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推すぜ!ニコンFシステム

第31回 開発途上にあった位相差AFの機構をいち早く採用したAF一眼レフ「ニコンF3AF」

2023/04/13
赤城耕一

エイリアンのアタマのような、AFファインダーDX-1

 

ニコンF3AF。それはジュージアーロ渾身のF3のデザインを破壊することでAF化を達成した、初のフラッグシップAF一眼レフカメラでした。


登場したのは1983年ですから、今からちょうど40年前ということになりますが、かのミノルタα-7000が登場したのは1985年のことですからね、これよりも早い本格派のAF一眼レフでした。
 

ただし、F3AFは自分でその姿を鏡に映すと、あまりにも醜い姿に脂汗がトロトロと流れ、それを集めるとレンズのヘリコイドグリースとして使えるほどでした。と、いうのは大嘘ですが、筆者はそれよりも、登場時からこれはエイリアンのアタマではないかと思っておりましたよ。とてもブサイクであります。

 


アングルによってはバカでかいファインダーが強調されますね。ブツけずに携行して歩くのは至難の技ですぜ。装着レンズは専用のAFニッコール80mmF2.8S(F3AF用)になります。ニコンのデジタル一眼レフには使えないので、中古市場では評価されておりません。

 

テレコンバーターTC-16を装着して、さらにMFニッコールを装着するとAF撮影することができますぜ。テレコン内部が動くだけなので意外とAFスピード速いんですよ。焦点距離は1.6倍拡大されます。レンズの種類によっては装着できなかったり、動作しないこともありますね。

 

先進のAF機能を搭載しても、このカッコ悪さと価格の高さではどうしようもねーじゃねかよと登場した時には思いましたよ。ピントくらいこちらで合わせるんだから余計なことするなって。というのが当時若者だった筆者の素直な感想でした。
 

でもね、最初は醜いと思っていたデザインも齢を重ねますとなんだか良く見えてくるわけですよ。そうです、オリジナリティがありますからね。開発途上の出来損ない試作機をもったいないから売っちゃえくらいの勢いだったのかもしれませんが、それも勇気ある出来事でした。

 

とにかくですね同じような形をしたカメラは他にないのです。当時の最大のライバルのキヤノンNew F-1だって、AFに向けての追加機能など考えてもいなかったようです。初代のF-1には違法建築みたいなサーボEEファインダーがあったというのに。
 

F3AF(も)好き。この開き直りの境地に到達するまで、ブサイクなデザインが好きになるまで私自身40年かかったわけです。ということは、あのカメラも好きになるまで40年かかるのかしら。でも私はその頃は別の世界におりますので関係ありませんね。

 


AFファインダーDX-1の側面。こんなでかい表記があると、おじいさんが使うカメラとしては恥ずかしいのですが、発売当時としてはAFであることを強く主張したかったんだろーなーと思うわけですね。

 

非常に単純な話ですが、F3AFの場合はAFの主要機能のほとんどがこのDX-1ファインダーに収められために、ものすごくヘンな形になってしまったというわけですね。測距素子もボディ内ではなくてファインダー内にあります。
 

DX-1の中身を見たことがありますが、モーターなどの起動系はありませんし、フレキ板で埋められているという感じでしたから、ですので見た目ほど重くはありません。
 

でもAFを使用するには単四電池を2本入れます。ここで電源を必要とするとはなんだかF時代のフォトミックファインダーみたいですね。これもヘンです。

 


DX-1装着のF3AFでAF撮影を行うためにはDX-1の先端部分に単四電池を入れる必要があります。どことなく、のどかな感じもしますが、スペースはこの分とられてしまうわけですし、最初っから、ちゃんと考えて設計しているのかキミは?あ?と言いたくなりそうになりますが、カメラ博愛主義者である筆者は我慢しています。

 

ヘンということは個性があるわけで、むしろ現代からみればこの当時、よくやったぜ、と評価すべきなのでしょう。あ、保管するときに電池を抜くのを忘れないようにね。あと、DX-1の外装は意外と凹みやすいですね。コレクターの方は十分に注意せねばなりません。
 

F3AFを使うと毎度思い出すのはニコンF2フォトミックSとSB、ASのために用意されたサーボEEコントロールユニット各種です。
 

メカニカル一眼レフカメラを無理やりAE一眼レフにするためのアクセサリーですが、フラッグシップ機を何としてもAE化するのだという企画から生まれたものでしょうか。将来のAE一眼レフ時代を予見していたからこその企画でしょうが、正直サーボEEを使用する人はヘンタイな人ばかりでした。あ、これは褒め言葉です。ヘンタイと呼ばれるほど、そのメカニズムを知りたい好奇心旺盛な人ということでありますので。
 

これとF3AFは少し似ていませんか。ええ、今もF3AFを使おうと考える人も立派なヘンタイですからご安心ください。

 

ファインダーの開口部に2つの奇妙な接点

でもね、F3AFは発売時にプロスペックAFとうたっていましたから登場時にはそれなりにニコンは本気だったと思いますよ。だから、しつこいようですが、F2時代のサーボEEとは立ち位置が違います。ただAFのために動作するメカが外から見えるわけではありませんから、そう面白いものでもありません。実際にニコンから本格的なAF一眼レフが登場するまでには、もう少し時間を要しました。
 

すでにF3登場時にメカニズムの識者の間では、ファインダーの開口部に2つの奇妙な接点があることは知られておりました。
 

この時に登場した通常のアイレベルファインダーをはじめとする各種には接点はありませんでしたから、接点は放置プレイになります。これが何らかの方法により、AFのために使われるのであろうことはすでにこの時点で予想されていたわけです。

 

でもF3はそのままAF機としては発展することはありませんでした。F3のボディをベースに、ファインダー開口部とマウントの内側に各種のAF接点を設けることで、専用のAF一眼レフボディのF3AFとなり、そこにAFファインダーDX-1を装着することでAF一眼レフとして機能しました。
 

もちろん通常のファインダーを装着すれば普通のMFのF3として使うことができます。これも特徴でありますね。
 

面白いのはAFファインダーDX-1を通常のニコンF3ボディに装着すると、フォーカスエイドが使えるようになることです。このための接点がファインダー開口部の2つの接点だったのです。

 


F3AFのファインダー開口部前方にあるDX-1のための専用接点です。もちろんフツーのF3には存在していません。接点が汚れたりするとAFが機能しなくなったりしますから注意が必要ですね。

 

こちらはF3AFのファインダー開口部の左下にある接点ですが、これは通常のF3にも存在しているので、お持ちの方は確認してみてください。ただしF3Pの接点はホットシュー用ですから、DX-1は装着しないようにお願いします。

 

はたしてフォーカスエイドが当時どれほど便利だと考えられたのか、どれだけ精度が高く実用性があるのか未知数ではありましたが、肉眼でのフォーカシングに自信がない人には役立ったのかもしれませんね。ただ、装着レンズのF値などで使用限界はあったと思います。詳しくは調べてください。
 

もっともフォーカスエイドが使えるのは画面中央のみですからそれなりにコツは必要です。なおフォーカシングスクリーンはDX-1側に固定されており、交換することは不可能です。

 


AFファインダーDX-1のスクリーン部分ですね。固定式です。ファインダー視野率は100パーセントに満たないようですね。AFのためとはいえ、これはニコンフラッグシップとしてはどうよとなりますが、気にしている人はいないか。

 

レンズ内モーター方式を採用していた、F3AF専用のレンズ2本

 

AFモジュールはSPDを採用しています。位相差AFでフォーカシングします。のちのニコンAF一眼レフでは位相差AFは一般的な測距方法になりましたが、その元祖的な方法です。
 

またF3AFはニコンFマウント採用ですが、AFで撮影をするには専用のAFニッコールレンズを使う必要がありました。この専用レンズは2本のみ。F3AF登場と同時に、AI AFニッコール80mm F2.8SとAI AFニッコールED 200mm F3.5Sが発売されました。
 

驚いたのは、この2本のAFレンズはレンズ内モーター方式を採用していたことです。のちのニコンのAF一眼レフのAF方式とは全く異なるものとなっていたのですが、ニコンF-501やF3の後継機であるF4では、これらのレンズを装着してもAFの動作を可能としていました。
 

この2本のAFニッコールレンズが素晴らしかったのは、鏡胴はやや太めではありますが、いかにもAF駆動モーターを内蔵しましたよというコブのあるデザインではなかったことですね。カメラボディよりデザインに気が使われております。
 

しかもですよ、AI連動は当然のこととしながら、カニの鋏もついております。つまり、旧ガチャガチャ方式のニコンフォトミックFTNとかニコマートELに装着しても開放測光が可能になるというわけです。

 


Ai AFニッコール200mm F3.5Sのマウント部分です。専用接点もあり、かつカニのハサミもあり、光学読み取り用の絞り数値もあります。Sタイプですから、ニコンFGやFAではSモードやPモードの使用ができます。F3AFの他にはF-501とF4でAF撮影できます。全方位外交みたいに見えますが、旧機種との互換性に重きを置いているのがミソですね。

 

F3AFをひっくり返して、専用AFニッコールレンズ用の6個のAF接点を見てみました。人間で言えば上顎あたりでしょうか。もちろん通常のF3にこの接点はありません。もちろんF-501以降に登場するカプラー方式のAFニッコールレンズにも対応していません。

 

さらにSタイプレンズですから、S(シャッタースピード優先AE)やP(プログラムAE)モードの露出制御を搭載したニコン一眼レフカメラにも対応しているわけですね。
 

この新旧互換性には本当に驚かされます。と、いうかそこまでやるかと思いました。
 

なぜなら、ニコンFマウントレンズの場合は、AI改造のように古いレンズは使えるように面倒をみてあげるけど、新しいレンズは古いカメラボディにはあまり装着して欲しくないなあというニコンの姿勢がこの後はチラチラと見えはじめてくるわけです。
 

筆者はこのことに敬意を表し、この2本のF3AFレンズを、時々ガチャガチャ方式のニコン一眼レフに装着して楽しんでおりますが、この2本とも、光学性能面でもとても優秀な性能です。先進のAF機能を有するF3AFのための専用レンズですから開発のためにお金がたくさんかけることができたのかもしれませんね。

 

実際のF3AFを使ってみると、なかなか興味深いものがあります。
 

シャッターボタン半押しでAFの測距は開始されますが、AF-SとかAF-Cという種別がなくて、フォーカスは常に動き続けます。手持ち撮影しているとフォーカスリングが完全に静止することは稀です。
 

動作的には現在のAF一眼レフのAF-C設定と同じでしょうか。ファインダー内に表示されるふたつの三角マークは合焦したところで、ふたつとも同時点灯しますが、これも手持ち撮影だとマークはチラチラと動き続けることが多いようです。
 

基本的にはこの状況でシャッターボタンを押し切って撮影するか、レンズ鏡胴にあるいずれかのフォーカスロックボタンを押してフォーカスを固定し、それから撮影することになります。こうしないと被写体が中央の位置にないとフォーカスが外れてしまうからですね。
 

正直、現代のAF一眼レフと比較すると、合焦の精度とかスピードなどは及ばないのですが、まったく使いものにならないということはありません。MFのニッコールレンズを使う場合はフォーカスエイドが使えますが、機構的にファインダー中央が暗く、視認性は今ひとつなので、普通の人にはなかなか納得してもらえそうにありません。

 


DX-1のファインダーアイピースですね。ファインダーのアタッチメントは通常のサイズなんでヘソみたいな感じです。なぜ、F3HPのファインダーアイピースの大きさに合わせなかったのでしょうか。アイピースシャッターも備えておりますが、このカメラでセルフタイマーで記念撮影はした経験のある人はいますか?怒りませんので正直に申し出てください。

 

またモータードライブMD-4を使わずにAFを使って撮影するのは相当に器用でないと難しいように思います。指でフォーカシングしないのだから仕事は減ったように思えるかもしれませんが、AFの動作とフィルム巻き上げという一連のシーケンスに整合感がないのです。これはもう長いことフィルムAF一眼レフやデジタル一眼レフを使用していることから違和感を感じるからでしょう。でも筆者はヘンタイなのでF3AF単体のままを喜んで使っています。MD-4を装着するとあまりにも重いからです。

 


ニコンF3AF+MD-4+MK-1+AI AFニッコールED200mmF3.5Sの組み合わせという、良い子には関係ない究極の組み合わせ。Z9に似ている感じもしますが、これは気のせいでしょう。コマ変速機MK-1はF3AFのフォーカススピードをMD-4のコマ速度に合わせるために用意されたとなにかで読みました。

 

F3AFには動体予測(ニコンでは予測駆動と呼んでいた)フォーカスは備えていないので、カメラに向かってくる被写体を追い続けるのは難しいとは思うのですが、当時のカメラ雑誌のテストレポートを確認してみると、こちらに向かってくるバイクにもピントは合ったという報告を確認することができます。
 

なお80mm F2.8で測距可能な限界の明るさはEV4とのことですから、室内ではかなり厳しい状況です。AFをきちんと動作させるには、ある程度の明るさが必要だったわけです。
 

この当時、こうした出来損ない、じゃない、開発途上にあった位相差AFの機構をフラッグシップに採用しAF一眼レフとしたニコンの英断は大したものですし、決してニコンは保守的な会社ではないという姿勢を世間に知らしめたことになります。

 

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