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カメラ的本棚

第1話 秋本治「ファインダー −京都女学院物語−」(集英社ヤングジャンプコミックス)

2021/12/07
柊サナカ

拙著『谷中レトロカメラ店の謎日和』を書く前のことです。まず市場に、どんなカメラ小説・漫画があるかをざっと調べたのですが、読んでみて面白い作品だなと思っても、レビューを見てびっくり。

 

☆1 カメラの描写に著しい間違いがあります。それは~(以下略)作者はもっと勉強を~(以下略)と、ストーリーそっちのけでカメラの記述の間違いが、スクロールしても終わりが見えてこないほどの、ものすごい長文、(この人はカメラの間違いに親でも殺されたのだろうか……)と心配になるほどの熱量で書かれてあったのです。
〈重要:カメラ好きはカメラの間違いを、絶対に絶対に許さないらしい〉とノートに書きとめながら、戦慄しました。

 

しかしながら、わたくし自身もカメラを少々自分でも買うようになり、写真も撮るようになって、カメラの描写間違いを何かで見つけると、脳内で(あっ……。ですよねえ、わかんないですよねえ。二眼レフは、そうは覗かないんですよ、惜しいっ、惜しいなあ、んーまあフィクションですからね)とか、(その画角のレンズでは、そうは写らないかもしれませんねえ……困りましたねえ、まあフィクションですからね)と、面倒くさいことこの上なく、上記のカメラの間違い絶対許さないレビュアー氏と、我が身も五十歩百歩だなと。
そんな風に、カメラの間違い絶対許さないぞ過激派がいる中で、カメラの描写にものすごく凝ってある作品があったら、それだけで(もう好き……)となってしまいませんか。

 

本日紹介するのは、秋本治『ファインダー ー京都女学院物語ー』(集英社ヤングジャンプコミックス)。秋本治先生と言えば「こちら葛飾区亀有公園前派出所」通称「こち亀」で、四十年間にわたって国民的人気を博し、コミックス二百巻でギネス世界記録にも認定されたという、日本を代表する漫画家のひとりです。
「こち亀」の魅力と言えば、そのときどきの世相が反映された、ギャグ漫画としてのストーリーの面白さと、両さんのマニアックな趣味(重機、戦車、車等々……)、未来を予測するような斬新なアイデア、蘊蓄の面白さだと思うのですが、秋本先生、こち亀のカメラ回の描き込みからしても、カメラも本当にお好きなんだろうなあということは、皆さんもご存じであろうと思います。

 

女子校写真部の物語「ファインダー」もカメラ漫画ということで、(まあそうは言っても、出てくるカメラはN社、もしくはC社、あるいはF社でしょうな……)などと思いながらページをめくったら、1ページ目、最初に出てきたカメラがトプコン REスーパー。もうそれだけで「参りました」という気持ちになりました。
ぜひ注目していただきたいのはひとコマ目、ファインダー内、露出の指標です(Tの字みたいな針が左右に揺れて露出を計ります。真ん中に来ているのが適正露出)という細かいところまで、凝りに凝った描写がなされているところ。
カメラ好きの皆さん!呼ばれてますよ!

 

 

個人的に、わたしもトプコン(ベセラー・トプコン スーパーD)を買ったばかりだったので、トプコン REスーパーは、もしかして秋本先生の愛機だったりするのだろうか、と思ってちょっと嬉しかったです。カメラが単に、ストーリー上のおしゃれ小道具として、曖昧にデフォルメされた作画で出てくるのではなくて、ファインダーが外せるところまで正確に描き込んであるところも、さすがなのです。
「面白さがあまりよくわからなかった」などというレビューを見かけると、わたくしチッと舌打ちしつつ、あなたに秋本先生の「ファインダー」の面白さの何がわかるんですかね、よく見なさいよ、ケンコーですよ、などと思うのです。

 

もちろんカメラをあまりご存じない人には、女子高生の明るい学園部活ものとして楽しめますし、カメラを知ってる人は知ってる人で、お楽しみポイントが多くて、秋本先生の仕掛けたこだわりのカメラネタを、存分に味わえるのではないかと思います。(写真部の部室の背景にも、あんなカメラやこんなカメラが色々と……お楽しみに!)

 

京都女学院の写真部「京女写真部」が舞台で、部員のタカコ、スズメ、チドリ、ツバメたちがいろんなカメラを持って、亀岡を行ったり来たり、賑やかにやりとりしているのを眺めるのも良し、ひとりひとり、誰がどんなカメラを持っているかを見て、何でこの子はこのカメラなんだろうと、にやりとするのもいいですね。
美人撮り鉄先輩や、強キャラの部長などに揉まれながら、こだわりのなかった部員達が、だんだんと写真を撮る楽しさに目覚めてくストーリーも爽やかです。わたしの高校時代には写真部はなくて、暗室のみが謎の暗黒部屋として残されていたのですが、こんな四季を「京女写真部」で過ごしてみたかったなあと……。
ところで、写真部でコンテストに出す題材が、「ある動物」だとボロクソに叱られるのは本当なのでしょうか。写真部出身の方に聞いてみたいものです。

 

かつて、全国の写真部でも行われたであろう、フィルムカメラからデジタルカメラへの世代交代の問題も扱い、しんみりしつつも、今後の希望も感じる読後感でした。
最後には亀岡観光ガイドも付いており、亀岡に憧れがつのります。

 

週刊連載のうち、月に一回は、カメラを題材とした漫画、小説、映画などをどんどん紹介できたらと思います。今、ありとあらゆるカメラ漫画を重点的に読んでいますが面白い!
次回もお楽しみに。

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