『ストーカー』
© 2023 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
ディズニープラスのスターで配信中
この映画、邦題では「ストーカー」となっていますが、原題は「One Hour Photo」。
ちょうど2002年の映画で、日本公開がそれより数年後だったとすると、デジタルカメラが普及してきた頃でしょうか。映画の中でも冒頭、「主人がデジタルカメラにしろってうるさいの」という台詞が出てきていました。
この映画の舞台は、フィルムを現像・写真プリントする写真店です。”同時プリント”とか、”2L・一時間仕上げ”とか、フィルムカメラ世代の人には懐かしくないですか?
ホラーやサスペンス映画には、小道具とか舞台とかを知っていたら、怖さが倍増するものがありますが、この映画もそう。フィルム世代だったら、この「ストーカー」もう本当に嫌な感じに震え上がると思います。なぜなら――お店に出したフィルムを現像する写真店の人が、普通の人じゃなかったら、どうする? というお話だからです。
主演はロビン・ウィリアムズ。ロビン・ウィリアムズというと、基本いい人の役が多かったような? 「ジュマンジ」も懐かしいし、「アラジン」のジーニー役の声もいいですよね、演技派、ニコニコ顔の似合うおじさん、というイメージでした。この映画でもそうです。真面目そうで、だいたいニコニコしています。でも、そんないい人っぽい人が実は一番怖い、となる演技がすごい。これ以上ないはまり役だと思います。
映画の冒頭、”One Hour Photo”と、タイトルが、カラーネガをスキャンしている雰囲気で出てくるところもいい。とはいえ、舞台は写真店といっても、写真家御用達のプロラボのようなところではありません。マートの一角にある写真店で、うりは一時間というスピード仕上げ。お客も地元の人ばかり。主役のサイは、そこで長年勤めているベテラン店員です。自動現像機の色味の設定にもこだわりがあります。すべては美しい写真の仕上がりのために。
ちなみに、海外の写真店の様子がいろいろ見られます、アグファの自動現像機やカッター、レンズ付きフィルム(使い切りカメラ)、いろんなフィルムや写真系小道具が次々出てきて面白い。古写真の蚤の市や、富士フイルムのフィルムも出ますよ!
その写真店へたびたびやってくるのが、ニーナという、とても美しい奥さんです。愛機はライカミニ。この奥さんには9歳になる息子、ジェイクがいますが、そのジェイクが生まれる前からずっと家族写真を撮り、この写真店へフィルムを出し続けているのです。当然、店員のサイとも顔見知りで、ライカミニの撮影が終わって、ジーーーーという音と共にフィルムが巻き戻されていく間に、軽く話したりなんかもします。夫もいて、豪邸に住むなど裕福、現像する写真もとても幸せそう。この写真店のサイは、この奥さんが大のお気に入りなのです。
サイは写真店の店員なので、その一家のネガが現像に出されるたびに、写真を全部、自分用にも焼き増しします。それをどうするかというと、当然家に持って帰って、大事に愛でるのです。今でもカラーネガは写真店に出しているわたしですが、これを見て本当にぞっとしました……。だって、ほんの一枚二枚を持って帰るというレベルではなく、壁一面が、ロモウォールみたいになっているのですもの。息子が生まれる前から9歳になるまでの10年間の写真が、隙間無く全部、広い壁一面に……。
写真は個人情報の宝庫です。どこで息子がソフトボールの練習をしているかとか、奥さんが何の本を読んでいるかとか、洗いざらいわかってしまうんですよね……。
それでもこのサイは、幸せな一家が憎い、壊してやろうとか、夫を殺して自分が家族に入り込もうとか、そういった心からの悪人ではないのです。自分には家族もないし、友人もいない。せめてこの幸せな家族写真をずっと眺めて愛でていたい。自分がもし、その一家の身内として、一緒に過ごせたらと、写真を見ながら夢想します。
でも、どんなに親しくなろうとしても無理があります。だってサイは、マートの一角にある写真店の、雇われ店員にしかすぎないのですから。このサイが、家族と距離を少しでも詰めようとして、ことごとく失敗する様子が、とても切ない。
それでも、ある日、サイは勝手に写真の焼き増しをして、家に持って帰っていたことが支配人にばれて、ついにクビになってしまいます。
それとほとんど日を同じくして、あんなに幸せそうだった一家の夫が、別の女と不倫していること、しかも不倫相手の女の方が、えげつない不倫写真を写真店に現像に出していることを知ってしまうのです。なぜこんな幸せな家庭を持ちながら、家族写真もいっぱい撮っておきながら、どうして不倫などできるんだ――! 許せない! サイは刃渡り20センチはありそうな、殺傷力抜群のサバイバルナイフとカメラを手に、ある行動に出ることに。話は意外な展開へ。
この映画に出てくる、最後の一枚はとても悲しくて、心に残りました。
サイは、うっとりとして写真を眺めます。
――写真は幸せな瞬間の思い出だ――
いまわたしが出している写真店の店員さんは、みんないい人でよかった……と、心からほっとしました。
フィルムカメラ派の方はぜひ。
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