるのですが、エラー製品扱いになっていました。
F5の場合はすべての撮影モードにおいて、絞りのシャッタースピード設定も前後2つのコマンドダイヤルで行うことが前提となります。使用するレンズも原則としてAFニッコールとPタイプ、すなわちレンズ内にCPUが内蔵されているものが対象となっており、これらのレンズ以外では、F5のパフォーマンスを最大限に発揮させることが難しいのです。
メインコマンドダイヤル。半分ボディに埋まっている感じなので迫力はないけど、操作性と感触はいいですね。
現在のデジタルカメラのようにメニューから各種設定ができるわけではないので、F5は隠しボタンがありました。背面の下にあります。
もちろんF5も栄光の不変のFマウントを採用しているので、MFニッコールも使うことができるのですが、機能的には省略されてしまいます。
先に申し上げたようにF5ではコマンドダイヤルを使用することが前提なので絞り優先AEを使用する場合でもこれはCPU内蔵レンズならばコマンドダイヤルによる設定が優先的に実行されます。
このことで筆者は、F5使用時での奇妙な現象に気づきました。
F5にCPU内蔵レンズを装着する時は最小絞りにて使用することが原則です。ですが、この時、絞り環を使用しても絞り設定を行うことが可能だったわけです。
筆者は年寄りですからニコンの一眼レフを使う時はレンズ鏡胴の絞り環をよく使います。ここではF5.6に合わせています。
カメラの機種によると思いますが、現在のニコンデジタル一眼レフにCPU内蔵の絞り環のあるニッコールレンズ(Dタイプなど)を使用する場合は、レンズ側の絞り環を使用するか否かをメニューから決める必要があります。
「絞り環を使用しない」設定にしておくと、絞り値が最小絞りからズレていると、エラーとなり、動作しませんが、F5にはこの設定項目はありませんでした。
絞り環で絞りの設定をそのまま数値どおりの絞りとして実行することができます。その代わり、液晶パネルには絞り値はF--としか表示されません。
絞り環を使ってF5.6に合わせた時の液晶パネルの状態。絞り値は表示されません。この使用方法でも問題はないのですが、ボディ側からセットしたF5.6と絞り環でセットしたF5.6では厳密にみると多少光量がちがうようです。絞りの制御をボディ側から行うのは大変そうです。
ただし、例外があるのです。この時に何が起こるかというと、少し厄介なのです。
筆者はF時代からのニコン一眼レフユーザーですから、F5+CPU内蔵のAFニッコールの組み合わせで使用する場合にも、当初はレンズの絞り環を使用して絞りを設定していました。慣れているからです。
レンズの最小絞りを使用することはそう多くはありませんが、ちょっとしたマクロとか商品撮影などを行うような場合とかでは躊躇なく最小絞りも使います。この時の撮影モードはおおむねマニュアル露出です。外部の大型ストロボを使用することが普通だったからです。
ところが現像が仕上がったポジフィルムのコマをみると、最小絞りに設定した時のみ、露光がオーバーになるコマが散見されたのです。筆者はカメラかレンズに異常をきたしたのかと青くなりました。筆者は絞り環を最小絞りに設定した時、そのまま設定値どおりの露光をすると信じていました。
ところがF5の場合はコマンドダイヤルによる絞り設定が優先されるので装着レンズの最小絞りを使用する時は絞り環の数値と、液晶パネルの表示数値が同じ値になっていなければなりません。
絞り環を最小絞りにセットして、コマンドダイヤルで絞りをF5.6にセットしました。液晶パネルでもF5.6の表示が出ます。
つまり、装着レンズの最小絞りがF22で、F22の絞り値で露光するには液晶パネルにも同じF22と表示されている必要があります。最小絞りがF16のレンズで最小絞り値で撮影するなら、液晶パネルの絞り値もF16とならねばなりません。
絞りをF22、コマンドダイヤルでもF22になるようにセットしました。コマンドダイヤルで絞り環を使い最小絞りを使う場合には必ず確認しましょう。
コマンドダイヤルでの絞り値設定がF5.6や4となっていれば、F22ではなく、液晶パネルに表示された絞り値の数値で露光されることになるわけです。この、あたりまえの事実を理解するまで、筆者は少々時間を要しました。
F5発売時の取り扱い説明書も、そのことは明確に明示されていなかったような記憶がありますが、このときにはニコンのカメラ開発エンジニアさんたちは、すでにレンズ側の絞り環は使用してほしくないと考えていたのだと思います。AFニッコールレンズ側のUIも過渡期的な状況だったために、絞り設定もコマンドダイヤルを使うか、絞り環を使用するか、明確な区分けをしなかったわけです。
CPUが内蔵されていないニッコールオートレンズをF5に使用しても、液晶パネルにこそ表示は出ませんが、絞りは設定値で機能し、絞り優先AEを使用することができました。これはあたりまえですが、筆者のように古いニッコールレンズを多数所有していると、絞り環のあるレンズの場合はAFニッコールであっても絞り環のほうを優先して使いたくなります。
なにを言いたいかといえば、そう、F5にAFニッコールなどCPU内蔵レンズを装着する場合は必ず「絞り環を最小絞りとしてロックし、そのまま絞り環の存在を忘れてしまえ」とするのがこの間違いを防ぐコツだったことがわかりました。
少々わかりづらいかもしれませんが、これが結論であります。このころから絞り環を省略した「Gタイプ」のニッコールレンズ登場がこの時点から加速してきた感がありますが、従来のDタイプとGタイプが混在しているものですから、ややこしいことになるわけです。Fマウントを堅持したまま新しいUIを採用する弊害はこういうところに出てくるわけですね。
もうひとつF5の気になるところを述べておきますか。AFエリアの表示のことです。
F5ではファインダー内のAFエリアを表示するために、エレクトロクロミックフィルムが視野全体に敷きつめられています。選択したAFエリアは太い線で黒化して表示されますが、これがですね、わかりづらいんですわ。当時としては最新のデバイスだったわけで、開発のみなさんもこれを使いたかったのでしょう。でもね、黒枠ですから、選択したAFエリアが被写体に埋もれてしまうことがあるのです。表示は上品ではあるのですが、忙しい現場では辛いですね。
F5のスクリーン。背面のフォーカスエリアセレクターでAFエリアを選ぶ。選択したAFエリアの線が太くなる。
作り込みの美しいこと。フィルムガードレールの仕上げなど、一級品の味わいがあります。あとは、フィルムを詰めて、写させていただきますという気持ちを大事にしたいものです。
F5について少しだけネガな話をしましたが、今後のニコン一眼レフの発展のためには必要なことだったかと思います。シャッターを切ってしまうとすべて忘れてしまうような話でありますが、マウント不変のままで、EOSに十二分に対抗できる一眼レフを作り上げたというだけでも、感激しちゃいますね
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