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カメラ的本棚

第37話 「シビル・ウォー アメリカ最後の日」アレックス・ガーランド脚本・監督

2024/10/18
柊サナカ

わたしは初日の初回にこの映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」を見て、これは我がPCTの、カメラ好きの読者のみなさまにはぜひ観て欲しいカメラ映画だと思いました。家に帰るなり、前のめりにこれを書いています。
 

もちろん、カメラ好きでない方にもこの映画は面白い。でも、カメラを使っている人にこそ、深く刺さるのではないかと思うのです。
 

この映画の主人公は、ベテランと駆け出し、二人の女性戦場カメラマンです。
 

この映画の舞台はアメリカですが、正確に言うと現在のアメリカではありません。テキサス・カリフォルニア同盟からなる西部勢力と、政府軍の内戦が続いているという、ある意味ifものというか、フィクションの話です。それでも、今のご時世、この分断はもしかして未来のアメリカの姿かも……なんて恐ろしい想像をしてしまうほどに真実味があります。アメリカで大ヒットした理由もわかります。
 

映画冒頭、いきなり容赦のない戦闘が始まるのですが、ぜひ音響のいい映画館で見ることをお勧めしたい。音がとにかく立体的なのです。観客であるわたしも、戦闘のただ中にいるみたいに、耳元を弾がかすめるような気がして身をすくめました。音に撃たれた経験をしたのは初めてです。

 


 

さっきまで生きていた人たちが、一瞬後にはあちこちで肉塊になっているような戦闘の中、カメラを手に、主人公の女性戦場カメラマン、リー・スミスは撮影を続けます。ベテランの戦場カメラマンらしく、SONYのロゴを黒テープで消したSONY α7Rに望遠の白レンズを付けて冷静沈着です。
 

そこへ、同じようにカメラを持った女性が――それもまだ少女みたいなあどけなさを残した若い女性が、なんとフィルム機であるNikon FE2を構えて、同じように、戦闘を撮ろうとしているのです。リーは危なっかしい彼女を見かねて助けることに。

 


 

この映画は、A地点からB地点へ行くという、一種のロードムービーとも言えます。大統領への取材をするため、ジャーナリストチームが、スタート地点のニューヨークから、ワシントンD.Cへ向かうというストーリーです。ですが、そこに行くまでには西部勢力と政府軍の激しい争いの中を行かねばなりません。精鋭で向かわなければ命が危ない。
 

ジャーナリストチームは、戦場カメラマンのリー。彼女は最年少でマグナム会員になったほどの実力を持つ、ベテランのカメラマンです。カメラマンがいるならライターも必要、ということで気のいい男、ジョエルも同行します。そこへ、リーの師であり、もうおじいちゃんと言っていいほどの老齢のサミーも加わり、この三人でひとつのチームを作って、報道(PRESS)と大きく書かれたボルボに乗り込み、大統領に会いにワシントンD.Cまで行くことに。
 

と、そこへ半ば強引に入ってきたのが、Nikon FE2で戦場を撮ろうとしていたジェシーです。彼女は自称二十三歳の写真家ということですが、表情などを見ていると、まだ十代のような幼さを残しています。リーは危険だと反対しましたが、どうしても行きたいということで、この危険な旅にジェシーも同行することになりました。

 


 

いや、なんで近未来なのにNikon FE2なの? と思う向きもいらっしゃるかと思います。内戦で電気の供給も不安定になっており、ときどき発電機で電気を起こさないといけないという描写があり、途中で充電が必要になるデジタルカメラは、旅の途中で使えなくなる可能性があります。プロのカメラマンであるリーたちはバッテリーの数にも余裕があるでしょうが、まだ駆け出しのジェシーが、父のフィルム機+モノクロフィルムを相棒としたのにも納得です。アナログは強し、ですね。
 

このNikon FE2とモノクロフィルムが映画にすごい効果をもたらしているので、カメラをお使いの方は全員、ハッ! と息を呑むと思います。Nikon派のみなさん、とくにフィルム機を愛用しているみなさんは、胸を打たれることでしょう。

 


 

カメラマンの話ですので、他にも、カメラ好きなら(ああ、わかる……)となるところが随所にあります。あとで現像したら露出が不足で凹んだりということ、ありますよね。撮れ高を気にしたり、ベストショットを求めて前へ進んでしまうカメラマンの業みたいなものも、カメラを使う者にこそ、身にしみてわかるのではないかと。
 

しかし、リー・スミスを演じたキルスティン・ダンストですが、彼女といえば若い頃にスパイダーマンでヒロイン役を演じていたことで有名です。ファンにはすみませんが、わたしは若いときのキルスティン・ダンストにそれほど関心はありませんでした。でもこの作品のキルスティン・ダンストは眉間にしわを寄せていつもすっぴん、力強く戦場を歩き、ぼろぼろのカメラバッグを肩にかついで手にはSONY α7R、というベテラン戦場カメラマンを演じていて、その佇まいが素晴らしくかっこよかったのです! この映画で彼女のことが大好きになりました。(ちなみに、パンフレットも買いましたが、彼女は役作りのために、自主的にカメラマンとチームを組んで、カメラを常に側に置いて自然に撮影ができるまで撮りまくったとか。納得の名演技です)

 

購入した「CIVIL WAR」劇場パンフレット。なんだか某雑誌のようですね……値札を剥がさなくちゃ、と思ったら、これ印刷で、細かいところまで雑誌を模していて面白いです。

 

彼女を慕う駆け出しのカメラマンのジェシーは、この過酷な旅の中で、本当にいろいろなことを経験し、戦場カメラマンとして成長していきます。
 

その姿に昔の自分を重ねるベテランのリー。さあ一行は無事にワシントンD.Cまで行き、大統領へのインタビューは成功するのか。ぜひ映画を見て確かめていただきたい。

 


 

ちなみに途中、めちゃくちゃ怖い場面があり、日本人であるわたくし心拍数がガンガン上がり、アップルウオッチが反応したくらいでした。カメラ好きは全員観て欲しい「シビル・ウォー アメリカ最後の日」最後のスタッフロールまで見逃せない素晴らしい一作、ぜひご覧になってください。


 

  • 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
  • 公開日:10月4日(金)
  • TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
  • ⓒ2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY.  All Rights Reserved.
  • 配給:ハピネットファントム・スタジオ

 

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