ソール・ライター、大人気ですよね。わたしは、前回の2021年「ニューヨークが産んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展を、Bunkamuraザ・ミュージアムへ見に行きました。当時はコロナ禍で、行動制限が出るか出ないかの時。滑り込みで観に行けたのですが、平日とはいえすごい人出で、(さすが、人気だなあ)と思ったのでした。
2023年の今年も、「ソール・ライターの原点 ニューヨークの色」展が、8月23日まで渋谷ヒカリエの9Fで行われているとのこと。必ず観に行く予定です。
そんな人気のソール・ライター、ドキュメンタリー映画があったのですね。みなさんもうご覧になりましたか?
わたしが写真から想像するソール・ライター像は、おしゃれ髭の芸術系眼鏡のシュっとした、神経質な感じの人です。「写真とは~」とかいろいろ語っちゃうタイプなのかなと。
なんとなく観始めた「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」で、その先入観を、いい意味で裏切られてちょっとびっくり。
映画冒頭に、新聞を読みながらソール・ライター本人が出てきているのですが、
「私はただ人の家の窓を撮るだけだ。たいしたことじゃない。なぜ私が優れてるなんて思う? まあ時には、すごくいい仕事もしてる。でも自慢はしたくない。今まで人のやったすばらしい仕事を見れば、わたし自身の達成などささやかなものだ。ライター氏の偉大さに酔ったりはしない。ソール・ライターはささやかな存在であって、映画にされる資格なんかない……まあでも、仕方ないか……フフフ」
という、ソール・ライター自身の語りで、ドキュメンタリー映画が始まります。
普段着、自宅で自然体のソール・ライター氏、80歳。(え……撮るの……)と、自分が映画に撮られることに、終始困惑しています。
わたしがソール・ライターだったら、あんなに写真も上手いし人気もあるのだから、「この雪の写真! 撮ったのはわたくし! すごいでしょう?」とか、「見てこの、傘!」と、自慢げになっちゃうと思うんです。映画の中のソール・ライターは、そんな自意識も栄光の昔語り機材の蘊蓄もなく、撮られることに居心地悪さを感じている人みたいに、困り笑顔を浮かべています。いままで写真家のドキュメンタリーをいろいろ見てきましたが、ソール・ライターのような写真家のタイプは、あまりいなかったように思います。なんだか逆にかっこいいですね。
もともとソール・ライターは絵画志望で、初めてのカメラは母に言って買ってもらった「デトローラ」。最初のプリントは青写真だったそうです。最初からカメラにはまりこんだわけではなく、友人がカメラを改造したりしていて、次第にこれを職業にするのはどうかと思ったそうですね。最初は儲からず、母の仕送りで何とか生活できたとか。
ソール・ライターと言えば、あの美しいカラー写真ですが、リバーサルフィルムを現像に出すと、箱に入ってスライドになって戻ってくる、その手軽さがとても気に入ったのだそう。当時は意外なことに、カラー写真はアートとはみなされなかったようです。ソール・ライター展で、壁に投影されるスライドをいくつも見ましたが、透過された光がとても美しく、ずっと見入っていました。
しかしこのドキュメンタリー映画は、ほとんどソール・ライターの自室で撮られていますが、物が多く、どこもかしこも散らかっていて、隅にはくつろぐ猫もいて、なんだか見ていてとても親近感をおぼえました。助手のマーゴットも、この部屋の整理は大変だろうなと思います。山と積んである印画紙の空箱から写真が出てきたり、ぬいぐるみが出てきたり、フィルムが出てきたり。たまに、ソール・ライターの未発表フィルムが発掘されました! と見かけるのは、この荷物の山のどこかから、まさに「発掘」されるのだなと。
ソール・ライターは、ドキュメンタリー映画撮影中に、散歩に出ます。イースト・ヴィレッジの同じ街並みを、55年間にわたって撮り続けているそう。助手のマーゴットは「1950年代の写真にも当時の魅力がある」と言い、「2011年の今も、同じ“ライター流”で撮ってる。すごいことよ」と言います。
写真と言うと、どこかいい所、撮り甲斐のあるところに出かけて行って撮らなければ、と思いがちなのですが、ソール・ライターのような、優れた写真のセンスをもってすれば、日常の中にも素敵なシャッターチャンスはいくらでも訪れるのだなと思いました。
街の人を撮る撮影風景も、「世界の巨匠」という感じではなく、「気のいい写真好きのおじいちゃん」という雰囲気がなんだか素敵で、ほほえましかったです。ご近所の人、うらやましいなと思いました。2013年に89歳で亡くなったそうですが、このドキュメンタリーを観て、わたしはソール・ライターという写真家のことがもっと好きになりました。
こちらのドキュメンタリー映画は、楽天TVでレンタルできました。今回楽天TVを初めて使いましたが、サブスクのように毎月の料金が要らず、レンタル料金だけなので使いやすかったです。ソール・ライター展に行く前、観た後、どちらも楽しいと思いますので、よかったらぜひ。
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