――これは 戦場カメラマン 故 一ノ瀬泰造の
生涯に基づく物語である――
冒頭は、この言葉から。
――求めよ さらば与えられん 叩けよ さらば開かれん――
マタイ福音書の一節に、アンコールワットの美しい朝焼けが重なります。
戦争の記録映像の合間にシャッター音が鳴り響き、そこへモノクロの写真が次々と挿入され、迷彩服を着た一人の男の姿が映し出されます。
時は1972年、4月のカンボジア。迷彩服で、カメラを片手に戦場を行く一ノ瀬泰造。
戦闘員に、クメール語で「日本の報道カメラマンだ!」と叫びますが「邪魔だ! 撃たれたいのか!」と言われてしまいます。
そこは戦争の最前線、銃撃に砲弾、生きるか死ぬかの本当のせめぎ合いです。目の前で銃撃を受け、くずおれる兵士もいて、そのすぐ側をカメラ片手に乗り込んでいく一ノ瀬泰造の姿を見ると、戦争報道写真家というものが、いかに過酷なものかよくわかります。
小さなくぼみのような壕の中に一ノ瀬と兵士が転がり入ると、その壕は満員になってしまいました。新しく逃げて来た兵は、仕方なく別の壕を探すことに。その兵士は一ノ瀬の目の前で無残にも撃たれてしまいます。きれいごとはなにも通用しない戦場です。一ノ瀬はその兵士のことも撮ります。
そんな危険な仕事ならば、さぞやお給料もいいだろうと思いますよね?
戦争報道写真家は、戦場から帰ったら、その写真のネガを現像し、切って報道機関に渡します。一ノ瀬は露出不足を指摘され、あがりは買いたたかれて10ドルだったりします。ヘルメットを撃たれて死にかけ、命からがら戦場から戻ったのに、たったの10ドル。ちなみに当時のレートで2,770円です。わたしはこの映画を見るのは20代のころぶりですが、昔よりも切実に、いろんなことを感じるようになりました。
わたしは戦争報道写真家の映画が好きで、よく見ています。(→「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」)それらはまだ、ひとつの物語として観ることができますが、一ノ瀬泰造役が浅野忠信、同じ日本人が戦場のただ中にいるということもあるのか、ある種の生々しさに息を呑みます。
写真家の仲間が、酒場で一ノ瀬に一枚のスクープ写真を見せます。それは、酔っ払った兵士がクメール・ルージュの捕虜を処刑し首を切断、その生首を持って楽しそうに笑っている写真でした。その様子はまるでハンティングか娯楽のよう。確かにスクープなのですが、一ノ瀬は「嫌な写真だ」と顔をしかめます。役の浅野忠信がまだ若いために、心の底からの嫌悪感にリアリティがあって、仲間からは「タイゾー。戦争を撮りに来たんだろう。これが戦争だ」と諭されます。
この映画は事実を元にした映画です。わたしは結末を知っていながらも、彼の様子に、若さゆえの勢いと、危うさを同時に感じました。
その酒場で殴り合いの喧嘩が起こってしまうのですが……。
この映画を見るときは、ぜひ、今ちょうど日本カメラ博物館で開催中の「沢田教一と一ノ瀬泰造」展も見ていただきたい。この映画と展示を、相乗効果で何倍も楽しめます。
目の前で人が死んでも、自分が死にかけても、報酬がたったの10ドルでも、それでも一ノ瀬泰造は写真をやめないんですよ。一体何のために?
それはぜひ映画をご覧になって、確かめていただきたいと思います。
20代当時のわたしは、仲良しの従姉と「地雷を踏んだらサヨウナラ」を見に行っています。ふたりとも、写真にも写真家にも、戦争映画にもまったく興味が無かったのに、この作品には映画館まで行って見ようと思わせるだけの、異様なパワーと魅力があると思います。今見ても古さを感じない「地雷を踏んだらサヨウナラ」、博物館展示と共にぜひ!
- ■日本カメラ博物館 特別展「沢田教一と一ノ瀬泰造」
開催期間:2025年9月30日(火)~2026年2月1日(日)
展示点数 写真:沢田、一ノ瀬それぞれ約25点 その他資料:約50点を予定
■JCIIフォトサロン
9月30日(火)~10月26日(日)
—報道写真家 沢田教一のまなざし— 「戦渦を生きる人々」
10月28日(火)~11月30日(日)
—戦場を駆けた写真家 一ノ瀬泰造— 「もうみんな家に帰ろー!」
開館時間:10:00~17:00
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日の火曜日)、年末年始 12/27(土)~1/4(日)(年始は1/5(月)から開館)
入館料:一般 300 円、中学生以下 無料、団体割引(10名以上)一般 200 円
住所:〒102-0082 東京都千代田区一番町25番地 JCIIビル
TEL:03-3263-7110
https://www.jcii-cameramuseum.jp/news/2025/08/19/37488/


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