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カメラ的本棚

第34話 「明日を綴る写真館」 秋山純監督

2024/07/23
柊サナカ

題名に”写真館”。主演の平泉成氏が、ちょうど映画の公開に合わせてテレビ番組に出ていて、趣味でもよく写真を撮っていると言っていました。お孫さんの写真なんかを撮られるそうですね。主演俳優の趣味がカメラ、題名に写真館、そしてテーマに写真となると、気にならないわけがない。
 

主演は平泉成――と聞いて、“?”と思った人もいるかもしれませんが、顔を見たら絶対知ってるあの方です。「シン・ゴジラ」で、ものすごく印象的な場面で出てきたり(いい場面でした……)「天気の子」でいぶし銀の刑事の声を演じたり、あまりに演技が上手すぎてスッと場面になじみ、見たすぐ後ではあまり印象に残っていなくても、何年経っても「ああ、あの時の」と思い出せるタイプの俳優だと思います。御年80歳、この映画が初の主演だと知って驚きました。
 

この映画は開始すぐ、タイプの違うふたりのカメラマンが登場します。さびれた写真館の老カメラマン鮫島武治(平泉成)と、東京で活躍中、新進気鋭の若いカメラマン五十嵐太一(Aぇ! group 佐野晶哉)。このふたりが使うのが、フィルムカメラであるNikon FM2と、デジタルカメラであるNikon Z fなのです。

 


 
売れっ子カメラマンの、カメラに熱意を失いかけているやさぐれた雰囲気と、実直な老カメラマンとの対比が冴え渡ります。そもそもフィルム一眼レフとミラーレスなので、撮り方も構え方もシャッター音もぜんぜん違う。世代の違うカメラマンと、世代の違うニコンのカメラが同じ画面におさまって、そこへタイトルが重なる。冒頭でもう、Aぇ! group 佐野晶哉ファンだけでなく、カメラファンも先が気になるのではないでしょうか。
 
三年連続で賞を取っており、インスタのフォローも何十万人の大人気、東京のキレキレカメラマン五十嵐が、仕事をキャンセルして、さびれた写真館のカメラマンに弟子入りをする展開になるのですが……わたし知ってますよ、これ、嫌いな方いないですよね? 若い世代が「弟子にしてください!」と頭を下げて頼みに来る。「東京に帰りなさい」と諭しても、頑として帰らない。
 
わたしはもちろん、「弟子にしてください!」と頼み込まれたことはないので、想像ですが、きっと、仕事の世界で、若手から「お願いします! どうか教えてください!」と言われることは、自分のやってきたことが間違いでは無かったことが、はっきりとわかる瞬間なのではないでしょうか。しかも「東京に帰りなさい」と断っても、「やっぱそうかー、ですよね、失礼しました」とすぐ引き下がるのではなくて、(首を縦に振るまでここを動きません!)的な態度で来る。こんなに自分を肯定される事ってあります? 
 

わたしは平日に見に行きましたが、わたしより上の世代の方も多かったのはこれか、と思いましたね。この映画は、若手目線で見るか、ベテラン目線で見るかで楽しみ方が違うと思います。
 


年の差58歳のふたりのカメラマンで、舞台は写真館ですから、写真にまつわるいろいろなストーリーが展開します。写真は思い出と共にあるものですし、人生には“思い残し”がつきものですから、ついほろりとくるエピソードも。
 

そればかりでなく、市毛良枝・佐藤浩一・吉瀬美智子・高橋克典・田中健・美保純・赤井英和・黒木瞳と、ベテラン名優勢揃いという感じもすごい。

 


 
そして全編に出るのがニコンのカメラ。確認できた限りですが、FM2とZ f以外にも、FもD70sも、Dfも出ます。フィルムの時代からデジタルまで、世代を超えてずっとプロに愛されてきたカメラというと、この物語にはやはりニコンが似合うなあと思ったのです。カメラで世代を表せるのは強いですよね。もちろんプロに愛されてきたカメラというと、キヤノンもいいのですが、平泉成演じる鮫島の不器用で実直、寡黙なカメラマンは、(あっこの感じはニコン)と誰もが納得する似合いっぷりでした。他にも回想の背景にもニコンのポスターが登場したりと、ニコン全面協力の映画となっています。
 
さすがに名優・平泉成、佇まいに説得力があります。ただカメラを持って立っているだけでも、今まで写真館で長く勤め上げてきたお父さん、口数が少なくて息子ともすれ違っている、妻にもさんざん苦労をかけた、そんな人生が背景にうっすら見えてきます。本当に写真館の主人だったのでは? みたいに思えてくるほどです。

 


 

この映画には(意表を突くどんでん返し)(悪夢の事件)とか(裏切りと報復)なんかは出てきません。いいじゃないですか、大団円のあたたかな物語。普段はホラーかアクションしかあまり見ないわたしも、最後のサプライズにはほっこりしました。
 

あと、なんとなくですが、この映画のために集まった豪華な友情出演陣もそうですし、長く俳優人生を送ってきた平泉成さんの人柄も見えてくるようで、エンドロールの写真にも和みます。この映画そのものが、一冊のアルバムみたいでもあるなあと。
 

写真の大切さについて思いをはせました。

 

  • 明日を綴る写真館
  • 絶賛上映中!
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  • 出演:
  • 平泉成
  • 佐野晶哉(Aぇ! group)
  • 嘉島 陸 咲貴 田中洸希 吉田 玲 林田岬優
  • 佐藤浩市 吉瀬美智子 高橋克典 田中 健 美保 純 赤井英和
  • 黒木瞳 / 市毛良枝
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  • 原作:あるた梨沙「明日を綴る写真館」(BRIDGE COMICS/KADOKAWA刊)
  • 企画・監督・プロデュース:秋山純
  • 脚本:中井由梨子
  • 企画協力:PPM
  • 製作:ジュン・秋山クリエイティブ
  • 配給:アスミック・エース
  • ▪公式サイト:https://ashita-shashinkan-movie.asmik-ace.co.jp/
  • ▪公式X:@shashinkan_m(https://twitter.com/shashinkan_m)
  • ©2024「明日を綴る写真館」製作委員会©あるた梨沙/KADOKAWA

 

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