top コラムカメラ的本棚第20話 「君は放課後インソムニア」オジロマコト(小学館)

カメラ的本棚

第20話 「君は放課後インソムニア」オジロマコト(小学館)

2023/05/23
柊サナカ

このコーナーでは、カメラ・写真を題材とした漫画と映画のことを書いています。ところが、その作品選びが意外に難しい。漫画では、カメラがほんの飾りで、機種が何かわからないもの(わかります……作画大変ですものね)、使い方が間違っているもの(読者のみなさんからは鋭いツッコミが入るはず)等々、おすすめしにくい作品もあります。
 

わたしが読んで面白いなと思ったもの、年代が古すぎず、なるべく現在も新品で入手できるもの、それでいて、写真とカメラの楽しさに満ちている漫画となれば、探すのはとても難しくなります。
 

でもありました! 見つけましたよ、すごく素敵な作品を!
今日は、「君は放課後インソムニア」を、ぜひおすすめしたいです。

 

背表紙も美しい。 

 

主人公は、中見丸太、高校生。悩みがあります。それは、夜に眠れないこと。インソムニアは不眠症。みなさんにも経験があるかもしれませんが、眠れない日というのは、本当に辛いですよね。それが続けば大変です。人間寝なければ死ぬので、当然、昼間眠くなります。そんなわけで、夜眠れない中見は、昼、学校で居眠りをしたり、ぼーっとしたり、無気力に過ごしています。
 

中見の学校には、学生の間で語られる、恐怖の伝説がありました。それは、とうの昔に廃部になった、天文部のお話です。屋上の天文台には、思いを残した女子生徒の霊が出る――そのいわくつきの天文台は物置となっており、いまは霊を恐れて誰も近づきません。

 

そこへ、中見は頼まれて段ボールを取りに行くことに。
屋上の天文台に上がってみると、静かで、落ち着いた空間が広がっていました。ここなら誰も来ないでしょう。安心して眠れそう。中見は、いい場所が見つかったとばかりに、昼寝を開始しようとします。
 

中見が何気なく、箱の中を見ると。
誰か、いる。
横たわる女子生徒。
その女子生徒は、ぱちっと目を開いて……。
驚いた中見の前に現れたのは、霊ではなく、同じクラスの女の子でした。名前は曲伊咲。
なんと、伊咲も昼寝をしていたようで。しかも、ふたりは鍵の古い天文台に閉じ込められてしまって……。

どうなっちゃうの?

 

どうです? ぜひ一話だけでも読んで欲しい。オジロマコト先生の描くキャラクター、本当に透明感があって素敵なんです。もう一話の前半でわたしは心を掴まれてしまい、どんどん読み進めることに。

 

なんと、二人の眠りの天文台は、ある日とうとう先生に見つかってしまうんですよ。このままでは大きな問題になってしまう。

 

そこで、中見は、

――俺が、天文部の部員になれば ここにいられますか――

と言うのです。

 

カメラ、どこに出てくるねん、と言いたげな読者のみなさま。ここからなんですよ!
天文部と言えば、天体写真ですよね。卒業生で、天文部の先輩、白丸結は、全国高校生天体写真コンテストで大賞を取るという、すばらしい成績をおさめていました。
彼女の指導の下、二人は天体写真の美しさ、楽しさにはまっていきます。
 

中見の愛機はキヤノンEOS 5D。夜眠れない中見は、星の美しさを撮ることに情熱を燃やすのですよ。そして同じく夜眠れない伊咲も、行動を共にし……。

 

わたし実は、恋愛漫画は、女性ものも男性ものも苦手なんです。子どもの頃見ていた漫画は、「北斗の拳」「ドラゴンボール」「富江」と、まったく恋愛ものを通らずに来てしまいました。男性向け恋愛漫画では、(この普通の主人公に都合良く、六人も七人も女の子が夢中になってたまるか)(そんなところでパンツが見える女はおらん)となり、女性向け恋愛漫画では(すました顔してるけど淫行で捕まるのでは?)などと思い、たぶん、恋愛漫画特有の、願望と欲望が入り交じったマグマみたいなものが苦手なんだろうと思います。

 

ところが、この「君は放課後インソムニア」生臭い方向に行こうと思ったらどこまでも行けるだろうに、日本中の青春を集め、その中から青春の生臭みと欲望と願望のマグマとかそういう雑味を取り除き、さらに上澄みだけをていねいにすくって熟成させたような青春のきらめきの、なんと美しいこと。これは青春の宝石や! とつぶやきましたね……。

 

そしてこの物語はオジロマコト先生の、完成された美しい絵によって命がこもるのです。すばらしい透明感。嘘だと思ったら試し読みなどを見て欲しい、女の子の動きも本当に魅力的なのです。これは、女性も男性も楽しめる名作、と思ったら、なんと今年、「君は放課後インソムニア」実写映画化、しかもアニメも放送中だとか。どちらもとても楽しみです。

 

伊咲も可愛い。清潔感にあふれていて、ほんとうにかわいい。 

 

こんな面白い漫画を、どうして見逃していたかと言いますと、キーワードを「カメラ」「写真」で必死に探していたからなんですね。たまたま、新刊の12巻表紙に女の子がカメラを持っているのを見かけて、これは……? と思いつつ、一巻を読んだらめちゃくちゃ面白くてはまった、という次第です。
 

見てみると、「君は放課後インソムニア」というタイトルも素敵ですよね。わたしは作家ですが、タイトルを付けるのはほんとうに苦手です。自分のつけた仮タイトルが最後まで残ることはほぼなく、編集部の手によってタイトルが決まります。わたしなら、「天体写真○○」「○○天体写真の夜」みたいにしてしまって、このタイトルの輝きと透明感をなくしてしまったかもしれません。
 

わたしの青春、どこをどうさがしてもこんな素敵な感じのエピソードはなかったのですが、こんな感じの青春時代を過ごした読者のみなさんも、そうでないみなさんも、みんなで楽しみましょう「君は放課後インソムニア」。面白いです! そして一緒に、青春のきらめきに悶えましょう。

 

 

作中の撮影風景。天体写真、いいなあ。いま高校生だったらぜったい天文部に入っていました。

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