top コラムカメラ的本棚第26話 「ロバート・キャパ 集英社版・学習漫画 世界の伝記NEXT」漫画:長山愛子、シナリオ:蛭海隆史、監修・解説:写真家 長倉洋海

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第26話 「ロバート・キャパ 集英社版・学習漫画 世界の伝記NEXT」漫画:長山愛子、シナリオ:蛭海隆史、監修・解説:写真家 長倉洋海

2023/11/28
柊サナカ

「ロバート・キャパ 集英社版・学習漫画 世界の伝記NEXT」。表紙のキャパもさわやかでいい。

 

写真を撮る人なら、カメラマンと言えば? と聞いてたぶん一番にその名が口にのぼるであろうカメラマン、ロバート・キャパ。その作品「敵弾に崩れ落ちる義勇兵」は、撮られた状況については諸説ありますが、歴史的一枚と言っていいくらい有名です。

 

さて、なんとなく予備知識として知っているロバート・キャパですが、わたしも沢木耕太郎著「キャパの十字架」は読みました。ではキャパの生涯について詳しいですね? と聞かれたら、遠くを見る目で黙りこむくらいの知識です。調べてみたら、集英社版・学習漫画 世界の伝記NEXTで、ロバート・キャパの本があるではありませんか。伝記漫画でカメラマンを見ることは今までなかったので新鮮です。

 

でも……そうはいっても漫画でしょう? 子供向けでしょう? という方に。別の伝記漫画シリーズに携わった知人がいるのですが、伝記漫画は子供が学習のために読むもの、ということで、特に考証は大人の読み物よりはるかに厳しいのだそうです。書かれている情報が正しいかどうかもそうだし、絵に関しても専門家による何重もの厳しいチェックが入るのだとか。

 

伝記漫画が昔好きだったという読者の方もいらっしゃるかもしれません。ちょっと表紙を見ていただきたい。なんというか、少年サンデーなどで連載されているような絵柄で、今風ですよね。最近の子供は古い絵柄の物をまったく手に取らないみたいなので、どうキャパを魅力的に描くかを研究し尽くした上でのキャラクター化なのでしょう。

 

裏表紙。少年時代のエンドレ(後のキャパ)です。 

 

さて、キャパの誕生から話は始まりますが、学習漫画なので、歴史上では今、カメラはどんな時代なのかということも軽く触れられます。カメラが小型になって持ち運びができるようになったこと、写真が戦争の記録に使われるようになったことなども。
 

ロバート・キャパ、本名エンドレ・フリードマンは、ユダヤ人家庭の次男として、ハンガリーのブダペストで1913年に生まれました。その時代にユダヤ人として生をうけることがどんな意味を持つのか、その時代背景がわかりやすく、かつ生き生きと漫画で描かれています。

 

わたしは歴史が、とくに世界史があまり得意ではありません。小説は読むほうなので、ごく一部の時代の局地的なことには詳しかったりするのですが、それにしたってぶつ切りの知識で、世界全体を大きくとらえて歴史の流れを見るのは今でも苦手です。
 

この世界の伝記NEXTのいいところは、読んでいて自然に時代背景が頭に入ってくるところ。ハンガリーでの社会主義的な芸術、ラヨシュ・カッシャーク主催の雑誌「労働(ムンカ)」が写真の世界にも影響を与え、エンドレ(後のキャパ)がドキュメンタリー写真に触れたのもその雑誌だったということに(なるほどな……ここに下地が)と思ったり、ユダヤ人として差別を受けたりしながらも、少年らしく切り抜けていく様子も丁寧に描かれています。

 

中身を少しだけ。世界の伝記NEXTシリーズは、読みやすいだけでなく、あとで気になる所を自分自身で深掘りできるような話題が満載で面白いです。

 

世界地図もあってキャパの人生を俯瞰できます。 

 

1931年、ドイツのベルリンに渡ったエンドレは通信社「デフォト」の暗室係として働き始めます。その後撮影の仕事へ――というところで出てきたのが、ライカ1型。エンドレのもとへ大きな仕事が舞い込んできます。
 

革命家トロツキーを撮れ、という命令です。暗殺を恐れてトロツキーはカメラの持ち込みを禁止しましたが、ライカ1型ならポケットに入ります。トロツキーの演説に聴衆が聞き入っている隙を突いて、撮影するのです。
 

エンドレは見事撮影に成功、その写真は紙面に大きく使われ、カメラマンとしてのキャパのデビューとなった、とさらっと描いてありました。でもですよ、ライカ1型って、触ったことがありますが、ファインダーもものすごく小さいし、距離計連動ではないし、フィルムのその時代だと感度も低かっただろうし、ライトの光も弱いし、よくもまあ壇上のトロツキーをライカ1型でうまく撮れたものだなと思って、やっぱりキャパはすごいのだな、肝が据わっているな……と思いました。
 

ライカ1型が1930年発売、キャパがベルリンに渡ったのが1931年、ちょっと時代がずれていたら、例えばまだ大判カメラの時代だったなら、エンドレはキャパとして存在していなかったのかもしれないな、と思うと歴史のめぐりあわせを思います。

 

その後、ゲルダ・タローやヘミングウェイとの出会いがあったり、改名のエピソードや、第二次世界大戦の「ノルマンディー、オマハビーチに上陸するアメリカ軍の部隊」がどういう状況で撮られたかなど、数奇な運命をたどったキャパの人生が描かれていきます。マグナム・フォトの由来が何だったかのエピソードも、恥ずかしながら今知りました。(なんとなく、ずっと拳銃のマグナム由来だと思ってました……)

 

この学習漫画 世界の伝記NEXTでいいのは、写真に関しては実際のキャパの写真が挿入されているところ。数々の有名な写真に見入ります。世界地図も年表もしっかりそろい、巻末には解説も。もちろん当時のカメラもたくさん出てきます。キャパの人生を一冊にわかりやすくまとめたこの世界の伝記NEXTで、キャパの人生に思いをはせるのはいかがでしょう。

 

作中、実際の写真が使われているのもいいですね。

 

解説は写真家の長倉洋海氏。「戦場カメラマンという仕事 ~キャパの笑顔について~」

 

キャパの愛機のニコンSとコンタックスⅡ。

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