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カメラ的本棚

第39話 「世界でいちばん長い写真」草野翔吾監督

2024/12/24
柊サナカ

みなさんは、世界で一番長い写真を、見たことがありますか。
 

なければ、ぜひ見るべき映画があります。「世界でいちばん長い写真」です!
 

原作の『世界でいちばん長い写真』誉田哲也著を読んだので、(まあ、映画はいいかな? 実写化って、たいていはがっかりするものだし……)と思って、今まで見ていなかったことをはげしく後悔しました。この映画、カメラ映画としても青春映画としても素晴らしく、わたくし、ぐっときて泣いちゃいましたよ。
 

先日、コラムでも紹介しました、日本カメラ博物館の特別展「19世紀から21世紀へ 飛び出す! ひろがる! ステレオ&パノラマカメラの歴史」(https://photoandculture-tokyo.com/contents.php?i=4738)展を見に行き、そこで奇妙なカメラを目にしました。マミヤRB67がベースになった改造カメラなのですが、マガジンも巨大で、異様な迫力がありました。そのカメラこそ、映画で実際に使われたパノラマカメラ(スリットカメラ)なのです。
 

主人公はノロブというあだ名を持つ内藤宏信。この宏信、写真部にも熱意はないし、気も弱いし、おどおどしてとにかく引っ込み思案、自分の意見もまるで言えないという、残念な高校三年生です。演じるのは高杉真宙、本当だったら美少年役がすごくはまるにちがいないのに、まるでダメな感じの写真部員を演じていて、(あっこんな感じの写真部員、本当にいそう)と思うに違いありません。いろいろダメで、部長の女子にも怒られっぱなしです。
 

ところがある日、いとこの温子のリサイクルショップを手伝っていて、古いカメラを見つけます。それが、見たこともないようなカメラなのです。最初、マミヤRB67(中判カメラ)に、35ミリフィルムを入れようとしているところが、今時の子っぽくてリアルだなと思いました。写真部ではみんなデジタルカメラを使っていて、暗室が物置になっているところも今時の写真部ですよね……。
 

近所にあるミヤモト写真館に持っていって、撮り方などを教えてもらうことに。そこで、このカメラが「世にも珍しいパノラマカメラです」と、教えてもらうのです。展望台に持っていって、最初の撮影をすることに。このカメラ、三脚の上で回ります。回りながら、スリットごしの景色を全部写していく感じになるのですね。

 


 

みなさん。新しいカメラで初めて撮るときって、めちゃくちゃわくわくしませんか? どんな風に撮れるのだろう? できあがりはどうだろう? 失敗してないかな?

 

この映画のすごいところは、その気持ちを余すところなく、見ているわたしたちにも共有してくれるところです。どんな写真になったかは、実際に映画を見ていただきたい。ドキドキしますよ!
 

できた写真は、この映画のために適当にCGで作ったとかはではないのです。実際にカメラが回って、フィルムの端から端まで使って写し込まれる景色の、圧倒的な密度と視界の広がりに、ただただ驚かされます。
 

作中でも言及がありますが、このパノラマカメラは、山本新一氏という、世界で一番長い写真ギネス保持者のカメラだということがわかります(実在の人物です)。最初に主人公が撮ったのが一号機で、ギネスの写真を撮った四号機も、特別に貸してもらえることになりました。回転はなんと13回転、長さにして145mの写真って、見てみたくないですか?
 

主人公たちは三年生、もう部活も引退ですし、卒業が迫っています。卒業記念イベントで、その145mの写真をみんなで撮ろうという話をしてみたところ……みんな興味なく、ざわざわして、「もっと負担のないものがいいです」「13回もポーズするの? えー」みたいに反対意見がいろいろ出て、ダメだ、もうやめようか、というような空気になってしまいます。
 

そこで主人公が! あの引っ込み思案で、何事にも興味なさそうにしていた主人公が! 動くのです! それも、カメラを一度でも使ったことのある人なら、もう本当にぐっとくるやり方で。

 


 

高校三年生、卒業間近のあの雰囲気、覚えていらっしゃるでしょうか。みんなと離れていって、もう会えなくなるかもしれない。こんなにみんなが集まるのは、これで最後かもしれないという切なさがあります。そんな切なさには、やはり写真が合うのです。

 

「世界でいちばん長い写真」は、エンドロール、最後の最後まで見逃せない良作です。映画、ご覧になっていない方はぜひ観て欲しい。そして映画をご覧になったらぜひ、作中で使われた山本新一氏制作のカメラを見に、日本カメラ博物館まで。
 
 

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