©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
「兄を持ち運べるサイズに」なんとも興味を惹かれる題名です。物語は、疎遠だった兄が亡くなった報せを、警察からの電話で知るところから動き出します。主人公の理子は、「ええっ! 兄が! なんということでしょう!」と取り乱してオイオイ泣くこともなく、「はい、はい。ええ。わかりました」と淡々と引き取りの日時を決めていきます。なんともドライな様子に、「お母さん、悲しくないの?」と息子たちが引いてしまうくらい。
わたしは、(ああ、これ、わかるな……)とちょっと思ってしまったのです。家族親族みんな仲良しで和気あいあい、何の問題もなかった人にはちょっと想像しにくいかもしれません。家族や親族、血のつながりがあろうとも、特にお金の問題なんかが絡むと、わだかまりはずっと残るものです。

なんでそんなに実の妹の理子がドライな対応なのかというと、この兄が、めちゃくちゃな人間だからです。ろくに働かず親のすねかじりをしたあげく、親が病気になると逃げ出して介護を拒否、葬式では香典をむしりとり、その後も妹に金をせびり続ける……書いていても(ダメ兄だなあ)と思ってしまう。
それでもですよ、この兄役がオダギリジョーなのです。派手なアロハを着て自転車に乗り、前カゴにペットのカメを乗せ、肩にカラフルなインコのオモチャを付けて、背中にはミニギター、定職に就いていない感じのリアリティがすごい。きっと役を離れたオダギリジョー氏本人は、私生活も真面目ないい人だろうと思いますが、親族に一人はいそうな、問題ばかり起こす、ちゃらんぽらんなおじさんのイメージに、これほどハマる役者もいないだろうと思います。

葬式の場面では(わたしだったら助走を付けて殴ってしまうな……)と思いながら観ていましたが、それでも、わたしも最終的には金を渡してしまうだろうな、と思いました。なぜなら兄がオダギリジョーだから。
ただイケメンだからじゃないですよ。横浜流星がもし兄役なら、どこか具合が悪いのか、人生設計はどうなっているのか、ホワイトボードを手にこんこんと説教してしまうかもしれません。ですがオダギリジョーの兄には、なんかもう、何も言えずにあきらめてしまう雰囲気があります。言語化しにくいですが、オダギリジョーだから、としか言えません。映画をご覧になったら、わたしの言いたいことは分かると思います。ぜひ観ていただきたい。
兄の後始末をしに、兄の家族だった人間達が、東北のある街に集まることになります。元嫁、元嫁が連れて行った娘、兄の急死により児童相談所に引き取られている息子も。そこで、兄の知られざる一面が次第に見えてくる――という物語です。

さてこのコラムはカメラと写真のPCTのコラム、カメラは? 写真は? と気になっている読者もいることでしょう。
ほんとうにダメ兄! 大嫌いだった! 死んでからも迷惑かけまくって! 本当にどうしようもない奴! となっていた気持ちが、あるものを目にすることで、少しだけ変わります。
それは壁に貼られた写真でした。
写真というもののあり方を、これだけ示したシーンはないだろうとわたしは思います。今はどこにもないその光景も、写真の中には存在します。
わたしは、予告で写真のシーンを見かけて、あっ、観に行こうと思いました。ちなみにこの映画、わたしが観て好きだった「浅田家」の中野量太監督が脚本も書いたとのこと、原作は村井理子『兄の終い』。なんと実話ベースのエッセイと聞いてまた驚きました。

映画の冒頭に映る言葉があります。
――支えであり 呪縛ではない――
最初は何のことかぴんとこなかったこの言葉は、あとでもう一回出てくるのですが、そのときには、腑に落ちるとはこのことだ、と思いました。
映画館では涙する人もいれば笑い声があがったり、家族というものをじっくり考える充実の127分、皆様もぜひご覧になっていただきたい。

- 『兄を持ち運べるサイズに』
- 脚本・監督:中野量太
- 原作:村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
- 製作:「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会(カルチュア・エンタテインメント/TCエンタテインメント/テレビ東京/北京信诚天地科技有限公司Dinsong Culture Limited/パイプライン)
- 制作:プロダクション:ブリッジヘッド/パイプライン
- 製作幹事:カルチュア・エンタテインメント
- 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
- ©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会
- https://www.culture-pub.jp/ani-movie/


PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。
「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント