©︎WAWC campfire Animation
みなさんは天才に会ったことがありますか。
わたしは、ある高名な写真家がお茶を飲んでいる席の、隅っこに同席していたことがあって、緊張していたので、黙ってお話を聞いていました。
するとK先生は、テレビの画面(放送された番組)の撮影をしているというのです。それも数枚撮るのではなくて、大量に、何年もかけて撮影しているのだとか。凡人のわたしは、(テレビの画面の撮影……なぜ? 写真を撮るには、外の景色の方がいいのでは?)と思いながら聞いていました。
テレビの画面を一枚だけ写すのではなくて、大量に、長期間撮影する。そうすれば、そのときの自分の興味関心、心というものがおのずと見えてくる、というような話をなさっていて、やはり発想からして凡人とは違うのだな、と震えました。
今日紹介するのは「天才の頭の中~世界を面白くする107のヒント」という映画です。天才はなぜ天才なのか、という問いを、ハーマン・ヴァスケ監督が、世界中を飛び回り、1000人以上に聞いて回ったという大作。アポ無し突撃インタビューもあったりする、体当たり企画で、どう見ても唐突な質問に困惑しているアーティストも……。その中で、選りすぐりの107名に絞ったのがこの映画です。「あなたはなぜクリエイティブなのですか」という問いを全員に投げかけます。
©︎WAWC David Bowie, Hermann Vaske
この映画は、ひとつひとつのインタビューは短く、それが107も集まっているスタイルのドキュメンタリーとなっています。それならインタビュー集などで、活字で読んだ方が効率がいいのでは? と思った方も、ぜひこの映画を見ていただきたいです。天才たちが自らの創造性、創作活動を語るときの目つきや姿勢など、ほんとうにひとりひとりが違います。それでも、何かこう、言いようのない突出した何かの気配を感じるのです。
天才と呼ばれる人たちが、いかにして天才になったか、気になるところですよね。環境がそうさせたのか、遺伝によるものなのか、努力か、はたまた運か。
©︎WAWC Oliviero Toscani
天才は、さらっと語られるエピソードもすごくて、芸術家であるマリーナ・アブラモヴィッチの母親は異常に門限や躾に厳しく、二十歳超えても門限は22時だったとか。しかしあるとき、芸術活動で裸になっていたことを母親に知られてしまう。どうなったと思いますか? 母親は、ガラスの巨大な灰皿を大きく振りかぶって、有名な小説の一説を朗々と引用しつつ「わたしが与えた命を返せ」とマリーナに投げつけ、頭をかち割ろうとしたそうです。普通だったらここで心折れて、芸術活動なんて諦めてしまうところを、マリーナは飛んでくる灰皿を前に(わたしが死ねば母を刑務所に送れる)と、絶対にガラス灰皿を避けない選択をしたそうです。さて、母娘の命と命のせめぎ合い、この先どうなったかは、映画でぜひ。
©︎WAWC Marina Abramovic
医学的アプローチからも天才を語る人も出てきて、「異なる二つを組み合わせた経験を持つ若者は、創造的な大人に成長する」と話す人も出てきます。それは例えば、幼少時に引っ越しが多かった人など。行く先々で異質な経験をするからだそうです。みなさんはどうでしょうか。
©︎WAWC Jim Jarmusch
「どうやったら天才になれるのか」についての方法は、わたしには結局わかりませんでしたが、総勢107人の天才たちが、自らの創造性について語る様子は圧巻です。おしゃべり好きな人もいれば、困り切ったリアクションをとる人もいて、思わぬコンプレックスについて語り出す人も。映画監督・写真家・俳優・音楽家・政治家・宗教家・建築家……、ジャンルも多岐にわたります。日本を代表する、あの写真家と映画監督の方にも聞いていましたよ! なんと答えたかはお楽しみに。
- 『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』
- 監督:ハーマン・ヴァスケ
- 販売元∶アルバトロス
- https://www.albatros-film.com/archives/12085/
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