わたしは海外のロックに対してそう明るくありません。でも、デビット・ボウイの写真で、妙に記憶に残っている一枚があります。それはモノクロの写真で、阪急電車を背景に、デビット・ボウイが佇んでいる、という写真です。その写真はSNSでもたびたびバズっているし、有名な写真のようなので、ご存じの方も多いと思います。
日本の電車という日常を背景に、ものすごいオーラを持つデビット・ボウイがスッと立っていること自体、もうなんというか、神々しいくらいで(これは現実にあったことなのか?)と二度見、三度見してしまうような異次元感があります。よくここで撮ったなということも含めて、記憶に残っていました。もしご存じない方は、阪急電車/デビット・ボウイで検索すると、すぐ写真が出ますし、今日紹介するドキュメンタリーの中ほどでも、京都で撮られたらしき、いろんな写真が出てきます。"David Bowie meets KYOTO"、 京都の街角に嘘みたいになじんでいるデビット・ボウイの写真群、本当にいいので見ていただきたい。
さて、この写真を撮ったのが誰かというと、それがこのドキュメンタリーの主役、写真家・鋤田正義なのです。
冒頭、被写体となった世界のスターだったり、トップアーティスト達が、ぱっぱっと映像が切り替わるように出てきます。最近、写真をよく見かけたYMOのあのジャケットもそうだったとは。他にも、あっこれ知ってる! えっこの写真もそうだったのか! という写真が次々に出てきて、あまりの豪華さにめまいがします。
ドキュメンタリーを観る前には、世界的な大スターをたくさん撮っている写真家だから、なんとなくのイメージで、きっとものすごい個性派でアクが強く、よく喋りよく笑い酒を飲み、生肉とか食べていそうで、全体的に脂っこい雰囲気に違いない、天才をねじ伏せるパワー系天才が来るはずと思っていたら、鋤田氏自身はものすごく優しそうな雰囲気で、どちらかというと生物や公民などの教師の佇まい、商店街などをカメラを持って歩いている様子は、失礼ながら(えっこの方が?)と意表をつかれました。
そのうちに、布袋寅泰が出てきて、道端で撮影が始まります。もしわたしだったら、(世界のHOTEIだ……)となり手が震えて全部手ブレしそうですが、なんという自然体。
マーク・ボランの慰霊碑のところまで来て、布袋が一枚の写真を指します。それは鋤田正義によるマーク・ボランのモノクロ写真で、「この写真で僕は、ギターを始めて、ロンドンまで来ちゃいましたからね」としみじみ言うのです。
わたしは、布袋寅泰といえば、当然子どもの頃にギターを聴いて、それがきっかけとなってギターを始め、世界的ギタリストになったのだとばかり思っていました。でも大もとは、ギターの演奏ではなく、一枚のモノクロ写真だったのかと思うと、人生なにがあるかわからないな、と思います。もしかしてこの写真を目にすることがなかったら、日本のロック音楽史はちょっと違ったものになっていたかもしれませんね。「全部この写真のせいですからね」と言う笑顔もいいなと思いました。
ふたりで話している様子を見ていると、そこには深い信頼関係があるように見えます。布袋さんも、他の映像で見たときよりもっと、素の姿でリラックスしているようで、いい写真を撮るためには、まずいい関係を築くことも大切なのだなと。
わたし自身はいい歳をして人見知りするので、人を撮るのはまったく下手で、よけいにそう感じます。ポートレート写真って、人間性対人間性のぶつかり合いなのかな、と想像していたら、鋤田氏を見ていると、合気道の達人みたいにすっと人の間合いに入っていくタイプの写真家もいるのだなあと。
写真家・鋤田正義の生まれは、福岡県直方市の炭鉱街だそう。1958年、リコーフレックスを買ってもらって、ブローニーフィルムで12枚しか撮れず、現像代もかかるので、母親や犬を縁側でよく撮っていました――と言いつつその写真が出てきますが、その犬の写真がもう、ただただうまく、(ええっ初心者でこれなの!)と打ちのめされます。その後、大阪の写真学校に行って写真を学んだそう。
いろんな世界的アーティストが鋤田正義を語りますが、それぞれのSUKITA観があって、みんなが撮影の本質みたいなところにさらっと触れるので驚きました。さすが世界のトップアーティストですね。
その中でも糸井重里の言葉には納得しました。「やわらかさの見本なんで。みんなが親戚のおじさんにお年玉もらいたい、みたいな感じで鋤田さんのことを語ってるっていうのは、怒る人だったら怒ると思うんですけど、それを喜べる鋤田さんっていうのは――最高ですね」
写真展があったら、ぜひ行ってみたくなりました。
インタビューを受けている人も、国内外でめちゃくちゃ豪華な人々なので見応えあります。撮られた写真もすさまじいので、ぜひ!
「SUKITA 刻まれたアーティストたちの一瞬」
出演:鋤田正義
布袋寅泰 ジム・ジャームッシュ 山本寛斎 永瀬正敏 糸井重里 リリー・フランキー クリス・トーマス ポール・スミス 細野晴臣 坂本龍一 高橋幸宏 MIYAVI PANTA アキマ・ツネオ 是枝裕和 箭内道彦 立川直樹 高橋靖子 他
写真:デヴィッド・ボウイ T・レックス イギー・ポップ 寺山修司 忌野清志郎 他
監督:相原裕美(コネクツ)
プロデューサー:相原裕美(コネクツ) 相原裕美(ビィウィズ) 鋤田晃久(鋤田事務所) 撮影:マーク東野 北島元朗 助監督:松永光明 編集:臼杵恵理
整音:田辺邦明 カラリスト:小林哲夫 ポストプロダクション:レスパスビジョン 制作プロダクション:コネクツ
エグゼクティブプロデューサー:石田美佐緒 松井智 スーパーバイザー:井上肇 追分史朗 近藤正司
製作:コネクツ ハピネット スペースシャワーネットワーク パラダイス・カフェ パルコ 鋤田事務所
協賛:学校法人 日本写真映像専門学校 協力:FM COCOLO 配給:パラダイス・カフェ フィルムズ
2018年 / 日本 / カラー / ビスタ / Digital / 5.1ch / 115分
©2018「SUKITA」パートナーズ
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