YouTubeより
カメラマンの仕事って、気になりませんか。
しかもそのカメラマンが、アメリカ大統領専属カメラマンだったらどうでしょう。
今日はそんな「大統領のカメラマン」というドキュメンタリー映画を紹介いたします。
わたしは人を撮るのがほんとうに苦手で、いつも無駄に緊張するために、手ブレやピンボケがひどく、職業的に人を撮ること、ましてや大統領を撮るなんて重圧には、耐えきれそうもありません。
日本にも首相専属カメラマンがいるのかどうかはわかりませんが、この大統領専属カメラマンという仕事は、アメリカではケネディ政権のときに生まれた職業だそうです。
そのとき副大統領だったL.Bジョンソンが、ヨウイチ・オカモトを雇い、旅に同行させたことが始まりだったそう。ニコンFシリーズを持って、キリリとしたオカモト氏の姿に見入ります。(あたりまえですが、当時はフィルムだったのですよね。よくフィルムで失敗なく写せたな、プロだな……と感心します)
大統領専属カメラマンは、好きなときにホワイトハウスにいつでも出入りして、写真を撮るのが仕事です。撮影するのは、雨の中の演説のような、政治家としての公の活動時だけではなく、食事しているとき、子供と遊んでいるとき、赤ちゃんを抱いているとき、雪合戦など、プライベートも含めて、いろんな大統領の姿を撮ります。
ここでみなさんにぜひお伝えしたい。さすが大統領専属カメラマンだけのことはある。愛機はキヤノン派の写真家、ピート・スーザ氏、当たり前ですが、写真がめちゃくちゃうまい。オバマ元大統領の人柄、大事にしていること、思いや信念のようなものも伝わってくるような、見事な写真です。ポートレートのお手本にしたい。
しかし、なんでこんなに大統領のいろんな写真を撮るのかな、プライベートは政治活動には関係ないのでは? と思っていたら、その写真を大きく引き伸ばして、ホワイトハウスの廊下に、二十枚ほど貼り出すことが慣例として行われているそうです。その廊下の写真は、二週間ごとに交換されるそう。
ホワイトハウスのスタッフ達もその写真を見て、大統領の人となりを深く知ることになります。親しみも感じるでしょう。連帯の気持ちも深まるのではないでしょうか。
たぶん、日本ではこういうことはやってないはずです(ですよね?)。以前、写真を買う文化について少し書きましたが、すでにこういうところから日本とは写真に対する感覚が違うのだな、写真を飾る文化も含めて、生活に写真が大きな意味を持っているのだなと驚きました。
ちなみに、大統領専属カメラマンが撮った写真を、ネットに公開することが始まったのも、オバマ政権の時だったのだそう。ピート・スーザ氏の写真、どれもすばらしいものでしたから、大統領のイメージアップの、大きな助けになったことでしょう。
ドーン・オポーター監督のこの映画は、大統領の専属カメラマンのドキュメンタリーとあって、政治的な事柄にもかなり踏み込んでいます。(オバマ後の政権については、写真をうまく使ったすごいやり方で叩いています。写真というもののメッセージ性をうまく利用した、これ以上ない煽り方だなあと感心しました。わたしが相手なら、相当イライラしそう)
わたしはドキュメンタリーを見るときには、なるべく中立な立場で見るように、見ているうちに考えが偏ったりしないように心がけています。ドキュメンタリーでは、作り手の視点が入ってくるのは避けられないからです。
ですが見るうちに、わたしの心もどんどんオバマ派に。オバマ氏、すばらしい人柄だったのだろうなと。いや、たった一行で考えを覆すなよと思うかも知れませんが、それだけ撮られた写真が素晴らしいのです。
心にじんとくる写真の数々。いち日本人のわたしでさえ、写真にこれだけ影響されるのですから、これらの写真をリアルタイムで見た、当時のアメリカの人たちへの影響はいかばかりだったでしょう。こうなると、写真が世相を変えたのではないか、とも思えてきます。
しかし、(こんなのよく撮れたな)と感心するようなカットもたくさんあります。まったく無防備な大統領の姿も、くすりと笑えるような姿も。ちょっと日本では考えられないような写真も多くあります。それだけカメラマンに心を許しているのでしょう。
わたしは、プロのカメラマンの方ともお会いする機会が多いのですが、特に人を撮るカメラマンの方は、明るい方が多い印象です。以前、集合写真を撮るときにも、カメラマンの指示の出し方が面白くて、ついくすくす笑ってしまい、みんなとてもいい表情で写っていました。写真に撮られるのが苦手なわたしでさえ、自然に笑っているくらいでしたから、人当たりがいいことも、カメラマンの資質のひとつなのかもしれませんね。ピート・スーザ氏の集合写真の撮り方も面白かったので、見ながらつい笑ってしまいました。ぜひみなさんにも見ていただきたい。
任期が終わり、ホワイトハウスを後にするオバマ元大統領。飛行機の座席から、窓の外を眺めているカット。その飛行機の窓に、ホワイトハウスがうっすらぼけている写真にもうなりました。
ニュースや新聞で繰り返し見た、あの歴史的瞬間の背景も知ることができます。機材好きな人には何の機材を使っているかを見るのも楽しいですし、普段知ることのできない、大統領専属カメラマンの仕事内容も興味深いです。ポートレート写真に興味のある人はぜひ。
初代大統領専属カメラマン、ヨウイチ・オカモト氏にちなんで、同じNikonでわたしのF3を。
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