Netflix映画『さようなら、コダクローム』独占配信中
みなさんは、コダックの「コダクローム」というポジフィルムを使ったことがあるでしょうか。わたしはカメラを始めたのが遅かったものですから、コダクロームは2009年にすでに販売停止となっており、外箱のデザインしか見たことがありません。
このコダクロームは現像処理が特殊で、メーカーでしか現像ができず、2010年12月30日受付分をもって、現像処理も終わったそうですね。
映画の中には、テーマに対する予備知識というか、そのもの自体になじみがあれば、二倍楽しめる映画があります。このNetflix映画の「さようなら、コダクローム」はその最たるもので、もちろん、カメラを知らない方にはひとつのロードムービーとして楽しめると思いますし、フィルムカメラを使っていた人、使っている人は本当にぐっとくる映画だと思います。
この作品は、カンザス州、パーソンズにある、コダクローム現像所(KODAK K-LAB)最後の日に向かって、ドラマは進んでいきます。フィルムがどんどん無くなっていく今、胸に迫るものがありました。
「何が良いのかよくわからなかったです」などと書いてあるレビューを見かけると、うるせえコダクロームぶつけるぞ、と思うわけです。
未見の方にネタバレしないように気をつけつつ、あらすじを。
まず登場人物の一人、息子・マット。この息子は妻とも離婚、仕事もクビになりそうという、人生どんづまりの雰囲気をまとう、くたびれた中年です。そこへいきなり現れたのはゾーイという女性の看護士。
その看護士は、父の看護を担当する看護士で、”あなたの父親のベンが、末期ガンでもう先がない。なので四本のコダクロームのフィルムを、コダックの現像所まで届けるのを手伝って欲しい”などと言うのです。
さすがアメリカ、フィルムの現像所までサッと行って二時間で帰れるとか、そういうスケールではありません。車を運転して一週間以上もかかるようで、長旅になります。
さて息子のマットは困った。仕事も綱渡り状態、クビになりかけの所へ、そんな悠長なことをしていられません。わたしは、フィルム現像とか、郵送では無理なのかな? と思って観ていたら、ちょうど息子も「そんなもの郵送で送れ」と言い出します。しかし、父親のベンは、かつての有名カメラマンなため、責任を持って自分の手でフィルムを現像所へ出したいのだと。この旅について行けば、大口の仕事を一つ紹介してもらえる、という流れになり、自分のクビを回避するためにも、父親と看護士と息子の三人で、渋々、現像所までの旅に出ることに。
さて、この父親のベンなんですが――カメラマンに限らず、アーティストには二通りいると思うんです。ああ、この人、家庭ではいいパパで、良い夫なんだろうなというタイプと、この人、家庭とか絶対に持ってはいけない人だな……というタイプと。父親のベンは間違いなく後者です。最初に画面に登場するところから度肝を抜かれます。演じるエド・ハリスは1950年生まれということですが、かつてはたいそうモテただろうな、ということがわかるような、色気ある末期ガンのおじいちゃん役を演じています。
この父、まあ性格のくせが強い。家庭を顧みずやりたい放題。妻の葬式にも撮影で参列せず。そのアクの強い性格のため、息子とも他の親戚とも長年、絶縁に近い状態でした。
まあ、どのくらいアクの強い性格かというと、息子とちょっとよい仲になりかけていた看護士に「おい、それで昨日の晩、お前らはヤったのかヤってないのか」と面と向かって二人に聞くくらいに強い。
もしかしてアメリカならオープンそうなので、「嫌だなあお父さんHAHAHA」となるのかなあと思いきや、決してそんなことはなく、二人の間は微妙な雰囲気になって、見ているこちらは(もー! ちょっとお父さん!)という気持ちになります。
きつい皮肉を言い合う父と息子はずっとギクシャクし、その間で、三角関係みたいなあやういポジションでいる、魅力的な看護士の三人旅。
しかしながら、アメリカのどこまでも続きそうな広い道、広がる青空に雲、旧型のオープンカーに乗り込んだ三人が、現像所を目指してどんどん進むという絵はとても美しく。父の手にはライカM4-Pが握られており、それにコダック400を入れて、三人の道中を撮っていきます。
ひとが写真を撮る意味とは――。ついに、現像所最後の日であり、同時にコダクロームの歴史が終わりを迎える日もやってきます。父が撮った最後のフィルムには何が写っていたのか……。カメラ・写真好きにはぐっとくること間違い無しの一本です。コダクロームを実際に使っていた方がうらやましくてなりません。わたしも使ってみたかったです。
「さようなら、コダクローム」エンドロールまで素敵な映画でした。カメラ・写真好き、フィルムはコダック派のみなさんにはぜひ観て欲しい。
映画の最後に、〔この映画はコダック35ミリフィルムで撮影〕とあり、それにも驚きました。贅沢な話ですよね、たぶん一秒間に20コマとかで、なめらかな動画にするのでしょうから、映画一本撮るのにどのくらいのフィルムが使われたのでしょう。このデジタルでなんでもできてしまう時代に、さすがの陰影の美しさだなあと思います。
この「さようなら、コダクローム」が、いろんなところで評価される→コダックのフィルムでまた映画が撮られる→コダックのフィルム関係が潤う→フィルムがたくさん生産されるという良サイクルが来てほしいものですね。
予告編はこちら→https://www.netflix.com/jp/title/80216834
Netflix映画『さようなら、コダクローム』独占配信中。
ライカM4−Pではありませんが、わたしのライカM4とサングラス。オープンカーで、三人のサングラス姿がとてもかっこよかったです。
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